二日目
二日目
決めた。村長の提案を受ける。僕は外が見たい。海が見たい。国が見たい。火山が見たい。
村長には申し訳ないとは思う。でも、村長はリスクを承知で僕を村に出してくれるんだ。感謝しよう。そして、絶対に村のみんなにバレないように。
もう9時半だ。じゃあ、行ってくるね。帰ってきたら外のことをこれに書こう。今日はいっぱい書けそうだ。
外の世界はやっぱり凄かった。
順序立てて書いていくね。
今日の朝10時前、村長と僕は第5広場に向かった。第5広場は昔は使われていたらしいけど今はなんの役割も持っていなくて、村のはずれにあるから誰もわざわざ行くことがない。
村長は初めに、外の世界で気をつけるべきことを教えてくれた。よく考えれば分かることだったけど、村の外に出るなら僕は植物や動物を必然的に殺すことになる。
村の外は大きな森で囲まれている。
そう、僕がその森を移動するなら、たくさんの木々、そしてそこにいる動物たちを殺しながら移動していかなければならない。
村長から指摘され、森の生命をたくさん奪ってしまうならやっぱり僕は出たくないかもしれないと言うと、村長は今回村の外に出る方法は森を介さない、一瞬で森の外に出て、森の外から帰ってこられる方法だと教えてくれた。
しかし森の外にも自然が広がっているため、その方法を用いても、植物や動物は間違いなく殺してしまうだろうということも。
そして一番は、人に気をつけろということだった。
村の外の森は外の世界では迷いの森とされている。それは村の者が外の人間を村に入れないために複数の祝福で森に入ったよそ者が絶対に村にたどり着かないようにしているからである。
だからわざわざこの森に近づく人間はほとんどおらず、近くに町や村もない。
そのため僕が外に出ても人に会う可能性は限りなく低いが、そもそも近づいてしまえばその人間を殺してしまうし、こんなところに少年が一人でいるということを変に勘繰ってくる人間もいるかもしれない。
一番は人がいないことだが、もし人がいるのに気づいたらなるべく見つからないようにし、絶対に自分から近づいていくことはないようにと、村長は僕に警告した。
村長には本当に申し訳ないと思ってる。でも僕が出会った人間は悪い人じゃなかったし、それどころかとても素敵な人だった。まあこれについてはもうちょっと後で詳しく書くよ。
森の外に行く方法はやはり祝福によるものだった。第5広場にある牛の石像に向かって一分間祈るポーズをとると、森のすぐ外に瞬間移動できる。
あの石像は誰がなんのために作ったのかずっと謎だったけど、村長の友達が昔村には秘密で作ったらしい。親友である村長にだけ、その像を作った意味を教えてたんだ。
彼の祝福は、簡単に言えば、自分の創作物をワープ地点とすること、って村長は言ってた。
村長はそれ以上は彼について教えてくれなかった。もしかしたらその強すぎる祝福のせいで…。だから村長は僕にも親身になってくれるのかもしれない。
僕たちは周りに誰もいないことを念入りに確認すると、僕だけ牛の石像に向かって一分間祈るポーズをとった。
僕がいなくなっても誰も気づかないけど村長が村から離れるとみんなにバレてしまう。
村長はもう一度、外の人間には気をつけろと警告して、僕を送り出した。
瞬間移動すると、眼前にはだだっ広い野原が広がっていた。村にも野原はあったけど、規模が全然違った。地平線の彼方まで緑、緑、緑だ。
僕の周りだけは緑ではなくなってしまったけれど。そうなることは分かっていたので、なるべく気にしないことにした。せめて動物は殺さないようにしようということで自分を慰めた。
後ろを振り向くとアヒルの石像があった。
村長の親友さんは石像作りの天才だったらしい。たぶんその技術は祝福とは関係ないからすごい。牛もアヒルも本物そっくりだったから。
帰りはこのアヒルに一分間祈ればよいということだった。
行く時は迷ったらどうしようと思っていたが、野原の白くなっている部分を辿ればアヒルまで辿り着けると分かって安心した。
遠くの方に花畑が見えたので、とりあえずそこまで行ってみることにした。
そして、彼女に出会った。
彼女は、花畑の真ん中でひとり佇んでいた。
一瞬、花畑に咲く一際美しい花かと見間違えた。
というのはかっこつけすぎだけど、花のような少女であったのは確かだ。
華奢な身体に銀髪、フリフリのドレスを着た姿は、幼さと美しさを同時に感じさせた。
僕は彼女に見惚れ、ついさっき聞いた村長の警告を忘れ、半ば無意識的に彼女に近づいて行った。
足に枯れた花が触れたところでやっと正気に戻ると、早く隠れないとと思った。
だが次の瞬間、彼女と目が合った。
僕は目をそらすことができなかった。
その青い瞳に、吸い込まれるかのようだった。
