第百話 取り残されて
アルとルトロはドラゴンゾンビとそれに跨っているデュラハンと対峙して、その周りにはスケルトンやリッチが様子を伺いながら何時でも戦闘に参加できるように身構えていた。
「アル君、君はドラゴンゾンビを引き付けてくれるかな、合図をするまで倒さないでくれよ」
ルトロはもう少し説明をしたかったが、この状況でこれ以上は言えないと判断してアルがその言葉通りに動いてくれると信じるしか無かった。
ルトロは後ろに回り込もうとし、それに釣られたドラゴンゾンビも向きを変えると、視界から外れていたアルによってハルバートの柄で下顎を思いきり叩かれた。
ドラゴンゾンビにダメージは全くなかったが、その怒りはアルだけに向けられ噛みつこうとして向かって行く。
いきなりの方向転換出たのでただでさえ乗り心地が良くない背の上に乗っていたデュラハンは振り落とされ、落ちた途端にルトロの強烈な一撃で鎧にひびが入り伏せに倒れた。
ドラゴンゾンビは未だにアルを捕える事は出来ずに、逃げるアルを追って行くのだが方向を変える度にその尾でスケルトンを粉砕してしまう。
デュラハンは立ち上がる事は出来ず、ルトロの攻撃が緩むのを待っていたのだがただ見ているだけのスケルトンにいい加減腹が立ってきた。
「お前ら、何をしている、こいつをどうにかしろ」
ドラゴンゾンビの行方にしか興味がなく、同種族では無いのであまり気にもならなかったスケルトンだが、デュラハンに命令されたので一斉にルトロに向かって行くと地鳴りのような足跡が聞こえてくる。
「ルトロさん、避けて」
ルトロが振り返るとアルがすぐ横を駆け抜けて行き、そのアルを追ってドラゴンゾンビが迫って来る。
ルトロは左のスケルトンを蹴散らしながら避けるが、その近くのスケルトンは砕け散り、デュラハンは踏みつぶされてしまった。
鎧が粉々に砕けるとその中から瀕死のリッチが姿を現したのでルトロは剣を首元に近づける。
「何処かにいるかと思ったが、まさかデュラハンの振りをしているとはな、お前はあれを制御できないのか」
「怒りに満ちたあいつは俺の言う事を聞かないんだよ」
向こうの方ではアルがわざとスケルトンに近づいてドラゴンゾンビを利用してその数を減らしている。
再び此方の方へアルが走って来ると、リッチはドラゴンゾンビに助けを求めるかのように立ち上がったが、その手前を走っているアルによって切り裂かれた。
アルにとっては目の前に向かってくるリッチを叩き斬っただけなのだが、斬り殺した瞬間にドラゴンゾンビが倒れ、腐っていた肉の塊が背後から襲って来た。
「ぐぅぉぉぉぉぉぉ」
骨だけになってしまったドラゴンゾンビが立ち上がり咆哮を上げると、この場に時間の流れが止まってしまったかのように誰も動かなくなる。
「ルトロさん、何かこのゾンビなつきそうですよ」
「はぁっ、アル君何を言っているんだ」
「なぁ、ちょっと助けてくれないか」
ドラゴンゾンビに試しに声を掛けると、言葉が通じたようで周りのスケルトンを次々と砕いて行きこの周りにかなりの広い空間が出来た。
「アル君、どうなってるんだ」
「分からないですけど、あのリッチを殺したせいですかね」
「殺したからって何で使役出来るんだ。そんな事聞いたこともないぞ」
俺とルトロが話している最中に矢や魔法が降り注いでいるが、俺達に全く影響はなく流れ弾がドラゴンゾンビに当たってしまうので、怒りを向けられてしまう事になっている。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉ」
ドラゴンゾンビが周囲に向かって黒いブレスを吐くとそのブレスを浴びた魔族は塵へと姿を変えていく。
その中にはネクロマンサーもいたせいかブレスを浴びていないはずのグールも元の死体に戻って行ったようで、近い場所の魔族は全ていなくなった。
「何だこれは、こんな力がドラゴンゾンビにあったのか」
「こんなの出されたら俺達は終わりでしたね」
味方が多い場所でこんなブレスが使えなかったのが幸いしたのかも知れないが、俺達が無事だと言う事はやはり味方になったのだろう。
「お手っ」
俺はドラゴンゾンビに近づいて掌を出すと、爪の先を乗せて来たので何故だか可愛く思えてくる。
もしかしたら祖父に自慢できる物を俺は手に入れたのかも知れない。
「アル君、これはいったい……」
「よく分からないですけど、なついたみたいですね、こいつで暴れてから帰りましょうか」
ドラゴンゾンビに伏せをさせ、ルトロと共に背中に乗り込むが骨だけしか無いので乗り心地はすこぶる悪い。
「なぁさっきのブレスはまだ放てるかな、出来るなら街に向かいながらやって欲しいんだけど」
ドラゴンゾンビは頷くと俺達を乗せたままブレスを吐いた。
骨しか無いのに何処からブレスを生み出すか分からないが、敵をかなり減らしてくれた。
「ルトロさんこのドラゴンゾンビは凄すぎませんか、そうだこいつの名前はドラちゃんにしましょうよ」
「それはいいけどさ、本当に安全なのか、このブレスを街で吐かれたら俺達は壊滅するんじゃないか」
「大丈夫じゃないですかね、なぁドラちゃん」
ドラちゃんは首を器用に向けて頷いているように見え、更に骨しかない翼なのに大空に飛び出した。
「アル君、飛んでいるじゃないか、どうなっているんだ」
「分からないですけど、一旦戻りましょうか、ドラちゃんこのまま街に飛んで行ってくれ」
「黒いブレスってこの竜種は何なんだ」
「ドラゴンライダーに聞けば分かるんじゃないですか」
生前の竜種が判明するまでにはもう少しだけ時間が掛かることになる。