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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第二章 マテウス王立上級学校六学年
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第十話 VS名もなき盗賊

 俺はわざとよそ見をしながら街道の真ん中を歩いて行く。

テオは草むらの中を俺よりも速い速度で進み盗賊の背後に回る予定だ。

草むらの中を音も起てずに進んで行くテオは頼もしい存在だ。

ジョンソは俺からかなり離れているが緊張している気配を背中に感じる。盗賊が俺をやり過ごしてジョンソにいきなり襲い掛からないかそれだけが気掛かりだ。

そうなったしまいそうならグレタから連絡が入ると信じるしかない。

だがそんな心配は杞憂に終わったようで、俺の目の前に二人の盗賊が立ちはだかった。


「兄ちゃん、その荷物と腰に下げている剣を俺達に渡しな。素直に渡したら命を助けてやってもいいんだぜ」


 何故にこいつらは悪い事をしようとしているのに上から物を言うのだろう。

こいつらの思考回路にはついていけない。


「断るよ、何でただであげなきゃいけないんだ」


「馬鹿なガキだな」


 目の前の男が言い放つと更に草むらから四人が飛び出してきて。六人が俺の周りを囲んだ。

まだ四人が隠れているのが不思議だが、そっちは後で考えるしかない。


 俺は真っすぐに盗賊に向かって行き、まずは目の前の男を力まかせに叩き斬った。

テオは後ろから近くにいる盗賊にそっと近づいて背後から心臓を一突きにする。

声も出す事が出来ずにその盗賊は命を散らし、テオはまた次へと向かった。

一人ずつ殺していき何も苦労する事なく簡単に三人を仕留めた。


「何か俺はいよいよ暗殺者っぽいんだけど、ちゃんと騎士になれるのかな」


 テオは三人目を仕留めた後で思わず声に出して呟いてしまった。

仲間が殺されているのには気が付かず、盗賊はアルだけを敵とみなして。

一人目を斬ったアルの背中に槍を突き立てたが、アルには刺さらないどころか傷すらつく事は無かった。

アルは振り向くと全く防御をしないで盗賊に近づきまたしても力まかせに剣で叩き斬る。


「お前は一体何なんだよ」


 いくら斬りかかってもそのまま身体で受け止めるアルを見て、盗賊は恐怖に震えてしまいそれ以上の攻撃を躊躇してしまう。

その隙を見計らってジョンソの土牢がその盗賊を捕らえた。


「でぇいや」


 気合の一閃でまた一人を斬り殺す。

俺は防御はスキルに任せ躱す事もせずに、ただ武骨に盗賊に近づいて斬り殺す。

盗賊は剣で防御しようとするが、その剣もろとも叩き斬る。


「おいっバラバラに行動するな、一斉に仕掛けるぞ、お前らも早く出て来いよ」


 盗賊が一度距離をとってから一斉に斬りかかってくるようだが、作戦が丸聞こえなので思わずにやけてしまった。


「何だこれは」


 足を止めてしまった盗賊の一人をまたジョンソが土牢で捕らえた。

ジョンソの姿は見えない為、これも俺のせいだと思っているのか盗賊の目に激しい憎悪の視線が突き刺さる。


「お前ら……」


 テオに仲間が殺された事に気が付いていない盗賊に、身体ごとぶつかるように剣を突き刺す。

綺麗に心臓を貫き一瞬にして命を奪った。


「もう助けてくれ、降参だ」


 最後の一人が武器を投げ捨て両手を上げると、すかさずジョンソが土牢でその盗賊を捕らえた。

これで生きたままの盗賊を三人確保する事が出来た。


「テオ、もう出て来いよ」


 テオが隠れているであろう場所に声を掛けると、違う場所からテオが出て来た。


「お前の戦い方をじっくりと見させてもらったけど、ちょっと無茶苦茶だぞ、まさか一切防御や回避行動をとらないなんて思わなかったよ」


「思わずやってしまったけど、先生には内緒にしてくれぐっごぉ」


 後頭部にかなりの衝撃が走った。

痛みは勿論ないが身体は前方に飛ばされてしまう。

立ち上がると気絶したジョンソを抱えるレオニダスが怒りの表情で立っていた。


「ちゃんと戦えといつも言っているよね、そんな事ではいつか大変な目に合ってしまうぞ」


「すみませんでした、何て言うのかつい、やってしまいました」


 たかが盗賊と退治するのに、スキルに頼りきった戦い方をしてしまった自分が恥ずかしくなってきた。


「テオはまぁ良かったが、休んでいないで姿を見せて戦えば合格だったのにな」


「はい、以後気を付けます」


 テオはレオニダスの怒りが向かわないのでホッとしていている様だ。

ジョンソが気絶している理由はずっと隠れながら「土牢」をしか出さなかったのが原因だそうだ。

本来のジョンソなら手こずる相手ではなかったはずなのに、盗賊を過大評価してしまい隠れてしまったのがレオニダスの怒りを買ってしまった。


「まぁいい、君達はアジトの場所やその他に仲間がいるのか聞き出しなさい」


 ジョンソを叩き起こし、三人で手分けして情報を聞き出そうとするが、頑なに口を閉ざしている盗賊達を見て、レオニダスはため息をついた。



「面倒になってきたな、ジョンソ、お前が殺してしまいなさい」


 ジョンソはその言葉の意味を理解すると全身が震えだし、何とかこの状況を逃れるために知恵を振り絞る。


「この無抵抗の者を殺すなんてことは騎士としてあるまじき行為だと思いますが」


「それでは君はこいつらをどうするつもりなんだ。わざわざ一度王都に戻るとでも言うのかね、こいつらはどうせ死罪になるか一生奴隷なんだ。今殺しても大差ないだろうに」


 ただ人を殺したくない思いのジョンソには、レオニダスを納得させるほどの考えを持ち合わせていなかった。

俺とテオはジョンソの代わりに盗賊を殺してしまう為に動き出そうとしたが、レオニダスに睨まれてしまい、一歩も動く事が出来ない。


「分かりました、僕が責任を持ってこの盗賊達を王都に連行致します。それならばいいでしょうか」


「君は盗賊を何だと思っているんだ。この国では盗賊はその場で殺してもいいとなっているのにこいつらは盗賊になったんだぞ。もういい、この場で処分出来ない様なら騎士にはなれないな、さっさと田舎に帰るがいい」


 その言葉を聞いて嗚咽しながら盗賊の足元から土槍を出現させ、盗賊の命を奪った。

そんなジョンソの様子見ていたこの課の中で一番大人しいグレタでさえ、ジョンソは騎士どころか兵士にさえ向いていないのではないかと感じた。


 別に盗賊だからといってもここに居るアル達は殺したいほど恨みがある訳でもないのだが、この国の盗賊による被害は数が多くその対処として即殺のお触れが出た。騎士を目指している者にとってはそのお触れを無視する事は許されない。


 グレタの感は当たって、ジョンソは心の弱さが原因で半年もしない内にこの学校から去ることになる。

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