足も一歩も動かなった。
彼女は僕に近づいてきた。
自分が何をしているのか、何を見ているのかよく分からず、声も出すことができなかった。
彼女と僕の距離が2mほどになった時、やっと声を振り絞って警告することができた。
僕に近づいたら死んでしまうんだ。信じられないかもしれないけど、その証拠に今僕の周りにある花も草も死んでいるだろう?と。
彼女は立ち止まり、初めて口を開くと「へぇ、おもしろいわね」と言った。
それから僕たちはその場で座って、話し始めた。村長以外の人とちゃんと話すのは初めてだったし、彼女はとても綺麗だったから、最初僕はとても緊張していた。
でも彼女はとても話しやすい娘だったから、話すにつれて緊張は解け、僕は話すのに夢中になっていった。
彼女はルルディという名前だった。
そういえばここまで書いてなかったけど、僕の名前はウルトル、村長がつけてくれた名前だ。
村では名前をつけるのは祝福が授けられた時だから、村長が僕の名付け親なんだ。
僕がウルトルと名乗ると「変な名前ね」と彼女は笑った。
彼女は旅の画家の娘だった。彼女の父親は、世界各地の風景を見て絵を描き、次に辿り着いた町で売るということを繰り返している。
でも描いている絵は風景画ではないというから不思議だ。彼女も父の絵についてはよく知らないようだった。
誰も住んでいないような土地にも赴き、何ヶ月もかけて絵を描くので、なんとわざわざその数ヶ月のために家を建てるらしいから驚きだ。
そのこだわりっぷりにも、こだわりを実現できる財力にも驚く。
村には貨幣制度はないけれど、専属の建築士や大工を雇っていて、何ヶ月もかけて材料を運ばせ、家を作らせる。外の世界でそんなことが出来るのはお金持ちというのは僕でも分かる。
実際、彼は世界的に有名な画家で、彼が気まぐれに絵を売った町ではその後大規模なオークションが開かれるという。
彼女は、親の都合で辺鄙な場所に連れて行かれるし、都会に行っても数ヶ月であとにするから友達ができないと嘆いていた。
だから今日僕に会えて嬉しいとも。
僕も君に会えて嬉しいと言いたかったけど、言おうとするとなぜか胸が熱くなって言えなかった。あれは一体なんだったんだろう。
僕が彼女に質問してばかりいると、彼女が「私にも質問させてよ」と言ってきた。
僕が困って黙っていると「あんた私にはいろいろ聞いて言わせるのに自分のことはだんまりなワケ?」と。
村のことは絶対に話しちゃダメだ。
これ以上話していると彼女に何もかも話しかねない。
そう思った僕は踵を返し、来た道を走り出した。
「ちょ、ちょっと待ってよ!言い方が悪かったわ!自分のことは話さなくてもいいからもうちょっと私と話してよ!」
背中に甘い誘惑が投げかけられたが、ここで振り返ってしまうと僕は絶対に全て打ち明けてしまうと分かっていた。
だから僕は振り返らず、さらに走った。
「分かったわ!また明日もここにいるから来てよ!」
僕は尚も彼女を無視した。心苦しかった。
アヒルの石像まで辿り着くと、彼女はもう見えなかった。
ずっと走ってきていたので息が絶えていた僕は座ってひと休みすると、後悔がどっと押し寄せてきた。
彼女ともっと話したかった。
彼女と友達になりたかった。
彼女に村や僕のことについて教えたかった。
村と自分と村長のためにしかたなかったと自分を慰め、どうにか自分を落ち着かせた。
落ち着くと、彼女にこのアヒルの石像が見つかってしまうのではないかと思った。
それはまずいと一瞬思ったが、見つかっても大丈夫なように、一分間祈らなければ効果が働かないことを思い出した。
彼女に祈る姿、瞬間移動する瞬間を見られればアウトだが、彼女がこのアヒルの石像を見つけた時に僕がいなければ彼女が村に入ってくることは無い。その場合彼女は僕がどこにどう消えたんだと訝しむだろうけど。
とにもかくにも早めに村に戻った方がいいと思った僕は、すぐに祈るポーズを取った。
そして、僕は村に帰ってきた。
第5広場には村長がいた。
ずっとここで待っていた訳じゃないけど時折来ていたらしかった。
村長は僕におかえりとだけ言うと、特に何も聞かなかった。僕も後ろめたさもあって何も言えなかった。
そして家に帰って昼食を食べ、今部屋でこれを書いている。
こんなに早く帰ってきて、村長にはやっぱり人と会ったってバレてるかな。
村長が、明日も外に出ないかと提案してきた。
断れるはずなどなかった。
やっぱり彼女ともう一度会いたい。
もっと話したい。
村長に何度も、ありがとうと言った。
村長は、お前にしてやれることを全部やっておきたいだけだよと言って笑った。
明日が楽しみだ。
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