『エルフ奴隷』
金さえあれば殆どのものが手に入る時代ですが、基本的人権を売買してはいけません。
――とある新聞の時事記事より。
奴隷と言えば、何を思い浮かべるだろうか。
古代や中世の社会には、世界各地に奴隷が存在した。
リンカーン大統領の奴隷解放宣言を思い浮かべる方もおられるだろう。
この世界に転移した後、奴隷が公然と売買されている事に驚いた方もいるかも知れない。
何れにせよ多くの日本人にとって奴隷とは遠い過去、あるいは日本国外の話と思われるだろう。
しかし最近、奴隷を買う日本人が増えているのだ。
主な購入者は富裕層の男性で、奴隷の多くはエルフ族の女性。
そして両者は結婚までしてしまう。
通常は出会いの無いエルフ女性と結婚する為に奴隷を買うのだ。
本邦の法律では、非合法な手段によって結ばれた婚姻は無効である。
誘拐や人身売買で“手に入れた”異性との結婚は、本来は無効な筈だ。
だが、そんな法の穴を突くような方法で奴隷と結婚してしまう。
手口はこうだ。
日本人購入者が奴隷商と知り合い関係を持ち、奴隷商から合法な物品を高額で購入する。
この物品というのは日本国内でも大陸でも大して価値の無い代物だ。
そうしているうちに奴隷商から“養子”を紹介され、結婚に至る。
形式的にはお見合いあるいは自由恋愛による結婚だ。
だが実質的には、奴隷商から奴隷を買っての結婚であるのは明白。
大枚を叩いて奴隷商に貢いだ挙句に逃亡される日本人もいると聞く。
自業自得だが奴隷商を肥え太らせる行為は笑うに笑えない。
規模こそ小さいものの立派な奴隷貿易が成立してしまっている事に、政府や所轄官庁、弁護士会などは違法性の啓蒙を行っている。
だが、このような問題は明確な犯罪行為に限らない。この世界の原住民への差別的で尊大な態度が目につく。
同じ日本人として嘆かわしい事だが、最近の日本人は異世界という新天地で羽目を外し過ぎではないだろうか。
およそどこに行っても日本人というだけで尊敬され、あるいは畏怖されるような環境を当然と考えていないだろうか。
そのような態度は、異世界の多くの国や地域、民族と良好な関係を築き上げた先人たちへの冒涜だと思い直して欲しい。
エルフ族という、わが国でも人権を認められた異種族の奴隷を購入する心理は、そのような心理の延長線にあるのだから。
※写真は『奴隷制にSTOP! 人身売買にNO!』デモが行われた都内の繁華街。