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短編大作選

なぜ?

掲載日:2018/05/24

「ここはどこなのでしょう……」


平良来夢は目覚めた。


平良来夢は起き上がった。


平良来夢は見回した。


四角くて狭い空間。


囲むツルツルの白い壁。


天井には光を放つ電灯。


一切モノの存在しない部屋。


あっけらかんと空虚。


硬く冷たい床。


閉じた立派な扉。


横たわる女性が二人。


一人はピンクのワンピース。


一人はラフな白の上下。


寝ている男性も一人。


黒ずくめの無精髭。


短髪にメガネ。


部屋には計四人。


無味無臭で閑散。


生温い空気。


服装はそのままの青。


持ち物は皆無。


平良来夢は歩く。


平良来夢は扉に近づく。


平良来夢は取っ手を掴む。


動かない扉。


頭は混乱。


心は焦燥。


顔は悲しみ。


怯えの境地。


初めての動くもの。


起き上がるピンクのワンピース。


投げ掛ける言葉。


「わたくしたち、閉じ込められていますよ」


「えっ、嘘ですよね」


上川依都は天井を見上げる。


照明の光が見える。


外の光は見えない。


上川依都は周りを見渡す。


白い壁が見える。


壁の外は見えない。


上川依都は目線を少し下げる。


女性一人男性一人が床にいる。


立ち尽くす一人の女性の足がある。


人以外は床にない。


上川依都はゆっくり立ち上がる。


体は温かい。


心は温かくない。


上川依都はワンピースを探る。


ポケットには何もない。


希望も何もない。


上川依都は扉に近づく。


硬そう。


厚そう。


開かなそう。


上川依都は扉の上に目をやる。


小さな四角。


潜むドアらしきもの。


上川依都の耳に後ろから新たな声が入る。


「わたくしたち、閉じ込められていますよ」


「えっ、マジで?監禁ってこと?」


蓮田弘子は下をみる。


白い。


蓮田弘子は前をみる。


白い。


蓮田弘子は右をみる。


白い。


蓮田弘子は左をみる。


白い。


蓮田弘子は後をみる。


白い。


蓮田弘子は上をみる。


白い。


蓮田弘子は光をみる。


白い。


蓮田弘子は扉をみる。


白い。


蓮田弘子は女性をみる。


ピンク。


蓮田弘子は自分をみる。


白い。


蓮田弘子は女性をみる。


青い。


蓮田弘子は男性をみる。


黒い。


蓮田弘子は未来をみる。


黒い。


蓮田弘子は男性をみる。


動く。


「わたくしたち、閉じ込められていますよ」


「えっ、お姉さんたち誰ですか?」


「わたくしは普通のOLです」


「私は小さな工場で働いてます」


「あたしは大工だよ」


「俺は飲食店勤務ですけど、みんな共通点ないですよね。何でこの四人なのか俺 にはさっぱり分からないです」


「とりあえず、落ち着いてください。まず、私がこの部屋を調べてみますので」


「俺、夕食前の記憶しかなくて。次の日の朝の10時から仕事だったんですけど、ケータイないから連絡も出来ませんし時間も分かりません」


「今はまだ、午前5時56分ですから大丈夫ですよ。わたくしはOLですので、今日は休みですが」


「オバサン、時計無いのに何で分かるの?」


「お嬢さん?この女性をオバサンと呼ぶのは失礼だよ。俺はお姉さんだと思ってるからね」


「それで、なんで時間が分かるの?」


「わたくしには時間が正確に分かる特殊能力みたいなものがあるのです」


「でも、そんなの脱出の役に立たないじゃん」


「そうですよね。わたくしの、この能力も今は何の意味もありませんよね」


「みなさん、こっちに来てください。とりあえず、扉の上を調べてみましょう。私が肩車するので」


「わたくしが行って参ります」


平良来夢は目が覚める。


平良来夢は立ち上がる。


平良来夢は未来を見つめる。


平良来夢は上川依都に乗る。


平良来夢は凝視する。


模様の無い白の壁。


薄い境目。


四角い境目。


小さめの四角。


小さめの四角の中の極小の長四角。


平良来夢は指で押す。


現れた突起。


隠れ取っ手。


隠れていた白。


平良来夢は引っ張る。


動きのない壁。


赤くなる掌。


焦る右腕。


「わたくしの力では無理でした。支える方は大変でしたよね、すみません」


「少し重かったですよ。62キロありますよね?」


「何でわたくしの体重をご存知なんでしょうか?」


「実は私もカッコよく言うと特殊能力者のようなものでして」


「そっちのオバサンだけじゃなくて、こっちのオバサンもかよ。でも使うときなくない?」


「誰が一番軽いかとか分かるでしょ。あと握力も分かるよ、お嬢ちゃん?」


「自己申告でいいじゃん。それに正確じゃなくてもいいしさ。あたしの方がよっぽど役に立つし」


「お嬢様にも、わたくしたちのような特殊能力が備わっているのですか?」


「うん、あたしは長さ」


「じゃあ、私の身長は分かる?」


「重さが分かるオバサンは、靴も含めると168センチだね。直線だけじゃなくて曲線も分かるよ、正確にね」


「凄いね」


「隠し扉は見つかりましたけども、力が強い人がいませんと、わたくしたちは出ることが出来ませんよ」


「オジサン寝ちゃったしね、そもそもガリガリで弱そうだし、あたしに任せて」


蓮田弘子は見上げる。


蓮田弘子は肩に乗る。


蓮田弘子はゆっくり上がる。


蓮田弘子は四角を見る。


蓮田弘子は取っ手を握る。


蓮田弘子は引っ張る。


蓮田弘子は扉を全開にする。


蓮田弘子は穴の長さを測る。


蓮田弘子は中に顔を入れる。


蓮田弘子は振り返る。


