第百十五話 時が過ぎて
結局一年以上になってしまったが、ようやく訓練が終わり王都へと帰還している。
竜国は自然そのものの国で、竜人が暮らしている場所はそれなりに文明が発達していたが、竜は洞窟が住処となっていて殆ど俺達と関わりを持たなかった。
竜人は俺達に国よりスキルの研究が進んでいて、自分では分からなかったスキルの可能性を簡単に明らかにされた。
ただそれは俺が求めていた物に近いようではあったが、似て非なる物で煮え切らない思いを抱えてしまっている。
その先があると思いずっと訓練を続けていたが、どうやらその先は訪れない様で、ドラちゃんの背中に乗って溜息をつくとテオが肩を叩いて来た。
「もういいじゃないか、どうせならディアナの事を考えろよ、もうすぐ会えるぞ」
「そうだけどさ、結局俺は前線で戦えない事が決まったようなもんだぞ、そんな簡単に切り替えできるかよ」
思わず泣き言を言ってしまったが、俺の声でルトロが起き出してしまった。
「まだ言ってるのか、仕方がないだろ、アルのスキルは温存させなければいけないんだ。それにスキルに頼らなくても力をつけたじゃないか」
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
ルトロに同調するかのように一回り大きくなったドラちゃんが咆哮を上げる。
ドラちゃんの生前の事が判明し、過去は王族の一族だったのだが暇つぶしに魔国を攻め、魔王を捕食した事によって邪竜となり一時は数々の国を滅ぼしたが、竜族が一丸となって退治されたのが生前の姿だった。
そこまでしてしまったのは魔王の魂を捕食した事が原因で、ドラちゃんの魂を浄化した後、赤竜として再び肉体を得る事になった。
まぁここまで来るのには色々あってそのせいで俺は三ヶ月をドラちゃんに費やしてしまったのだが。
「ルトロさん、肉体があるんですからこのまま王都に入っても問題ないですよね」
「無理に決まってるだろう。姿が前以上に巨悪になってしまったじゃないか、これならドラゴンゾンビだった頃の方がましだぞ」
ルトロが余計な事を言ってくれたおかげで、ドラちゃんはいくら謝っても許してはくれず、王都に着くまで俺達を振り落とそうとはするし、快適になった背中の上は魔力の恩恵を消され地獄のような空旅と変わった。
実際に何人も背中から落とされその度にルーサーが受け止めてくれる。
肉体を得たことで思考回路が子供に戻ってしまっているらしく、気分を害してしまうとこうなってしまう。
これでも竜魔王に教育をされたのだが、竜魔王の前では大人しくしていたのでそういう事だけは前世の記憶があるようだ。
結局、俺の制止は聞かず王都に入り、あろうことか王宮のど真ん中に着地してしまったので、今は兵士に囲まれている状況にある。
「武器をしまえ、その竜は敵じゃないぞ」
ルーサーがようやく追いついて来て、ドラちゃんの首を加えて飛んで行く。
何故か知らないが、ドラちゃんは竜魔王とルーサーには頭が上がらない様だ。
微笑ましくその姿を見送ったのもつかの間、俺とルトロは縄を掛けられ、国王様の前で祖父とレオニダスから説教をずっと受けている。
本来は歓迎されるはずなのにこの仕打ちはあまりにも酷すぎるが、スキルのおかげで何も感じないのでただ時間が過ぎるのを待った。
かなり長い説教が終わるとようやく解放され、二人で遊撃隊の本部に歩いて向かう。
「全く、いい加減にして欲しいよな、疲れているのにあんまりだよな」
「ルトロさんが原因じゃないですか、言葉を理解するのは知ってますよね」
本部の中ではこの一年間にあった事を聞かされ、未だに此方から仕掛けるのが最良なのかや、魔王を倒せば本当に平和が来るのかなど結論が出ていない様だ。
我が国は交戦派で、ズーランド国は揺れていて、クローネン王国はまだ準備が間に合っていないとの事らしい。
「いい加減にして欲しいな、魔王が復活したら折角の勝機が下がってしまうぞ」
「ヴィーランド大尉の事が言えないからでしょうね、国王様の話だけでは信じられないのでしょう」
俺達が竜国に行っている間に雲行きが怪しくなってしまったようで、何時でも魔国に攻めるはずが三国の足並みがそろわなくなってしまって、俺達が帰還してから三ヶ月が過ぎた頃、再びクローネン王国に魔国が侵攻してきたとの連絡が入って来た。
若干の援軍は送る事になったが、それ以外は当初の予定通りにズーランド国と我が国は真っすぐに魔国へ進行する事が決定される。
翌朝になり、飛竜による兵士の輸送が始まり一気に戦争のムードが高まって来た。
三国の精鋭部隊の三百人が魔王の城に突撃する事になったが、クローネン王国の精鋭部隊は王都から動けなくなってしまったと報告が入ったので、手助けの為の援軍は見送りとなった。
俺達はズーランド国の精鋭部隊と合流するのは戦況次第なので、隊舎から兵士が出て行くのを見守っている。
「テオ、何だか気が引けるな、彼等は攻めている様に見せて敵を引き付ける為だけに戦うんだろ」
「あのなぁそんあ余裕がある訳無いだろ、全力で戦わないと直ぐに押し込まれるぞ」
直ぐに全面対決になると思っていたが、膠着状態が続いてしまったようで上手く魔族の部隊を引き出せていなかったが、五日目の夜にようやく合流地点に行くようにと伝令が入った。
「ディアナ、ちょっと行ってくるよ」
「うん、どうせ言っても聞かないと思うけど無理はしないでね」
「分かってる。それにこれが俺にとって最後の戦いになると思うんだ。だから帰ってきたら俺の実家で暮らさないか」
「嬉しいけど、本当なの」
「あぁ、もう戦う事はないだろう」
「そんな期待させるような事を言うんだから、絶対に生きて帰って来てよね」
俺は胸の騒めきを押さえながら遊撃隊本部へと向かった。