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002 熊肉と爆炎

002

一週間ほど廃ビルに潜んでいるものの、特に追っ手の気配はない。

ロキシィは一先ずホッとした。が実はホッともしてられない、切羽詰まった状況である、金が無い。

寝ぐらを放棄した時に持って来た金は殆ど尽きてしまった。

それもこれも、全部マトモな店で必要なものを買えないせいだ。

食事をするにも何をするにも住民IDカードが要る。住民カードを使えば当然どこに居るかが割れてしまうため闇ショップで買わざるを得ない。

普通の追跡者相手ならそんなことは気にする必要もないのだが、ロキシィが追われているのはザナドゥを統治するほどの大企業。

間違いなくその程度のことはして来るだろう、念には念を重ねる必要がある。

とにかく、現在のロキシィに必要なものは、金と食事であった。

これでもう少し愛嬌を振りまけるタイプであれば困ることは何一つなかったのであろうが、ロキシィは極めてそういうのが下手なタイプだ、一人称が「俺」であるところから伺えるかもしれないが。

「マジで困ったな……、どうするか」まあ、後一週間なんとかなる分はあるし、大丈夫か。ロキシィは考えを保留する悪癖があった。


「やべえ、全然大丈夫じゃねえ……」

街をふらつきながらロキシィは呟く。

ぶつかったサラリーマンらしき男が舌打ちをし、それから哀れみの目で見る。

あれから二週間、事態は一切好転して居なかった。金は尽きた、少女の貯金程度では一月すらなんともならない。

最後の食料が尽きて三日、水分だけで生きてきたがそれもここいらが限界だろう。

(何でこんな思いをしてるんだ?何のせいだ?全部ザナドゥのせいか)

倒れて、運ばれでもしたら直ぐに奴らが来るだろう。

何処に行くべきなのだろうか。誰ならば匿ってくれるのだろうか。

あまり好ましくはなかったが、こうなったら最後の手段を取るしかあるまい、手近なマンホールの蓋を外して地下へ降りる。

ザナドゥの地下は地上とは別の意味で無法地帯である。地上に行き場をなくした犯罪者、ゴロツキの温床で、統治企業すら手を焼く始末。彼等は『モグラ族』と呼ばれ貧民街の住人からすら忌み嫌われている。子供の自分がやすやすと受け入れられる場所ではないが、そこぐらいしか行けそうな場所がないのだ。

