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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第四章 クローネン王国
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第百十話 別れ

この僅かな時間の戦いでマテウス王国側の死者は三十人程度で済んだが、ドワーフ族は千人以上の死者が出てしまっている。

 この差は前線に出ていなかったからでは無く、ドワーフ族は急遽兵士にかり出された者が大勢いたからだ。


 俺達は広場に集められ、そこで帰還が言い渡された。

 本来ならばねぎらいの席が設けられてもいいのだが、新国王の感謝の言葉だけしか無かった。


 なぜなら停戦とは名ばかりで、ドワーフの国が飲んだ条件は余りにも屈辱的な物だったからだ。


 エイムスから先の土地は魔族の土地に変わり、これだけでクローネン王国は半分以上の土地を明け渡したことになり、三割ほどの国民を殺されてしまったが、これに対する責任を魔族に言う事すら許されない。


 更には城壁の解体も命じられてしまったので、次に魔国に攻められてしまったら援軍を要請する時間もなくこの国は滅びてしまうだろう。


 新国王のねぎらいの言葉の最中には俺は自分の部隊の中で聞いていてオイゲン司令官の指示を待っている。


「シリノ小隊長、アル小隊長はいるか」


 部隊の前に遊撃隊員が現れ、俺とシリノを探しているのでまた何かあったのだろうと思い、急いで近寄って行く。


「ここに居ますが、どうかしましたか」


「君達は飛竜に乗って砦に戻るんだ。そして直ぐに荷物をまとめて王都にある遊撃隊本部に明後日には来てくれ」


「明後日ですと引き継ぎする暇すらありませんがよろしいのでしょうか」


「あぁ既にオイゲン司令官に了承はもらってあるそうだ」


 やはり魔王の復活を聞いたことが影響しているのだろう。

 魔王が五年後に復活すると言う事はあの周りにいた兵士の耳に聞こえてしまったはずで、そうなるといくら押さえたとしても噂は広まってしまうに決まっている。

 遊撃隊としてやらなければならない事が沢山あるはずだ。


「分かりました。直ぐに向かいますが、飛竜は手配しなくても大丈夫です。ドラちゃんの方が速いので」


「君はあれで王都に行くと言うのかな」


「多少目立つかもしれませんが、相棒ですので」


「そうか……。ただ、今回は王都の手前で降りて自分の脚で王都に入れよ。これは命令だからな」


 何故わざわざ歩かなければいけないのか意味が分からなかったが、それよりも直ぐに副官の元に走って行く。

 せめてクリストバルに話さないと後の事が心配になってしまう。


「突然ですが、いまから遊撃隊に入ることになりました。短い間でしたけど本当に助かりました」


「どうしたんです。また敬語に戻っていますよ。この小隊から離れるとはいえ階級は上なのですから、それは止めましょう」


「いや、いいんですよ、私の代わりは貴方なのですから、そうなると階級は同じになりますので必然的に敬語になりますよ」


 本来ならば引き継ぎ式があって皆の前で新たな小隊長として俺はクリストバルを祝いたかったが、そんな時間は残されていなかった。

 簡単な挨拶だけして広場の端に行くと、何故かそこには飛竜がいてその周りにはイリーナ中隊長とバルテル中隊長が待っていた。

 そして、俺の顔を見た途端にシリノは慌てた様子で飛竜の背中に飛び乗った。


「俺はこっちで送ってもらうからさ、また王都で会おうな」


「ちょっと待ってくださいよ、一緒に行けばいいじゃないですか」


 俺の言葉を聞き終わらない内にシリノは飛び去って行った。


 同じ場所に行くというのにわざわざドラゴンライダーのお世話にならなくてもいいのに。


「仕方が無いだろうね、あんたのは特殊過ぎるんだよ、それよりも頑張るんだよ、魔王が復活するなら一緒に戦おうじゃないか」


「有難うございます。お世話になりました」


 イルーナ中隊長は優しく俺を抱きしめた。


「折角、一緒に働けたのにもうお別れとはな、いいか、昔みたいに焦ってスキルを引き出そうとするなよ、お前だけが責任を感じる事は無いんだからな」


「分かりました。それでも何とか頑張ってみます」


 バルテル中隊長は強く俺の肩を叩いて来た。

 出来ればまだ一緒に働きたかったが、それは全てが終わってからだ。


 俺はドラちゃんを呼び寄せて一気に舞い上がり、一度だけ部隊の上を旋回してからまずは砦に向かって行く。


「行っちまったな、あいつは無理をするだろうな」


「魔族にあんな事を言われたんだから仕方が無いだろうねぇ、勇者では無い事を痛感させられたんだから」


「あいつの責任じゃ無いのにな」


 別れ際のアルの表情が余りにも無理して笑顔を作っていたのでそれが見ていて辛く感じて二人はかなり心配している。

 これが世間に広がれば勇者のスキルを持つ者が待望され、もし現れなければ失望が再びアルに向けられることが目に見えているからだ。


 二人はそんな声からアルを守りたかったが、王都から離れているハルティ砦ではどうにも出来ないのが歯がゆかった。


「それにしても、ドラゴンゾンビで王都に入るつもりなのかい。いきなり行ったら問題になってしまうんじゃないかね」


「いくらなんでもそんな事はしないだろ、そこまでの馬鹿じゃないさ」


「ふーん、私にはシリノの奴はそれが嫌で飛竜に乗ったとしか思えないんだよね」

 

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