第百三話 クワク国王
王の間の中にはドワーフの方々の他に祖父と外交の責任者であるマエル侯爵がいて、その隣には猫人族の中年の男性がいた。
「あそこにいる獣人族の方は誰ですか」
「あのお方はズーランド国の副代表であられるアジョア様だよ」
「副代表って何ですか」
「ランベルト様と同じ地位じゃないかな、ただあの国は数年で国の代表が変わってしまうし、そうなると副代表も変わるんだ」
ズーランド国には国王がいないそうなので、各種族が持ち回りで国の代表になるそうだが、あまり意味が分からないのでもっと話を聞きたかったが、そんな無駄口をしている状況ではなく、祖父の怒鳴り声が響き渡っている。
「だからさっきから言っているが何で勝手に魔国と交流を持ったんだ」
「ですから、魔王がいなくなってから大きな侵略は無いではありませんか、一年ほど前に魔国から使者がやって来て話を少ししたのですよ、私は彼等を孤立させるのでは無くてちゃんと手を結ぶことが出来れば平和が完成すると思ったからです」
ドワーフの国王であるクワクは額に汗を流しながら説明をしているが、直ぐ近くにいる衛兵は苦々しい顔で自国の国王を見ている。
「それを貴国だけで決めるのは条約違反ではありませんか、そんな大事な事は同盟国である我が国やマテウス王国にも話す義務があると思うのですが」
獣人族のアジョア副代表はその見た目とは裏腹に冷静にクワク国王に尋ねているので、祖父も見習ってほしいものだ。
「それは……あなた方の国は私達に比べて何度も魔国と揉めていたので、今の魔国の現状を知ったとしても偏見があると思ったんだ。せめて実績を作ってから報告をするつもりだった」
その瞬間にアジョア副代表は野太い声で笑った後で、唸り声を上げながらクワクを睨みつけた。
「とってつけた話をしないでくれますか、どうせ魔国でしか手に入らない魔石や鉱石を手に入れようとしたのでしょう。そもそも今回はあなた方が魔国から何かを盗み出すからこんな事が起こったんですよね」
「別に盗ませた訳じゃ無いんだ。遺跡の中にあった物を持ってこさせただけだ」
「何なんだそれは」
不死族が管理していると思われる領土には不死に関する秘密があると前々から睨んでいたクワクがこれ幸いと魔国の提案に乗ってしまったのが真相だ。
魔国側は今までは身体能力だけで戦っていたが、ドワーフの高い技術力を盗む為に協力を申し出た。
魔国にしかない魔石をちらつかせれば食いつくだろうと思っていたが、想像以上に簡単にドワーフは食いついた。
反対する重鎮は数多くいたが、その者達の意見を退けてそれでもまだ言ってくるようなら牢屋行きとした。
未だ祖父の質問に答えないクワクは視線が定まらず大量の汗をかいていると、隣に控えていた男が変わりに答え始める。
それは今までに見た事が無い魔石で、決してそこが測れない程の魔力があるので国王に報告したところ持ち帰りを命令したそうだ。
ただ少しでも傷を付けようとするとその者の命を簡単に奪ってしまうので、研究は進まず地下室に保管してあったが、何故か王妃が持ち出して国から出て行こうとした。
王妃一行は船で密航する直前に捕らえられ、今は王妃は軟禁され、それ以外の者は何も吐かなかったので処刑されている。
「何がしたかったんだ王妃は、もう理由は知っているのだろうな」
「ランベルト様のお気持ちは分かりますが、従者は何も吐かず、王妃は国王様の下知がなければ何も出来ません」
再びアジョアが唸り声を上げ、この場に王妃とその魔石を持ってくるように告げた。
国王は少しだけ嫌そうな顔をしたが、もう反論をするほどの気力は無くなってしまっているようだ。
直ぐに大げさすぎる程の大きさの箱に入った魔石が王の間に届いたが、軟禁されていた王妃はいつの間にかに姿を消し、警護をしていたはずの兵士の姿も消えてしまった。
祖父がその箱を開けると中には禍々しい魔石があり、その魔石から何かが溢れているのが目で見えるので祖父は直ぐ蓋をしてアジョアの方に向き直った。
「これは駄目だ。生身の者が触れていい物では無い」
「そうですな、よくこんな物を持ち帰った物です。とてもでは無いが気持ち悪くてもう見たくもありません」
そのアジョアの言葉に、今まで放心状態だった国王が激しく反応した。
「何が気持ちが悪いんだ。そんな高貴で美しい魔石が何処にあると言うんだ」
完全に国王は錯乱状態になってしまったので衛兵に抱えられるようにして国王は裏へ連れて行かれたので、代わりにドワーフの執政官である先程の男がうやうやしく頭を下げた。
「申し訳ございません。国王は錯乱しておりますので話し合いは明日でもよろしいでしょうか」
「ふんっ、魔族がどうにかなると思ったら随分と余裕が出て来たな、まぁいいわい。この街で自由にさせて貰うぞ、では行こうかのアジョア殿」
祖父はアジョアと共に出て行こうとしたところ、俺を見つけた祖父は笑顔になりながら俺を巻き添えにした。
勝手に俺はこの場から離れてしまっていいのか分からなかったが、誰も俺達三人に話し掛けてくる者はいなかった。