ふら、ふらと地下を彷徨う。

「そろそろ、限界だぞ……、のわぁぁぁあ!?」

天井から降って来る網。

見え見えの罠を踏み、ネットでぐるぐる巻きになるロキシィ。立ち上がる体力もない、気力もない。

誰でもいいから、罠を確認しにきてくれ……、それで俺を見つけてくれ……。

ロキシィは深い眠りに落ちた。



目を覚ましたのは地下施設だったので、ぼやけた頭でもまだ死んでいないということは直ぐにわかった。

天国も地獄も、流石にコンクリの壁に覆われた地下ではないだろう。

「ようやく起きたんだ、あと数分起きなかったら寸刻みにしてた所だよ」

残念、と言った様子で椅子に座った男が肩をすくめる。

銀髪のショートカットが揺れる。手にはナイフ。

(すんきざみ、すんきざみ……、寸刻み)頭の中でロキシィは言葉を反復、変換する。

「やっべえ奴じゃねぇか!?」

ゴザから起き上がり逃げようとする。こいつ、快楽殺人者か何かじゃねえか。と。

「まあ待とう、数分遅かったらの話だし、今危害を加えるつもりはないよ」

そんなことが何の安心になるのか、後でなら危害を加えるつもりじゃないか。

「お前みたいなタイプは絶対信用しないって決めてんだ!」

こういうタイプの男は特にいけ好かない。ロキシィの苦手なタイプである。

「まあ待て、誰がここに運んできて、誰が無理やり口の中に食べ物をねじ込んだと思ってる?」

ぐ…。それを言われると少し弱かった。見て2秒で胡散臭いと分かるようなやつではあるが命の恩人ではある。

「そのことについては感謝してるがな……」

ついでに言うと恩着せがましい奴も嫌いなロキシィである。

「さて、食って寝たからには働いてもらうぞ。若い女が居ると男の士気が上がるからな」

働く、とは何だろうか。やはり何らかの非合法的なものなのだろうか。士気が上がる、とも言っている体を売るとか、なのだろうか。と想像する、さらば貞操。

「いや、お前の想像しているようなことはないぞ。ことによっては食事にありつける、金も貰える」

男の言葉にロキシィは立ち上がる。そりゃ、食事にありつけて金が手に入れば言うことはない。両方とも今欲しいものだ。

「でも、死ぬ可能性はあるぞ、弱かったらな。こっちだ」

男に連れられて、地下施設の奥へ歩く。何か交戦している?そんな音が響く、後は咆哮、どんな野獣かはわからないがともかく野獣である。

「何だ、こいつ……」

ロキシィの6倍はあろうかというの 大きさのクマ、タケナカコーポレーションが作り出したバイオベアーであるが、それと交戦する男が4人。

「よおし、食えそうだぞ。早速バラすか、手伝え」

銀髪男はナイフを投げる、銀に光るナイフは凄まじい切れ味で肉を裂いてゆく。

「おい待て、なんだよあれ!?」

「ちなみに手伝わなければ、追い出すしメシ無しだ」

そう言われては仕方ない。

「うぉらぁぁぁぁあ!成るように成れぇええええ!!」

フル出力で駆け寄り、銀色の腕でぶん殴る。人の何倍の重さがあるのだろう、包帯男とは異なり少し飛ぶぐらいであった。

「嬢ちゃんやるな!負けてらんねぇぞ」

ウォーハンマーを持った連中がここぞとばかりに滅多打ちにする。クマをボコボコにするおっさんとひたすらナイフで足を切る銀髪、動物愛護派が見たら発狂しそうではある。クマの振り回す爪、一撃一撃が生身の部分で受ければ致命傷であろう。

「おい、サボるな穀潰し。さっきのもう一発眉間に食らわせろ!」

銀髪がこちらに声を飛ばす、避けるのに必死なのが見えないのか、とロキシィは毒突く。

「眉間だな?おらぁっ!」

全力で飛び上がり、天井を蹴ってさらに飛び、熊の眉間を殴りつける。

倒れ込んで悶えるクマ。

ここが弱点なのか、使えねえよクマの弱点なんて知っても。とロキシィは華麗に着地。

後は、男たちのハンマーがあっさりクマの頭蓋を砕いて終わりであった。恐ろしく無残な光景である、少女に見せられたものではない。

「よくやった。後は運んで解体するから休んでろ」

銀髪男が熊の死骸と共にどこかへ消える。あの男が解体担当なのだろうか、多分上手いのだろう。うまそうだ。ロキシィは偏見を押し付けた。


ロキシィが右手と左手を戦わせること(それはそれは熾烈な争いであった)1時間と少々。

「……、おい、ガキみたいなことしてんじゃねえ。できたぞ」

他人に見られて恥ずかしい行為ランキング上位入選は確実である手の小競り合いをよりにもよってこいつに……!ロキシィは赤面する。

「のわっ!?あんなデケェのもう解体したのかよ」

銀髪男は肉の乗った皿を差し出す。

「俺のナイフは解体用だからな、お前のそれと同じ匣のアイテムだ」

銀髪男は血にまみれた手で、匣を取り出す。また匣か、と少し身構える。

「おい銀髪、あんまり詳しくねぇんだけどよ、その匣ってなんなんだ?」

「知らん。便利だから使ってるだけ。あと、銀髪って呼ぶな、俺の名前はロイド」

皿に盛られたバイオ熊肉をモグモグと頬張る、久しく食ってない肉の味……、異常ににデカイクマだろうがなんだろうが肉は肉、美味しい。少し大味なのが気にはかかるが。

「ふぅ……、食った…」

活力が湧いてくる、やはり食事はしないとな。やってらんねぇよ。とぼやく。

「あ、ロイド。もう一つ質問だ、なんでこんなトコにクマが居るんだ?下水道だぞここ」

ロイドは真剣な顔を浮かべる。

「タケナカバイオのクソ共のせいだ。実験生物が逃げ出したって名目にして俺らを駆除しようとしてやがる、何人もやられた」

モグラ族は統治企業にとっても問題である、しかし、おおっぴらに大規模な虐殺など行えるわけもない。都市の構成単位が企業である以上、世間体のために超えてはならない一線が存在する。

