第百一話 秘密
カバラの街に空から入ろうとしたが下から矢を放たれてしまう。
するとドラちゃんは敵だと認識したのかブレスを吐こうとするので必死に大声を張り上げた。
「落ち着いてドラちゃん、勘違いしているだけだから、それよりも峠に向かってくれ」
「アル君、何処に向かうんだ」
「街に向かっている部隊と合流しましょう。オイゲン司令官に説得してもらった方が早いですよ」
街を通り過ぎると丁度、後続の部隊が山道を下り終え、最後の曲道を曲がったところだったので、上空から一気に集団の鼻先に舞い降りた。
やはり俺と気持ちが繋がっているのか俺の考えと同じようにドラちゃんは動いてくれる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「早く、先頭陣形をとれ」
悲鳴に交じりながらも戦闘態勢をとろうとしているが、隊列も酷い状態になってしまっているのでこれがまともな部隊とは思えない。
俺とルトロはドラちゃんの背中から飛び降りて手を振りながら叫んだ。
「落ち着いて下さい。味方です。オイゲン司令官はいますか」
二人の叫びに気付いたオイゲン司令官が直ぐに姿を見せてくれる。
「一体何をしてるんだ。それにそのドラゴンゾンビはどうしたんだ」
「話せば長くなってしまうのですが、このドラゴンゾンビはアル君の支配下に入ったようですので他の飛竜と同じように考えて貰えればいいと思います」
オイゲン司令官は眉間に皺を寄せながらルトロと話し合っている。
その結果、やはり部隊と共に街に行っても混乱してしまうので俺だけが此処に残り、説明が終わり次第狼煙で連絡をくれることになった。
後続部隊が再び街に向かって進んで行くが、大きくドラちゃんを避けるように通過して行くが、俺の部隊の部下は恐る恐るではあるが近寄って来てくれた。
「小隊長、何をしたのか知りませんが、相変わらずやる事が派手ですな、それでこのドラゴンゾンビの竜種は何なのですか」
「俺も良く知らないんだよね、初め見た時は腐った肉を身に纏っていたからな、まぁ飛竜より大きいし格好いいだろ、ドラちゃんて呼んでやってくれ」
「また随分と安易な名前を付けましたね」
何とも言えない顔をしながら隊列に戻って行き、此処には俺とドラちゃんだけが取り残された。
「なぁドラちゃん、なんでお前は俺の言う事を聞くんだ」
ドラちゃんは俺の言葉を理解しようとしているのか首をかしげて俺を見てくるので、見かけは骨しかない竜なのだが、何だか可愛く思えてしまう。
不意にドラちゃんが顔を上げると、街から狼煙が上がったところだった。
「有難うドラちゃん、さぁ行こうか」
背中に乗って飛び立つと街の中心に兵士達が集まっているのが見えるので、その中に舞い降りてみた。
ドラちゃんから降りるとジーモンが駆け寄って来る。
「これが敵から奪ったドラゴンゾンビ……」
ドラちゃんが何故か唸り声をいきなりあげてしまったので、兵士達の間に緊張が走り武器を構えだす。
「すみません、どうやらその呼び方が気に入らないようですので、ドラちゃんと呼んで貰えませんか」
「ドラちゃん……。まぁいい、その、君は考えている事が分かるのかね」
「何となくですが分かる気がします。それはドラちゃんにも言える様で、ここに降りる時は声に出して指示はしませんでしたから。それよりこんな所に人を集めてしまって大丈夫ですか」
一旦戦闘は中断している様なので、そのまま遊撃隊と士官が集まっている会議室に連れて行かれる。
ドラちゃんは俺が離れると勝手に空に飛んで行ってしまったが、俺が求めればまた戻ってくるような気がする。
「また敵になってしまうのか」
「確信はありませんが、多分、大丈夫ですよ」
集められた部屋の中では現状の確認が行われていて、どうやらこの街を攻めていた部隊の殆どがもう一つの街に向かって行ってしまったらしい。
確実な情報では無いために、朝日が登るのを待っている状況だ。
それよりもロミルダが聞き出した情報は衝撃的な事で、まず十万のグールの集団だが、ネクロマンサーの指示で動くのは一万程しか居なく、残りはただ動いているだけの動く死体に過ぎなかった。
深い霧と穿った見方で交戦していた為に見抜けなかったようだ。
統制もとれていないグールを撃退する事が出来なかった原因はやはり同族の姿だった事で、姿を見るとまともに戦いもせずに撤退していたそうだ。
その馬鹿さ加減が余りにも面白かったとネクロマンサーの一体は言っていたそうだ。
それよりも衝撃的な情報は、実はドワーフ族は魔族と協力関係を結んでいて魔国の中にドワーフ族が在留する街まであるそうだ。
ただ一部のドワーフが神殿の中から何かを盗み出したらしく、それを取り戻すために今回の侵攻が始まったらしい。
何を盗んだのかそのネクロマンサーは知らなかったが、それよりもその話を聞いたオイゲン司令官は激昂した。
「それでは自業自得ではないか、そもそも魔国と手を結ぶなんて何を考えているんだ」
「すまない。俺達は国王様に従うしか無いんだ」
この話はリベリオ隊長率いる第一援軍隊に伝えられていて、もう王都に撤退する事が決まっているし、俺達も早朝に撤退する事が決まった。