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一日目

 処刑を宣告された。


 五日後の午後五時、村の広場で僕は打首にされる。まあ、仕方ないよね。僕のせいだ。


 最後に何かやりたいことがあるなら、5日間で全てやり終えて来いと言われた。


 僕は昔からものを書くのが好きだったから、最期は日記というか伝記というか小説というか落書きでも書き残しておきたいと思う。


 もしかしたら僕が死んだ後にいつか、この村のことを知らない人がこの落書きを見てくれるかもしれないし、村についても書いておこうかな。


 この村は外界と関わりを断ち、外の人間から隠れて生活を営んでいる。

 しかし、村は世界で一番裕福な生活をしている、らしい。


 僕は外の世界なんて行ったことも見たこともないから詳しいことは分からないけれど、外の世界の人々は食べ物を食べるためにわざわざ動物を殺したり、畑というものを作ったりしないといけないらしい。


 そんな話を聞くと、僕はこの村に生まれただけで幸せだったように思う。


 僕は、呪われている。


 この村の人々は生後10ヶ月で祝福を授かる。もちろん神様からだ。村の外の人でも神様を信じない人はいないだろうし、神様については詳しく書かないよ。


 この村の先祖は大昔に神様と契約したらしい。でも契約の内容は誰も知らないらしい。なんだからしいばっかりだな。でもしかたない。僕の知ってることなんて村長が教えてくれたことだけなんだ。


 とにかく、この村は特別で、生後10ヶ月後ちょうどに、神様から祝福という名の固有の能力を授かる。僕からしたら祝福されない外の人間たちの方が信じられないけどね。


 祝福による能力は多種多様だ。

 口から火を吐く。手に触れた植物を急成長させる。催眠術をかける。昆虫を操る。透明になる。パララライトを消す。欠鬱病を治す。動物を複製する。生物を殺さず部位を取る。難像を助ける。みたいな感じでね。

僕が知ってるだけでも全部書こうとすると大変な数になるからこの辺でやめておくよ。


 そう、問題は僕の祝福だったんだ。


 祝福はちょうど1年経つごとに、能力が強くなったり弱くなったりする。強くなったり弱くなったりを繰り返し、10年経った時、その状態が固定される。


 しかもその変化に、僕たちは為す術がない。能力をいっぱい使っても、全く使わなくても、強くなるのか弱くなるのか分からない。結果は同じ。


 神様って気まぐれだよね、ほんと。


 僕の祝福は最初、「肌で触れた生物を殺す」だった。


 祝福は危険なものであることも少なくないから、祝福が何かは最初に念入りに調べる。だから僕は祝福で人や動物を殺したことはないよ。昆虫を操れるジョンさんが、毎年僕の祝福を調べてくれた。


 僕は当時、その場で処刑されそうになっていたらしい。祝福が危険すぎるからね。


 危険な祝福の持ち主が処刑されることは珍しくない。その祝福が当人の意思で操ることができるものなら、たとえ危険なものであっても教育することで危険をなくすことができる可能性があるから、最初に処刑されることはない。


 僕みたいな場合は結構処刑されてきたみたいだ。でも僕の時は村長が助けてくれた。まあ赤ちゃんの時のことは知らないけどね。村長からそう聞いてる。


 村長が村の反対を押し切って、僕を生かしてくれたんだ。僕の祝福はみんなが細心の注意を払えば誰も傷つかないものだって言って、村のみんなを説得した。村長はいい人なんだ、とっても。本当に、感謝してるよ。


 でも、村のみんなは納得がいかず、どうしても譲らない村長に交換条件を出した。それは、僕の祝福が一年ごとの変化で少しでも最初の状態より強いものになったら、その場で処刑するというものだった。

 村長はしかたなく、この交換条件を飲んだ。


 ここまで読んでくれた人ならもう分かったよね。そう、僕の祝福は今日初めて強くなったんだ。今日が10年目、変化が終わる日だったのにね、ついてないよ。


 僕の祝福は9年目まで、全く変化しなかった。変化なしというのはたまにあることではあるんだけど、9年連続というのは歴代初だって、驚かれてたね。


 10年目、最後の変化の今日、僕の祝福は強くなった。今の僕の半径1メートル、正確には1.27m以内に近づいた生命は、例外なく息絶える。


 本来ならその場で処刑されるはずだった。

 けれど、村長が涙を流して、村のみんなに頼んでくれた。五日間だけ待って欲しいって。

 村のみんなも村長のその姿に心を打たれたのか。僕に処刑まで五日間の猶予を与えてくれた。


 だから僕はこうして、落書きを残せている。村長は本当に優しい。僕を今日まで育ててくれたのも、村長だ。


 村の人間は17歳になると成人したと認定され、村に残るか、外の世界に出ていくかの二手に分かれる。


 それは自分で選択できる訳ではない。村の長老会が決める。長老会というのは村に残った大人たちだ。長老とは言うがお年寄りの人ばかりではない。成人した日、村に残ったその日から長老会の一員だ。