それに、彼らが住んでいるのはタケナカバイオの旧実験区域であり。現在の所有は曖昧になっている、半ば実効支配は認められている形だ。

「なぁるほど、それで駆除したっつー名目で金をゆすってんだな?」

表面上、不祥事の始末をした存在になる。ある程度の謝礼を強請ることはできるだろう。

「まあ、そんなところだ。ただ、最近妙に強くなってきてな……、そろそろ本気を出してきてるのかもしれん」

困った、とここにある程度身を隠しておきたいロキシィは悩む。

「普通、匣を持ってる奴が居るなんて思っていないだろうしな。一般人ならあのクマで皆殺しにできたはずだ、こりゃ、バイオ生物の戦闘力実験も兼ねてそうだな」

流石にあのレベルが毎日毎日大量に押し寄せてきたら、大変なことになるだろう。

「取り敢えず、いつまでこの均衡が保つか、だ」

不意に、轟音。

「ロイド、やべえ!すぐ来てくれ!」

あの時ウォーハンマーを担いでいた男が駆けてくる。所々に傷と火傷を負っている。

「どうした、またクマか?」

「違う!クマじゃねぇ!!あれは、人間だ!」

轟音の元へ駆ける、ロキシィとロイド。

「んだよ、もしかして匣持ちが攻めて来やがったか?ずいぶん早くに崩れたな、均衡が」

ロイドは舌打ちをしながら音源の部屋へ向かう。

あたり一面、火の海、焼け焦げた臭いが漂っている。そして、火の真ん中に男が1人。おそらくこれの元凶だ。

「おい、よくも燃やしやがったな放火魔。家も人もここに存在してたはずだが?」

ロイドは一歩前へ出る、ロキシィは相手をよく観察する。赤髪に赤のコート。これだけ燃やして焦げ跡一つないということはかなり耐火性に優れているのだろう。

「あぁ?こっちの実験動物喰いまくった奴らが何言ってやがる。実験動物の血肉で生き延びてるならほぼ実験動物だろうが、こっちで処理して構わんだろ?」

左腕のバーナーを上に向けて軽く火を放つ男。ナイフを投げつけるロイド。空を裂くナイフはそのまま喉元へ刺さるはずであった。バーナーで焼き落とされるまでは。

「おいおい!貧相な飛び道具だなおい!匣持ちでそれとはなぁ!良いか、飛び道具っていうのはこういうもんだ……!」

バーナーから直径1m程の火球が飛び出す。勢いよく放たれたそれは着弾とともに炸裂する、先ほどの轟音はこれの音である!

ロキシィ、ロイドともに直撃は回避するものの、炸裂した火の粉を少し受ける。

「接近戦に持ち込めりゃ、俺が一方的に殴れるぞ。なんとかなんねぇか?」

「善処したいな」

狂ったように飛び来る火球を避けながら作戦会議をする、なんとしてでも近接に持ち込まなければ。遠距離では火球、中距離ではバーナーがある。

ロキシィがダッシュで詰め寄る、男の薙ぎ払いにより叶わずバックステップ。

「なんだぁ?テメェは情報にねぇぞ、女」

「そりゃドーモ、俺はアリスでこいつはジャバウォックだ!テメェがボコボコになるまで宜しく頼むぜ」

ロキシィ事前に考えた偽名を名乗る。

「ゲハハハハハ!!不思議の国って柄かよ俺女、投降してヘパイストス様のものになれば見逃してやるぜ!」

ネーミングセンスにゲラゲラ笑いながら下卑た笑みを浮かべる男。

「余所見厳禁、だぞ」

ロイドが足元を狙いナイフを投げる。その数、なんと10本!全部落としきることができずヘパイストスは右足に切り傷!

「ぬうぅ!ネズミの分際で手傷を加えるとは……」

「生憎、こちらはネズミではなくモグラ族だからな」ナイフをさらに連投!

「許さん、ネズミだかモグラだか知らんが燃やせば炭だ!焦げて死ね!」

火球三連発!ナイフを無力化しながらロイドに迫る。そして爆発!ロイドは吹っ飛ぶ!直撃は免れたものの、服がが少し燃える!

