第百十六話 魔城へ
ズーランド国との合流地点に向かう前に国王様からの激励の言葉があり、この戦いが魔国と最後の戦いになる事を望んでいるようだった。
ドラちゃんに乗り込む時に祖父が近寄って来る。
「すまんな、本当なら儂も行きたかったのだが、この国を守るには残るしかなくてな」
「そんな事は言わないで下さい。ちゃんとやり遂げて戻ってきますので帰る場所を守って下さい」
「それは任せろ、貴様が帰ってきたら次期領主の修行が待っているぞ」
この場に悲壮感はなく、誰もが明るい未来を夢見て飛竜に乗り込んで行く。
ヴィーランド大尉にも会いたかったが、彼は背後の脅威に備えて国境付近を警戒している。
飛竜部隊は快晴の空を気持ちよさそうに飛んで行き集合地点に舞い降りると、そこに飛竜の姿は無く、ガルーダの部隊が待ち構えていた。
直ぐにズーランド国の精鋭部隊の隊長がルトロの元にやって来る。
「それは構いませんが、何かありましたか」
ズーランド国は優勢に戦いを進めていたが、援軍が現れた事によって押され始めて来てしまったので、一刻も早く魔王を消滅させたいそうだ。
魔族の兵士の大部分が戦いに参戦したと思われたので直ぐに飛び立ち、迂回を始めた時にずっと聞けずにいたことをルトロに聞いてみる。
「ルトロさん、魔王を消滅させたからと言ってこの戦いは終わると思いますか」
「どうだろうな、文献や上の見解では一部の魔人は活発化するが、大部分の魔人は戦意を無くすそうだぞ、次の魔王は誰になるのか、それとも生まれるのを待つのか内部の争いに変わるそうだ。過去に魔国が落ち着くまで数十年はかかったそうだな」
「あくまでも文献だよりですか」
「前の事を知っている竜魔王の言葉でもあるんだ。それに今の魔王は好戦的であるから仕方が無いが、次の魔王が決まる前に竜魔王が仲裁に入る事も決定している」
「そうなんですが、そうなると次に仕掛けた方が竜国の顔を潰す事になるんですね」
「竜国を敵に回すことになるな、まぁ俺達も魔国には手出しできなくなるがな」
それでも平和が訪れるならいいが、いつの日か竜国が……変な事を考えるのは今は止めよう。
「魔国の領土に入るぞ、高度を上げるんだ」
ズーランド国の精鋭部隊の隊長であるオルトが叫び、ガルーダが一気に上昇していくので飛竜部隊もそれに付いて行く。
魔国の領土に入り緊張感が辺りを包み込み、暫く進むと先頭のガルーダから魔城を発見したと合図が入った。
精鋭部隊が一気に高度を下げて降下していくが、かなり大きな破裂音と共に先頭で降下していたガルーダと背中に乗っていた隊員が消滅してしまう。
「降下を止めろ、止まるんだー」
ルトロが大声で叫んだが、間に合わなかった、飛竜とガルーダが一匹ずつ同じように消滅してしまう。
俺達の遥か下には魔城が見えていて、それを守るように障壁が侵入者の侵入を拒んでいるらしい。
消滅してしまったガルーダの上にはズーランド国の隊長であるオルトが乗っており、指揮が乱れそうになったが、階級が一番上のルトロが二国の精鋭部隊をまとめることになった。
「こんなに離れているのに障壁が存在するなんてありえるのか……。ヘイデン出来るか」
「どんな障壁だろうと任せて下さいよ、その為にここに居るんですから」
ヘイデンが手を前にかざすとそこから光のドームが現れ大きくなって全ての飛竜やガルーダをその中に入れる。
「じゃあゆっくり降下しましょう」
まとまって降下していくと、徐々に大気が震え始め今迄見えなかった障壁が色を付き始めたと思ったらその障壁は粉々になって雨のように降り注いだ。
「副隊長、もう大丈夫ですよ、これ以外には邪魔するのもは無いですね、ただ申し訳ないですけど俺は限界です……」
口の端から血の筋を垂らし、そのまま意識を失って倒れてしまう。
ルトロはそっとヘイデンを寝かした後で全員に聞こえるように大声を張り上げた。
「いいか、もう邪魔する物は何もない。今度こそ突入するぞ。各部隊は何処でもいいから穴を開けて突入開始しろ」
急降下しながら飛竜部隊が次々と魔城に向けてブレスを放っていく、ドラちゃんも大型の火球を飛ばし、魔城はあっという間にその姿を変えて行った
魔城の中からハーピーやキメイラが飛び出してきて空中戦が繰り広げられようとするが、精鋭部隊はそれらを避けて魔城に突入する。
「ドラちゃん、空の敵は任したよ、いいかな」
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉ」
俺達を降ろした後でドラちゃんは舞い上がり、その周りには飛竜やガルーダも集まって来る。
いつの間にかドラちゃんは飛竜やガルーダを従えた様だ。
元の魂は邪竜で、魔王を食べたこともある位だからこの空はドラちゃんに任せれば心配はないだろう。
それよりも俺達が魔王を仕留めないと意味が無い。