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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第二章 マテウス王立上級学校六学年
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第十一話 湖に浮かぶサボン島

 盗賊のせいで無駄な時間を使ってしまったが、夜が明ける前にサボン島に渡る為の船があるマルルク村に到着しそうだ。

現在馬車に乗れていないのは俺の他にジョンソとユナが走っている。


「ずっと顔色が悪いが、交代してもらった方がいいんじゃないか」


 前を見ず、下を向いたまま走っているジョンソに声を掛けるが、ジョンソは黙ったまま返事を返そうともしない。

その様子を見たユナがイラつき始めた。


「何一人で不幸を背負ったみたいな顔をしてんの、あんたいい加減にしなさいよ」


「ユナ、もう少し優しくしてあげようよ」


 俺の言葉が気に障ったのか、ユナは器用に走りながら石を拾って俺の顔にぶつけてきた。


「あのなぁ俺だからいいけど、普通の奴だったら大怪我するぞ、いいか、石は人の顔に向けてなげたらいけないんだぞ」


「ムカつくんだけどその言い方、あんただから投げたに決まっているでしょ、その人を諭すような顔は止めなさいよ、見ているだけで腹が立つ」


 何故そこまで言われなければならないのか理解に苦しむが、ユナの機嫌はマルルク村に到着するまで治らなかった。


 村に着くとレオニダスは真っすぐに波止場に向かい、王国軍の紋章が入った旗が立てられている一艘の船に寄って行く。

この船はずっとここに置いてあったのか、それともレオニダスが急遽手配したのか不明だが、その船は中々の大きさをしていてこの人数で利用するには贅沢に思える。


「ほらっ早く乗り込みなさい。風の魔道具が四つも使われている船だから気持ちいい風を感じながら島に行けるぞ」


 俺達は我先にと乗り込もうとしたが、俺だけレオニダスに襟首掴まれてしまう。


「あの、先生、手を離して貰えたら嬉しいのですが」


「本当に私は君の事を可哀そうにおもっているんだけどさ、ちゃんと君を鍛えないとランベルト様から御叱りを受けてしまうんだよね」


 そう言いながら何処からか出してきたロープを渡してくる。まさかと思うがそれで船と俺を繋ぐ気なのだろうか。


「大量に水を飲んでしまうと、いつの間にかに死んでしまうと思うのですが」


「そうならないように見張りはして貰うから、そんな心配はしなくても平気だよ」


 俺が想像していた楽しい船旅は無くなり、俺はただ船に引きずられていた。いくら何でも船の速度で泳げる訳がない。

ひたすら息を吸う事に集中していたが、こんな訓練に何の意味があるのだろうか、どんな無理な事をさせても耐えきれてしまうこの身体をレオニダスは面白がっているようにしか見えない。


 短い時間であったが、船が湖の中心にあるサボン島に到着し、俺は直ぐに岸に引き上げられたのだがその瞬間に大量の水を吐き出した。

見かねたグレタが背中をさすってくれる。


「大丈夫、ほらっもっと水を吐き出した方がいいと思うよ」


 この課に入ったばかりのグレタはぽっちゃり体系だったが、レオニダスの訓練のおかげですっかり痩せてしまい、その外見は見違えるようになった。

それに前からの性格の良さも加わり、今では学年で一、二を争う程の人気者になっている。


 このサボン島は湖の中にあるとは思えない程の広さがあるのだが、人は生活をしていない無人島になっている。

俺達が出発した場所の反対には城壁が建てられていてその先には魔国となっているのが原因なのかも知れない。


 それでも良い季節になって来ると休暇を楽しむ為にこの島には観光客が訪れる。

だが俺達は観光客が多く集まる場所から離れた平原の中にある、学校が所有する九階建ての円形の塔に向かった。


 この建物は一階は宿泊施設になっていて、二階から上で訓練を行う。

各階にはちゃんとした目的があり、学年によって進める階が決まっている。

俺達はまだ五階以上には足を踏み入れた事は無い。

五階以上は命の危険があり、何年かに一度、生徒が亡くなっていると噂が流れている。


「今から君達にはこの塔に挑戦してもらうよ。初日だから全員で屋上まで行って戻って来なさい。明日からはチームを分けて挑戦するからね、そして合宿の最後には一人で挑戦してもらうからね」


 五階までなら一人でも余裕だが、その先は道の世界だ。

俺の場合だともう次からは一人で登るはめになるかも知れないので、どんな様子になっているのかちゃんと頭に入れながら登ろうと思う。


 二階から五階までは問題は全くなかった。

これまでの階は体力訓練のようになっているので、集中力と体力さえあればさほど難しくは無い。

一番体力の無いグレタでさえ、誰の手も借りずに自分の力だけで登りきる事が出来た。


 六階に上がるとフロア全体が薄暗くなっていてまるで洞窟のような雰囲気だ。

ここでは至る所に仕掛けられた罠が張り巡らされていたが、ユナのスキルのおかげで簡単に回避する事が出来た。

ユナには罠が光っている様に見えているらしく、俺達は全て躱す事が出来るのだがあえて俺達は全ての罠を発動させた。

全ての罠を壊してしまえば明日からユナがいなくても問題が無いようにしたかったのだが、七階に上がった途端に全ての罠が元通りに復元されたとユナが言ってきた。


「まじかよ、アルが全部壊し宝と思っているから何も覚えていな覚えていないぞ、次にアルかユナと一緒じゃなかったらどうすりゃいいんだよ」


 テオは嘆いたが、俺も似たようなものだ。

落とし穴の場所は覚えていない。前もってユナが教えてくれたからロープで落ちないように準備出来たが、落ちてしまったら一階に戻ってしまう。


 七階に上がるとまた様子が変わり、此処には猪の姿をしたゴーレムが群れをなしていた。

ここを通り抜ける事は苦労しそうだと思われたが、無表情のジョンソが全てを土に戻してしまった。


 八階も今度は熊のゴーレムなので同じようにジョンソに任せ、最後の九階も予想通りゴーレムが五体出てきて今度は巨人の姿をしていた。

全てをジョンソに任せてしまうと明日からが大変な事になってしまうので一体だけ残して、一人一人が順番で当たる事にした。


 俺は正面からゴーレムの弱点である紋章を狙う事を選び、テオはゴーレムに気付かれないようにフロアを抜ける方法を試し、ユナは攻撃を躱しながら上に進む方法を模索し、グレタはゴーレムの元になっている核からの指令を阻害する事に成功し、僅かな時間だけ動きを止める事が出来るようになった、それぞれにゴーレムに対して攻略方法が見つかったので屋上に登る事にした。


 屋上に生えている草を持って帰ればそれが登った証になるそうだ。

俺は帰りは飛び降りれば楽に帰れると思いながら屋上にでる扉を開けると、そこには誰も居ないはずなのに先客がくつろいでいた。


「お前らこんな所で何していやがる」


 俺はそこにいた奴らに向かって怒鳴り声をあげた。

俺達の視線の先にはオーガとハーピーが四体ずつくつろいで座っていたからだ。



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