第百四話 ランベルトとアジョア
俺は無理やり連れ出されたので王の間に残ったルトロが気になるが、祖父とアジョアは王の間の出来事を忘れているかのように楽しそうに一軒の店に入って行く。
「あの、久し振りなのに申し訳ないですが、私は戻らないと不味い様に思えるのですが」
「なんじゃ貴様は、そんな事を気にするようになったのか」
「ランベルト様のお孫さんとは思えない程、常識的な事を言うのですな」
俺の意見は無視され勝手に酒を注文し、もう俺達の前には酒と料理が並べられている。
この先の街では命を掛けた戦いが繰り広げられているというのに、他の席でも普通に酒を酌み交わしているドワーフを見ているとやるせない気持ちになって来る。
「なんでこんなに此処は普通なのですか、此処にも避難してきたドワーフもいると思うのですが」
「アル君、彼等はただ食事をしているだけだよ、楽しんでいる訳じゃない」
先程まで唸り声をあげていた人物と思えない程優しく話し掛けてくれるのだが、そこまでの優しさがあるのであれば俺を解放して欲しい。
案の定、俺の事はほっておいて先程までの国王の対応について話し合っている。
国を背負っている二人だからここでの意見はかなりの真実味を帯びている。
「あそこにいる魔人共の戦力とドワーフの戦力なら拮抗するだろうな、もうエイムズが落とされることはあるまい」
「グールの大軍が見せかけなのですからそうでしょうね、同盟国としては勝利を確定させるためにしなければいけないのでしょうが、彼等の間に起こった事に巻き込まれたくないですな」
「儂も同意見だが、このままだとこの国はブルキナ共和国を頼りそうでな、そうなると港が消えたも同然なんじゃよ」
完全には結論が出せない様だが、明日にもう一度クワク国王と話し合ってから決める事になったようだ。
但し此方に向かっていたズーランド国の援軍隊は既に国に引き返してしまっている。
「せめて貴国でしたら我が国が仲裁に入ったのですが、魔国ですからね、あいつらとは考え方が根本的に違いますよ」
「儂は知らんぞ、あいつらの顔をみたら殺してしまいたくなるわ、あいつらは魔族以外はエサ程度しか思っとらんにじゃからな、話し合いなどなる訳が無い」
祖父とアジョアの話はまだ尽きないようだが、突然に祖父は俺の顔を見てくる。
「そう言えば貴様、ドラゴンゾンビを手なずけたらしいな」
「えっ、お孫さんはネクロマンサーなのですか」
「違います、ただ操っていたネクロマンサーを倒したら俺になついたんですよ」
「倒したら死体に戻るだけだぞ、まぁいい。儂らに見せてみろ」
祖父はせかすように店から出て広場に入って行くが、その中では帰国の為の準備をしている兵士もいるので本当に此処に呼んでいいのか不安になってくる。
「本当に此処に呼ぶのですか、騒ぎになりそうなのですが」
「儂がいるのだから気にするな」
「分かりました。一つ注意しますがドラゴンゾンビと言うと機嫌が悪くなりますのでドラちゃんと呼んで下さい」
注意を促した後で俺は心の中でドラちゃんを呼んだ。
少し経つと暗闇からドラちゃんが飛んでくるのが薄っすらと見えるが、骨だけのドラちゃんが飛んでくる姿は何とも言えない雰囲気をかもし出している。
「あれが君のか、良く手なずけることが出来たな、生まれて初めてドラゴンゾンビを見たよ」
ドラちゃんは舞い降りてくるなり、身体から黒い煙を出し始めた。
「アジョアさん、言い方が不味いです」
「すまなかった。君はドラちゃんだったね、申し訳ない謝罪をするよ」
アジョアは頭を下げながらドラちゃんの脚を触っていると、ドラちゃんから流れていた黒い煙はいつの間にか消えていた。
「貴様は良い物を手に入れたな、儂のグリフォンが霞んでしまうではないか」
「おじい様、ドラちゃんは物と言うより何か違う存在ですね、上手く言葉に表せないのですが」
話している内に気が付いたのだが、いつの間にか此処には二人の人間と一人に獣人、そして一体の魔物しかいない。
「折角じゃ、儂らを乗せてくれ」
ドラちゃん背中は乗り心地さえ我慢してくれれば大人が三人乗っても余裕がある程広いので乗って貰うことにした。
「それでは何処に向かいましょうか」
「私らが乗るんだ。行先はエイムスに決まっておろう。なるべく見つからんように空高く頼むぞ」
「さぁどうなっていますかね、撤退していればいいのですが」
ドラちゃんは一気に空高く舞い上がり闇夜の中を飛んで行き。暫くすると眼下にエイムスの街が見えてきたのでゆっくりと降下していく。
そして俺達が見たのは、街の中に魔人が溢れかえっていた。
「不死族だけではないではないか、大型魔人も闊歩しているとはの、このままではこの国は滅ぶな」
これまでの報告とは違い、魔国本国からの援軍が到着してしまった様だ。
本来であればクワク国王に非を認めさせ停戦交渉をして貰う予定であったが、もうその段階では無くなってしまった事になってしまった。