「転がれ転がれ!そのぐらいならなんとか消せるぞ!」

ゲラゲラと笑うヘパイストス、ロキシィは火球を掻い潜り、ようやく懐へ!三連発は流石に隙が大きい!

「よう、やっとここまで来たぜ。ともかく一発喰らえや」

しっかりと義手・ジャバウォックを握り込みボディーブローを放つ。

「ゲボッ!?」突き当たりの壁まで吹き飛ぶヘバイストス。

すぐさま体制を立て直し、接近しながら火球連打!距離が遠すぎるせいで隙が意味を成さない。

「のわわわわ!」

慌てて避けるロキシィ。

「お前は頭悪いのか?あんなに吹っ飛ばしたら不利になるだろうが」

なんとか無事生還したロイドのナイフも届かぬ、完全にヘパイストスの一方的殺戮距離である。

「うっ、おっ!?ぐっ……!あっちぃ!!」

炸裂弾を避けきれず右の義手で防ぐ、弾き飛ばされロキシィには熱によるダメージ!

金属製であることが仇となった、接触部が熱い!

「お、おいこら!排熱しろ排熱!普通金属義体ならついてるだろ!そんぐらい!」

ロキシィの言葉に、包帯男との戦闘の時のように龍の口へと右の義手が変形する。

「おい、変型じゃねぇよ、熱いから排熱を……!」

また火球が接近、避けられぬ、義手で防ぐしかない!

その瞬間、龍の口から青白い炎が放出される!排熱機構と攻撃を一体化したシステムである。一挙両得だ!

青白い炎は火球を喰らい尽くしヘパイストスまで到達!だがこれはあっさり回避。

「おいテメェ!なんだその腕は!」

ヘパイストスの声が地下に反響する。

「俺が聞きてぇよ!」

ロキシィは小声で義手に遠距離攻撃とか出せるか?と聞く。

「義手と会話してる余裕なんてあんのか?」

ロイドはナイフを投げつける。減らないナイフ、それが彼の匣の能力の一つである。

「聞いて見なきゃ分からねえだろうが!何でもいいから発射できるか?」

『……BoX.67 起動』

義手から聞こえる機械音声、龍の口から発射されるは包帯。

「おい、アリスなんだこの能力は!」

「知らねぇけどこっちも遠距離攻撃できるってこったろ!」

包帯はヘパイストスの右腕、つまりバーナーがない方へ絡みつく。バーナー本体の熱で包帯が燃えるため、左腕には絡みつけない。

「思いっきり引っ張れ!」

シュルルルルル、と包帯が掃除機のコードのように巻き取られ、それに伴いヘパイストスが引き寄せられる。

中距離に至る頃、ヘパイストス、バーナーで包帯を焼き切ることに成功!

「よくやったアリス、あとは俺がやる」

その隙にロイドが全力で駆け、白兵戦距離に至る!

「貴様、ロイドとか言ったな……!投擲程度しか使い道のないチャチなナイフで何ができる?」

ヘパイストスはバーナーを振り下ろす、十二分に熱された鉄の棒を振り降ろされていると考えてもらうとわかりやすいだろう。

「誰が投擲用しか出せないって?」

マチェーテとサバイバルナイフの変則二刀流!これこそが彼の本領である。

マチェーテでバーナーを受け止め、熱で変型したマチェーテでバーナーをいなし、即座にマチェーテを捨てる。

そして新しいものを生成。

「ぬぅ、聞いていたのの数倍面倒な力だが……!」

ヘパイストスはとっさに首をひねる、今まで頚動脈があったところをサバイバルナイフが通過していた。

「舐めるな!」

ヘパイストスのバーナー脳天割り、ロイドは再びマチェーテでいなす!

「舐めてはいない、死にたくないからな」

返す刀のサバイバルナイフはヘパイストスの服を掠める、咄嗟に体を捻られた、致命傷には至らない。

「舐めなかったら死なないというのがすでに舐めてんだよ!」

バーナー横薙ぎ!これをロイドはバックステップ回避。しかし気づく、この距離はバーナーの射程、そしてマチェーテもナイフも届かない!

