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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第五章 魔国
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第百十九話 最終話

 父の残り香と言う物は、勇者のスキルを指しているのかそれとも父の事を言っているのか今更確かめようがないが、俺にとってはあれが勇者ベンノそのもので、息子である俺を助けてくれたのだと信じたい。


 最後の力で俺の身体に刻み込まれた傷を全て消すと、俺の身体から何かが抜けて行き疲労感が全身に広がるが俺は何も痛みは感じない。

 戦場では新魔王となったはずのアレクシアの姿や気配そのものが消えてしまったので敵も味方も混乱しているようだが、俺はその様子を見ながら木にもたれかかって体を休めている。


「アル、何処だ。返事をしろ」


 暫くすると色々な声に交じって遠くでテオが俺を探している声が聞こえるが、俺にはその呼び声に答える程の力は残ってやしない。

 その内に発見してくれるだろう。


「おいっ何だよ、止めてくれよ」


 テオが何故か慌てふためいているようだが、その原因は直ぐに分かった。

 ドラちゃんがテオを口に咥えながら低空飛行で飛んでくるのが見えたからだ。


「こんな所で戦っていたのか……。どうやら全て終わったらしいな」


「…………」


「無理しなくていいよ、俺とドラちゃんで運んでやるからさ」


 まだこの場での戦いが全て終わった訳では無いのだから、俺の事は後回しでも構わないのだが、そのまま王都に真っすぐに飛んで行く。

 テオはドラちゃんの背中からその事を連絡してくれている。


「ルトロ副隊長、アルが魔王を倒しました。近くにあった魔石は全て砕け散っていましたのでもう大丈夫です。……はい。……はい」


 テオは俺の身体を抱えてくれ、穏やかな空の旅のはずなのだが残念ながら俺の身体は何も感じない。


「なぁアル、魔王の存在が消えたことで何処の場所でも魔族が混乱しているらしいぞ、指揮系統が滅茶苦茶らしいからこの分だと勝利は確実だってよ。ただ幹部連中が誰なのかハッキリしないから交渉はどうなるんだろうな」


 魔王とは何なのか俺には分からなくなってしまったが、またいつか現れるだろう。

 ただ魔王の核を取り込んだアレクシアを倒し、その魔石をしっかりと破壊したから直ぐには出て来ないと信じたい。

 もしかしたら勇者のスキルを授かる者が現れえる時に魔王が生まれるのかも知れない。


(儂は君を送り届けたら竜国に戻るな、前回はかなり竜魔王に迷惑を掛けてしまったからな)


(何だよ、頭の中で会話が出来るならもっと早く会話がしたかったのに)


(普段は波長が違うから無理なんだよ、今の君は例外だし、もうすぐ儂の声も聞こえなくなるぞ)


(そうなのか、残念だけど色々とありがとう)


(儂の方が礼を言うよ、君のおかげでやり直す事が出来たんだからな…………)


 残念ながらドラちゃんの声は聞こえなくなってしまったが、今まで通りに考えている事は分かっているつもりだ。

 俺は瞼が重くなり、温かい水の中にどんどんと沈んでいくようだ。


 戦いは直ぐに終わりそうだったが、魔族の幹部が統率力を見せどの戦場でも力は拮抗していたが、そこに竜の大軍が現れ強引に戦いを止めさせた。


 魔城は廃墟に近い物になってしまったが、そこの魔族の幹部が集結し復讐を企んでいたが、それを圧倒的な力で封じ込めたのが元の邪竜の姿に戻ったドラちゃんだ。


 ドラちゃんは人型の姿に変化する事も出来るようになり、今は魔国で魔王のような存在になっている。

 その報告をドラちゃん本人から聞いた時は思考回路が止まりそうになった。



 そして五年後


「ねぇいつまで仕事してんのよ、一緒にご飯を食べるって言ったでしょ、ちょっとミルトン、大人しくしてよ」


「こんな所で騒ぐなよ、仕方がないだろ終わらないんだから、いたっ、ミル、髪を引っ張るなよ」


 新たな領主館で俺は領主として働いている。

 一年間は意識が戻らなかったが、スキルが無くなる前に身体の全てを治していたおかげで短い日数で俺は復活する事が出来た。


 意識を取り戻すと直ぐに俺は遊撃隊を除隊してマイヤー領に戻り領主になる為の勉強を開始した。

 一年ほど前に祖父が亡くなり、それからは正式に俺は公爵の地位を引き継いでマイヤー領の領主となった。


 ミルトンとはディアナとの間に生まれた三歳になる俺の息子で、誰の血を継いだのか分からないがかなりやんちゃな子でいつもディアナに怒られているが、本人は全く気にしていない。


「勇者アル様、フィンレイ国王様が王宮迄来て欲しいとの事ですが」


「あのさぁ、勇者と呼ぶのは止めてくれないか、俺はそのスキルを持っていないんだよ」


「スキルは関係ありません。貴方は全ての民から認められた勇者なのです」


 俺はあの戦いがの詳細が全国民に知らされた後からは、何故か勇者と呼ばれるようになっている。


 俺自身はスキルを失ってしまい、この国で唯一のスキル無しなのだが誰もその事は触れて来ない。


 このままいくと、息子も「勇者」を期待されてしまうかも知れないが、どんなスキルだろうとも誰も気にしないそんな世の中になって欲しい。


「ねぇまさか王宮に行くつもりなの、そんなに仕事しかしないのなら実家に帰ってもいいんだけど」


「分かったよ、聞かなかった事にして三人で出かけようか」

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