 僕の両親は2人が16の時に僕を産んだ。そして成人し、2人とも外の世界に出ていくことになってしまった。だから僕は彼らのことを何も覚えてない。


 普通このような場合長老会の誰かが僕を引き取るのだけど、みんな僕の祝福を怖がって引き取ろうとしないから、村長が僕を引き取り育ててくれることになった。


 学校にも通わせてもらえなかった僕は、読み書きも、算数も、歴史も、道徳も、全て村長から教わった。


 正直、村長はいい人すぎると思う。処刑が決まった時、僕は泣くことも出来なかったのに、僕の代わりにおいおいと泣いてくれた。


 村長以外の人とはろくに話したこともないけれど、僕は村長と話せて、暮らせて幸せだったと思う。


 村のこと、僕のことはだいたい書いたね。ここからは何を書こうかな。


 明日から処刑前日までの4日間で何をしたいか、とかかな。

 死ぬのは悲しいけれど、僕は幸せに生きてきたし、後悔とかはないんだよね。


 だから、やりたいこととか思いつかないな。こうやって文を書いたり、本を読んだりするのが一番好きで、ずっとそればかりしてきたし、もうすぐ死ぬからといって今更趣味趣向を変えたいとも思わない。


 結構文章書いて少し疲れたし、村長が用意してくれた夕食でも食べながら、明日からのこと、この落書きに書くことでも考えようかな。いつもは一緒に夕食を食べてたのに、もう近づくこともできないのは少し寂しいね。






 村長がとんでもない提案を出してきた。死ぬ前に村の外の世界を見てみないか、って。


 成人前に村の外に出るのは村最大の禁忌とされていて、それを破った者はどれだけ幼くても処刑するとされている。みんな処刑されたくなくて絶対に村の外に出ないから実際に処刑される人は歴代でもほとんどいないみたいなんだけどね。


 村長は一体何を考えているんだろう。


 でも正直、その世界に全く興味がないと言ったら嘘になる。さっきは悟ったような事を書いたけど、僕の読んできた本の多くは、村の外に出た大人たちが村に持ち込んできたものだ。外の世界には、村とは比べ物にならないほど大きな世界が広がっているという。


 僕は外の世界の知識はそれなりにあるけれど、たぶん全く経験がともなっていない分勘違いしてる部分とか誤解してる部分も多い。


 村の1000倍ほど人がいる国というのが世界にはたくさんあって、その人たちはそれぞれ使う言語も、肌の色も、価値観も全然違って、戦争と呼ばれる国が主導する殺し合いをして領地争いをしてるとか。


 この世には海っていう僕たちが今立っている地面よりはるかに大きな水溜まりがあるって話だとか。


 山っていう土が高く高く盛り上がったものが世界にはたくさんあり、中には火山という中が燃えている山もあるんだとかいう話も。


 実際に見ないことには到底信じられないことが、外の世界には現実に起こっているらしい。


 どうしよう、想像してたら本当に外に出たくなってきちゃった。


 でも、どうせ処刑される僕は外に出たことがバレてもいいとしても、外に出る手助けをする村長はどうなってしまうんだろうか。


 村長はバレないようにすればいいって言ってたけど。大丈夫かな。というか村長って本当はそういうのを止める方の立場の人なのにね。僕なんかのために、命を懸けてくれる。本当に本当にいい人だ。


 村長は、提案を飲むのであれば明日の朝出発する。それまでに決めてくれと言った。


 もう夜も遅くなってきたな。今日の落書きはこれで終わりにして、寝ながら村長の提案を受けるかどうか考えることにしよう。


おやすみ。









ここまで読んで下さり本当にありがとうございます!

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どんなものでも構いませんので、感想、レビューも待ってます!

最後まで読んで下さると嬉しいです!

よろしくお願いします!

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