四日目
今は9時半。
そろそろ村を出る。
まさか村から逃げることになるなんて、数日前にはありえないことだったのに。
僕は生きていける。
僕の今の祝福は最悪だけど、それでも僕を必要としてくれる人がいる。
村長、ルルディ、彼らがいてくれるというただそれだけで、僕は自分を肯定できる。
きっと外に出てからの生活は大変だ。
僕の祝福はずっとこのままだ。
人とのまともな生活なんてできない。
一生、人の体温を感じることができない。
それでも今の僕は生きていきたいと思っている。
もう処刑されないなら、この落書きの趣旨も変わってくるな。
まあ、日記のようなものとして続けようかなって思ってる。
外の世界では仕事をしないと食べていくこともできない。その世界で僕ができる仕事は限りなく少ない、というかほとんどないと言ってもいいほどだと思う。
だけど、もしかしたら小説家になれるかもしれない。
今書いてるこれは、5日後の処刑を宣告された少年の日記のようなもの、とかいうタイトルにしたら、ちょっとおもしろそうじゃないかな?
自惚れなのは分かってる。外の世界の本を読む度、世界にはこんなにおもしろい物語を書ける人間がいるのかといつも驚いていた。
僕が人にそんな風に思われるほどおもしろい物語を書けるとは思わない。思わないけれど、これは落書きなのだし、外の世界で生きていくのが絶望的な僕だからこそ、将来の夢くらい持たせてくれてもいいと思うんだ。
そろそろ家を出る。
この落書きは続けたいし、外に持っていくことにする。
じゃあ、続きは外で。
なんで、こんなことになった。
全部うまくいくはずだったのに。
村長は死んだし、僕は村の牢屋なんて、なんの、冗談だよ。
ふざけるな。
許せない。
ジョンも、村の奴らも、みんな許さない。
僕と村長はあと少しで村から逃げられたんだ。
本当にあと少しだったのに。
村長はジョンの操る蜂に刺されて死んだ。
ジョンは僕たちの昨日の会話を盗み聞きしていた。
ジョン、お前は村長に恩があるんじゃなかったのか?
まず、なんでその場で殺す必要があったんだ。
というか、村長を殺すなんてことが村に許されるのか?
いや、許されるんだろうな。
そういう村だ。ここは。
僕もやっと分かった。
村全体の利益を考え、それを損ねる存在は、例えずっと村に貢献し続けてきた村長でさえ殺すんだ。
最低だ。
少し前までいい村だと思っていた僕は完全に間違っていた。村の雰囲気、ルールに、洗脳されていた。
ルールを守ることばかり考える頭の固い連中のおかげで、僕はまだこうして落書きをできているがな。
1度決めた処刑の日程は変えたくないらしい。
本来ならそんなことはないだろうが、僕の祝福を怖がって看守もついていないから、この落書きを村のヤツらの目を気にせず書けるのは唯一の救いだ。
何かしてないと落ち着かない。
頭がおかしくなりそうだ。
村長は僕を生かそうとしてくれただけだ。
僕は生きたかっただけだ。
生きたいと思うのは人間、いや、生物として当然の思考じゃないのか。
なぜ許されないんだ。
祝福は僕のせいじゃないんだ。
誰のせいでもないんだ。
いや、神のせいか?
なんなんだよ神って。
全知全能の存在。
なんでお前は、村長を、僕を、助けてくれない?
なんで僕に、こんな最悪な祝福を授けた?
こんなの祝福なんかじゃない。
何を祝ってるってんだ。
呪いだろうが。
僕もあんな祝福がよかった。
僕を捕まえたあいつ、名前は知らないが、無から自由自在に動く鞭を作り出す祝福だった。
僕は為す術もなく捕まった。
僕だって、何かを生みだしたかった。
でも僕の祝福は、生み出すどころか、破壊するだけだった。
鞭野郎が、毎日3食、飯を与えにやって来るらしい。
牢屋とは言っても、割と綺麗だし、飯は美味いし、ベッドもトイレもある。
もうここで暮らさせてくれよ、せめて。
「なぁ、俺ここで暮らせばそれでよくないか?あんたが毎日飯運んでくれたら問題ないだろ??」
夕食を持ってきた鞭野郎にダメ元で頼んでみる。
もう今の俺は、何がなんでも生きたかった。
きっと、恨んでいる奴らに養ってくれと交渉するなんてとても恥ずかしいことなんだろうが、俺はそれでも生きたかった。
まあ、即、断られたが。
クソ共がよ。外の世界と違って、飯作るのも簡単なこの村で、なんでダメなんだよ。
村のあらゆる祝福者によって、誰もがうまい飯を簡単に食べられる。
俺一人分くらい増えてもなんも変わりゃしねーのによ。
「この牢屋に俺がずっといてよぉ、あんたが飯持ってきてくれれば俺は誰も殺せねーじゃねぇかよぉ。なーにがだめなんだよぉ?」
お前の処刑は村がもう既に決めたことだ。
それに、、
そこで鞭野郎は言い淀んだ。失言したようで、その後何も言わずすぐ出ていった。
何かあるのか?もしかして、祝福の強弱に関係することじゃないだろうか。
分からないが、俺の祝福は、まだ強くなる可能性があるとか、そういうことならば、確かに処刑には合理性がある。
いや、ないか。きっと鞭野郎が言い淀んだのは俺を殺す合理的な理由が見つからなかったからだ。
処刑には合理性があるだなんて、俺の希望的観測だ。
俺が殺されるのに、理不尽な理由であって欲しくないという。
ああ、死にたくないな。
でも不思議なことに、ルルディに会いたいとかは、正直あんまりないな。
ルルディには感謝してるけどな。
やっぱり俺のことをずっと、真剣に考え、俺のために命を懸け、その結果死んでしまった村長。
彼が俺にとって最も大事で、重要な存在だったように思えるからだろうか。
ルルディは確かに俺に生きる希望を与えてくれた。
だが、会ったのは2回だしな、結局。
きっとルルディも、違う土地に引っ越す頃には、俺のことなど忘れているだろう。
なんだか悟ってきているのかもしれないな。うん。
くそこの落書き絶対売れるだろ外の世界で。
絶対おもしれぇわ。
むかつくなぁ。
俺の価値をわからねぇクソ共がよ。
俺が外で本を出せばきっと人気小説家になるぜ、いや間違いない。
人は本当に絶望すると気が大きくなるのか?(笑)
死にたくねぇ。
脱獄でも考えるか、ダメ元で。
牢屋は石造りだ。
その時点で詰んでる気がするが。
窓は一応ある。
俺が背伸びしてギリギリ外が見える高さにある。
いや窓と言えるのだろうかこれは。
俺の小顔も入らないほどの縦幅しかなく、柱が何本もたっている。
まあでも抜け出すならここかなぁ?
床も天井もしっかりしてるしな。
おっ、クソみたいな気分だったけどちょっとだけ楽しくなってきたな。
いや無理だわ。何時間もいろいろ試行錯誤したけど、無理です。
試行錯誤と言ってもなんの道具も持たない少年1人の非力な力じゃやれることなんてなかった。
ああ、死ぬのか、俺。
こんな時でも、眠気は来るらしい。
起きてても鬱なだけだし。幸せな夢でも見るか。
おやすみ世界。
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