蓮田弘子は下を見る。


「この扉の先に通路みたいなヤツがあったから、通れば出られるかもよ」


「行ってきてくれる?お嬢ちゃんは42キロで軽いから、押せば入れそうだしね」


「オバサン、あたしの肩幅42センチで穴の横幅が40センチなんだわ」


「私は一番太ってるから無理だし、お姉さんはお嬢ちゃんより細くはないですしね。お嬢ちゃん?試しに……」


「あたし入れるかもしれないけど、長そうな通路だったから疲れるだろうし、途中で身動き取れなくなったら終わりだし、マジで嫌だからね」


「他に通路があるかどうか探してみましょう。わたくしは床を見てみますね」


「はい。壁には何も無さそうだし、私たちも床を見てみようか、お嬢ちゃん?今、降ろすからね」


「ねえ?オバサン2人とあたしが特殊能力者ってことは、あのオジサンも何かしらの特殊能力持ってるっしょ!」


「そうですね。それはあると思います。よく気が付きましたね、お嬢様」


「私たちよりもすごい能力を持っているかもしれませんね」


「誰かがわたくしたちを閉じ込めて試しているのでしょう」


「あのデカくて頑丈な扉を破壊するくらい半端ない怪力のオジサンとかじゃね?」


「うん。でも、それならとっくに破壊してるでしょ?」


「じゃあ、顔がパンで出来てるとか?」


「そういうものは、物語の中だけのお話しですからね、お嬢様」


「あのね、お嬢ちゃん?食べ物の話はやめようね。食べたくなっちゃうから」


「お腹すいたよ?オバサン、今何時?」


「午前6時45分です」


「あっ、寝てるだけで役に立たないジジイ使えるかも」


「えっ?」


「ジジイならあそこ通れるじゃん。服着てても横幅より余裕で狭い肩幅してるし」


「この方法しかないですよ。このオジ様にあの狭い通路を通っていただきましょう」


「私が起こしますね」


上川依都は歩み寄る。


体は近い。


心は近くない。


上川依都は体勢を低くする。


体が曲がる。


責任は曲がらない。


上川依都は両手で触れる。


体を揺する。


不安に揺すられる。


上川依都は声を出す。


優しく。


大きく。


力強く。


男が目を覚ます。


上川依都は揺する手を止める。


動き出す。


起き上がる。


喋り始める。


「ごめんなさい。俺、三日くらい寝てなくて、つい寝てしまいました。それで、脱出方法は見つかりましたか?」


「はい、扉の上に通路のようなものが見つかったんですけど狭くて私たちでは通れないんです」


「そう、あたしも通れなくてオジサンしか通れないの」


「あなたが工場勤務さんで、あなたが大工さんで、あなたがOLさんでしたよね?」


「わたくしたちのことをそれ程までに覚えているということは記憶力が相当宜しいんですね」


「三人とも凄く可愛いから顔もすぐ覚えちゃいました」


「もしかしてあなた、驚異的な記憶力の持ち主とかですか?」


「違いますよ。記憶力はそれほど良くないです。あなた?脱出したらお食事でもどうですか?あっ、四人で行くっていうのはどうでしょう?」


「それより、はやく通路に登ってよ。話してる時間無いからね、オジサン!」


「それで、誰が持ち上げてくれるんですか?工場勤務さんですか?」


「はい、私が一番ガッシリしているので」


「収集作業でずっと寝てなくて疲れているので登れるか分かりませんよ」


「わたくしとお嬢様も下で支えますので大丈夫ですよ」


「オジサン特殊能力持ってないじゃん」


「特殊能力って何のことですか?」


「何でもないです。じゃあ肩車しますね」


川寺文明は肩に足を乗せる。


ニヤつく。


川寺文明は足を掴まれる。


ニヤつく。


川寺文明は上に上げられる。


通路を見つめる。


川寺文明は正方形に手を掛ける。


しかめる。


川寺文明は左右から押し上げられる。


ニヤける。


川寺文明はバランスを崩す。


落ちそうになる。


受け止められる。


抱きつく。


ニヤける。


ベタベタ触る。


ニヤける。


嫌われる。


「オジサン触んなよ。マジでキモいんだよ!」


「お嬢さん、そんなこと言わないの。協力しないと外に出られないんだから」


「すみませんでした。可愛かったものですから、つい」


「オバサンは触られてニヤニヤされてるのにキモくないの?」


「私は別に気持ち悪いとは思ってないよ」


「また挑戦してみましょう。今は脱出することだけを考えるべきです。わたくしたちは必ず外に出られますよ」


「通路を進んでいったとしても、どこに出られるか分からないし、この扉は外からも簡単に開かないかもしれないけど、諦めずにやるしかないですね」


「俺、頑張ります。また上げてください」


「ベタベタしたり、ニヤつくんじゃねえぞ」


川寺文明は肩に足を乗せる。


真顔。


川寺文明は足を掴まれる。


凛々しい顔。


川寺文明は上に上げられる。


通路を睨みつける。


川寺文明は正方形に手を掛ける。


くいしばる。


川寺文明は左右から押し上げられる。


全力を出す。


川寺文明は通路に体をねじ込む。


進んでいく。


川寺文明を祈りと声援が押す。


笑顔になる。


川寺文明は三人から見えなくなる。


ニヤける。


大笑いする。


高笑いする。


「あとはあの扉が開くのを待つだけですね」


「あのジジイ大丈夫かな?」


「わたくしたちは信じて待つしかありませんね」


「オバサン、今何時?」


「午前7時13分です」


正確な時間が分かる女がひとり。


正確な重さが分かる女がひとり。


正確な長さが分かる女がひとり。


誰でも好きになれる男がひとり。

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