第百五話 新たな変化
朝まで待つほど悠長な事を言っている状況では無くなってしまったので、祖父トアジョアは衛兵達に国王とこの国の重鎮を至急集めるように告げた。
既に俺はこの二人の護衛のような扱いになっているが、本当にこの場に同席していいのかよく分からなくなっている。
王の間ではこの国の重鎮が続々と集まって来るが一向に国王の姿は見えてこない。
「何をやっているんだ。エイムスは落とされたと言っておるではないか、時間が無いのだぞ、いいか、直ぐにでも奴らが来るのだから早く叩き起こしてこい」
祖父が怒鳴り声を上げると、呼応したかのように精悍な顔つきをしたドワーフ達が入って来るて、先頭で入って来た男が祖父たちの前に立って深々と頭を下げて来た。
「お初に御目にかかります。私はクワクの息子でサーリーフと申します。この度は父が大変ご迷惑をおかけしました」
「そんな挨拶は良いからクワクはどうしたのだ」
「父は錯乱状態が続いておりますので、近衛兵が私達を解放してくれました」
彼等は魔国と手を結ぶことに反対していた者達で、投獄されていたり軟禁されていた者達だった。
国王が正気を失ってしまったので元老院の長老が独断で王子達を解放したので此処に現れた。
「反対派が君達なんだね、だけどそれでは混乱に乗じたクーデターではないのかな」
アジョアは冷静に話し掛けるが、その眼光は鋭く光っている。
「どう思われようと構いませんが、それでも良いと思っています。父は義母と婚姻を結んでから人が変わってしまいました。その結果がこれです。もう父にこの国を任していたら共倒れするだけです」
王妃は顔を隠していたので年齢は分からなかったが、そこにいる王子とさほど年齢は変わらないらしい。
二年程前に何故かいきなり婚姻を結び、それから国王は積極的に独断と政治に口を出し始めたので、裏で王妃が絡んでいると睨んでいたそうだ。
まともな考えを持っていればそれでも良かったが、魔国と友好関係迄結んだというのに遺跡から勝手に魔石を盗み出す何て愚策すぎる。
「まぁ君がこの国を率いるのなら別に儂らは口を挟まないが、君はこの状況をどうやって納めるつもりなんだ」
「先ずは魔国に魔石を返してから交渉するつもりです。そして魔国が土地や父を差し出せと言うのであればそれも承諾するつもりです」
その意見には最初から王の間にいた重鎮からの反対意見が上がり、あくまでも三国で徹底抗戦を行なうべきだと主張した。
「何を馬鹿な事を、私の国の兵士は引き上げている途中ですよ、それに悪いがマテウス王国には協力は出来てもこの国の為には動きません」
「それはあんまりでは無いですか、同盟国であるならこのような場合は兵を出して貰わないと」
ドワーフの重鎮である一人の老人が言ってきたが、アジョアは首を横に振る。
「貴国をもう信用できないのだよ、今回は上手く逃れたとしてもまた何かあれば今度はブルキナ共和国とでも手を結んだりするのでは無いかね、いいか君達はこれ以上被害を出したくなければ降伏しなさい」
アジョアの意見は辛辣で、この国がどうなろうと知らないと言っている様なものだ。
それ程この国が魔国と手を結んでいたという事実が許せないらしい。
「儂らも徹底抗戦には参加しないな、それに君達の戦力はもう殆ど失われているだろ。もっと最初からまともに戦っておけばここまで酷い状況にはならなかったはずだ。儂らは魔国と戦うのであれば自国で迎え撃った方がやりやすいからの」
「なぁこれで分かっただろう。君達が安易に父の意見に従ったおかげでこの状況を招いたんだ。もう目を覚ましてくれないとこの国は滅ぶぞ」
サーリーフは必死に説得しているが、そもそも素直に軟禁なんてされ無ければ良かったはずだ。
「分かりました。元老院として国王の交代を承諾致します。どうかこの国を御救い下さいサーリーフ国王」
このばで新国王が決定し、朝も明けていないというのにお触れが王都中を駆け巡った。
こんな事をやっている場合では無いと思うのだが、ドワーフにとっては大事な事なんだろう。
「お待たせいたしました。これで私がこの国の代表となりましたので宜しくお願い致します」
サーリーフは全員に頭を下げて再び話し合いが再会された。
アジョアに対しては見届け人として残って貰うようにお願いをし、祖父には戦闘に参加しなくても構わないので援軍隊を引き揚げさせることはもう少しだけ待って欲しいと告げた。
ドワーフの軍勢だけだと今更魔国が交渉をしてくれる可能性は低く、見せかけだけでもマテウス王国の軍勢が必要だった。
「あのな、儂らが此処にいると魔国と揉めることを宣言するようではないか、いいかこの場所は四方が平原となっているので守るには不利なんだよ、それに儂らに何のメリットがあると言うのだ」
「この国を滅ばせば次に向かうのはマテウス王国なのかブルキナ共和国なのか分かりませんが、この交渉に協力していただけましたら貿易にかかる関税の見直しと港町に向かうまでの領土を更に広げて差し上げる事にします」
ドワーフの重鎮たちは渋い顔になってしまったが、誰も口に出す事はしなかった。
今からブルキナ共和国と交渉したとしても間に合わない事を理解しているのだろう。
「貴国はこれでかなりの領土を失う事になるのだが本当にいいのだな」
サーリーフはゆっくりと頷き、魔国との交渉の準備に取り掛かった。