「これでもう2度と貴様等に攻撃のチャンスはやらん、ここからはこちらの虐殺だ!」

ヘバイストスはバーナーの炎を撒き散らす。ロイドは連続バク転回避。

「やっべえ!」ロキシィはなんとか前転回避!

「おい、勝つためにはもうこれしかねぇぞ」

ロイドはロキシィに何やら耳打ちをする。いかなる作戦か!

「まだ勝つ気でいるのか、テメェ等!大人しく焼かれやがれ!」

ロイドは足下へとナイフ大量投擲!

ヘパイストスも負けていない、火球を発射後、足下へと飛来するナイフにバーナーで薙ぎ払いを行う!

「ぐぅ……!」

あっさりと落とされるナイフ、しかし数本は炎を掻い潜り少しばかりのダメージを与える!しかし、大した傷には至らず!

「ったく、厄介すぎる」

再びナイフ生成、投擲、執拗に足を潰しにかかる!

「無駄だと言ってるだろう!」

バーナーで迎撃中、異変に気付く!

(ガキがいねぇ、どこ行きやがった……?)

そう、ロキシィが視界から消えたのだ!まさか逃走したのであろうか!

気にはなる、しかし迎撃の手を緩めてはダメージを受ける、目を離すこともできぬ、いやロイドがさせないのだ、そのためのナイフ投擲である!

「やっちまえ!アリス!」

ロイドが叫ぶ、ナイフを投げる手を緩めることはない!

上だ!

「おらぁあぁぁぁ!!」ロキシィは天井を蹴って一直線にヘパイストスに向かい、そして、右拳で全力の一撃を頭頂から叩き込む!

「うぉらららららら!!!」

そのまま息もつかせぬ連打を浴びせる。

「っしゃおらぁぁ!」

崩れ落ちるヘパイストス、勝鬨をあげるロキシィ。

「とりあえずバーナーを外して包帯でぐるぐる巻きにして縛っとくか」

ロイドは慣れた手つきで左腕からバーナーを取り外す、そして匣の中にしまい込む。

ロキシィは提案通りに顔を除いてぐるぐる巻きにして拘束。

「にしても、すっげぇうまく行ったな、なんでだ?ぜってぇバレると思ったぞ」

「ヘパイストスの死角だったからだ」

ロキシィは首をひねる、考えるだけの体力が残っていない。

「俺にもわかるように説明してくれ」

俺もしんどいんだ、とでも言いたげな顔でロイドは解説を始める。

「戦闘開始から俺は執拗に足ばかりを狙った。初めは、まず足を潰せという普段の野生生物との戦闘での定石に引っ張られたからだ」

ふむ、ふむ、と頷き続きを促す。

「しかし、ヘパイストスは遠距離から砲台のように火球を飛ばすことができる敵、つまり機動力を殺す意味が小さかった。それに、ヘパイストスは強かった、2人でそのまま戦っては埒のあかないほどに」

「確かに俺1人だと今頃焼肉かもしれねぇ」

「ここで俺は考えた、今までの攻撃を最後の一撃のための誘導にしようと。お前の包帯というイレギュラー要素はあった、あの白兵戦はチャンスだったが決め切れなかった」

ロイドは淡々と説明を続ける。ロキシィはうとうとしている。

「ちゃんと聞け、お前が聞いたんだろ。あいつに死角は二つあった。一つは火球によって作られる物理的死角、もう一つは下を執拗に攻めたことによってできた上に対する死角、心理的な死角だ。その二つが重なった時に跳んだんだから気付かれないのはなんら不思議ではない」

「お前そんなこと考えながら戦ってたのか……!?」

ロキシィは驚く、あまり考えず直情的に戦う彼女には考えられなかった。作戦を練りながら戦うことも、そういう作戦が格上相手にハマることも。粉砕してきた側だからである。

「こんぐらい考えろよ……。後、お前本名を教えろ、どうせアリスなんて可愛い名前じゃないだろ?」

「んだよ!俺がアリスで悪りぃかよ!……、まあ、名乗るよ。ロキシィだ、今後はよろしく」

ロキシィは機械の腕でロイドの手を取る。温もりは伝わらない。

しかし、確かに少し信頼関係が生まれたのは火を見るより明らかであった。

その日は、包帯で病人をぐるぐる巻きにしたり、熊肉でパーティーを催したり、と賑やかに過ぎていった。


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