第百十三話 秘密の告白
翌日になり遊撃隊の本部に到着すると、いきなり小部屋に連れて行かれ、その部屋には誰も居ないしまるで犯罪者が取り調べを行うような部屋だ。
少しの間まっていると、そこに不機嫌そうなルトロが入って来た。
「アル君、いやもうアルだな、それよりやってくれたな、あれでポルタの街に入っただろ」
その言葉でディアナに土産を買っていてそれがまだ袋の中に入れっぱなしだった事を思い出した。
「そうでした。まだ土産を渡してないですね、有難うございます。思い出せてよかったです」
「違うんだよ、そこじゃ無いんだ」
リベリオと共に立派な髭を生やした男も入って来る。
「君が新たな遊撃隊員かね、私はこの王都の警備を任されているタミルだが、何で君はあれでやって来たんだ」
「何でと言われましても、相棒と来ただけですが」
「君ねぇ、いいか、いきなりドラゴンゾンビがこの王都に現れたんだぞ、それにポルタもだ。魔物で入っていい訳無いだろうが」
確かに前はそのように思っていたが、俺の近くには似たような事をして当たり前のようにしている人物を知っている。
だから人さえ乗っていれば問題は無いと思っていた。
「祖父がグリフォンを使っているので大差は無いと思っているのですが」
「そうか、ランベルト様か……」
タミルは急に頭が痛くなってしまったようで、しきりとこめかみを揉みながらしかめっ面をしている。
そこがチャンスとみたリベリオがその場をまとめ始めた。
「タミルさん、彼はランベルト様の行動を間近で見ているのですから仕方がありませんよ、これからは私が常識を教えますからもう宜しいのではありませんか、それともランベルト様に言えますか」
「……もういい、今回はこっちで処理をするが、次はしっかりとしてくれよ」
タミルは俺の方を一切見ないでこの部屋から出て行ってしまった。
そして、それまで笑顔だったリベリオは俺の方を見ると急に真顔に戻る。
「あれで入るなと言われただろう。今回は無理やり納めたが次は無いからな。いいか、人の話はちゃんと聞くんだ」
俺が直ぐに謝るとリベリオは笑顔に戻り、隊員が待っている部屋に俺を連れて行った。
シリノは一人で壇上で立っていて、俺はその隣に立たされた。
「お前ならやると思っていたよ」
「予想していたなら乗って下さいよ、怒られたじゃないですか」
小声で話している中でリベリオによる俺達の紹介と正式に入隊が決まった事が告げられ、俺達は末席に座らされた。
正式に入隊してから一ヶ月が経過した頃、全ての隊員が会議室に集められたのだが、何が話し合われるのか誰も知らず噂話が飛び交っていた。
「みんな、静かにしてくれ、最初に紹介したい方がいる」
リベリオが一度廊下に出ると、直ぐにヴィーランド大尉と共に戻って来た。
飛竜隊の隊長なのだから誰もが知っているので改めて紹介する必要は無いと思うが何か雰囲気が違って見える。
「まぁ私の事は誰もが知っているだろうな、ただ何故、あの戦いに参加しなかったのか疑問に思わなかったかい。そこで今回はその事について話そう」
「いいか、この事は決して口外するなよ」
リベリオが真顔で言っている中で、ヴィーランド大尉の身体に変化が現れその頭には曲がりくねった角が生えて来た。
「貴様っ魔人だったのか」
一人の隊員が前に飛び出したが、ルトロがその隊員を殴り飛ばす。
「馬鹿者が、失礼に当たるだろ」
「いいよルトロ、彼は知らないんだから誤解しても仕方がないよ、いいかい、私は魔人では無くて竜人族なんだ。まぁ魔国では竜魔族と言っているけどね」
初めて聞くが魔国の更に東には竜と竜人の住む国があり、そこの王子がヴィーランド大尉なのだそうだ。
祖父が竜魔王と親しいらしく、王子として見聞を広げるために修行としてこの国に来ているらしい。
「僕の国は何処に何処の国に対しても中立と言うか、はっきり言ってしまうと興味が無いんだよ。攻めてきたらその国は亡ぼすからどの国も来ないけどね、ただ今回は僕の独断で陰ながら手伝おうと思ったんだ。そうでもしないとこの国は消えるだろうしね、いいかい、魔王の復活は五年後と聞いて時間があるように感じているかも知れないけど、あれは嘘だからね、本当は二年以内には復活するし、復活したら戦争が始まるよ。本当の意味での勇者がいない今がチャンスだからね」
魔王の復活が確実となった段階で、竜国に共闘の打診が来てその日は二年後なのだそうだ。
アレクシアが言った言葉は後に俺達が慌てるのを楽しみたいためについた嘘だった。
ヴィーランド大尉は王子として魔王の現在の状況をその目で確認している。
驚いている俺達に向かってリベリオは話し始めた。
「そこでだ、魔王が完全に復活して攻め込まれる前に此方から攻める事になった。全軍で魔国に進攻するがそれは陽動で、別動隊が魔王が封印されている場所に向かって魔王を消滅させる」
何故、正攻法で侵攻しないのかと言うと、やはり魔国との戦力差はこの数年で広がってしまいまともに戦ってしまうと勝てる可能性が無いからだ。
万が一勝てたとしても今度は背後からの敵に対応が出来なくなる。
そこで同盟国の三国が話し合った結果として、精鋭部隊が高高度から一気に魔王が封印されている城に攻め込んで魔王を完全に消滅させる。
魔王が全ての魔国は魔王がいなくなればこの戦いは次の魔王が生まれるまでの数十年は平和が訪れるだろうと言う目論見だ。
お通夜のような空気が流れる中でヴィーランド大尉がもう一度話始める。
「精鋭部隊といっても今のままだと誰も勝てないだろうな、それだけ差があるんだ。本当は全員の底上げをしたいんだけど事情があって無理なんだ。そこで僕が見込んだ人間だけを竜国で鍛え上げる事にしたよ。誰が選ばれるかは僕とリベリオ隊長の二人で決めるからね」
ヴィーランド大尉が俺に目配せをしてきたので俺は選ばれるのだろう。
何処までスキルの力を引き出せるのか楽しみで仕方がない。