第99話
俺から見た女は、皆同じだ。ただし、優を除いて。特別容姿が良いわけでもない、性格が綺麗というわけでもない。平凡が似合う女だと思う。けれどそれは世間から見た話であって、俺にとって優は可愛い女の子だし誰にも渡したくない。
世の中には優より可愛い女がたくさんいるのだと思う。テレビに映る芸能人やモデル、顔だけで言えばごろごろいる。性格だって良い女はたくさん存在する。例えば、滝のような。
以前から少し思っていたが、クラスメイトの滝はいい女だと思う。派手でなく、しかし地味でもない見た目。清楚と言われたらそう見えるし、派手めな女子の集団にいると言われてもそう見える。見た目も性格も悪くない。
好意を持たれていると気づいたのは、話しかけてられたその瞬間だった。女は女、目の色は変えられない。偶に刺さる視線と、引き際を理解しているところ。なるほど、悪くない。
鬱陶しいくらいにくっ付いてくるわけでもなく、二人きりになりたいわけでもなく、気持ちを伝えてくるわけでもない。ただ好きなだけで、他はどうでもいい。そんな雰囲気が感じられ、嫌いな女の部類に滝を入れなかった。勝手に好きでいることに対して嫌悪感はない。ただ目障りな奴が嫌いなだけで、好意を持っているだけの女まで嫌いなのではない。
だから、滝と優が接触したという事実は気にすることでもなかった。滝は人を陥れるような人間ではないし、害はないと判断したからだ。気になる部分を無理矢理挙げるとするならば、計算かと疑いたくなる行動が時々あるということ。敵をつくるようなタイプではないが、あるとすればその点に関して反感を買う可能性があるということ。
優がムキにならなければいいが。
そんな不安も一蹴される。
なんと、優と滝が修羅場になったようだ。
ある放課後、滝が教室に戻ってこなかったので探していた。文化祭の準備がもう少しで終わるので、早く終わらせようと探しに行った。優の教室に近づくと、二人の声が聞こえた。
思わず足を止めて会話を盗み聞く。
どうやら優は俺が「滝は嫌いじゃない」と言った言葉を気にしていたらしく、珍しい事に喧嘩を売っていた。
嫌いじゃない=好きと解釈したようだったが、俺は好きとは言っていない。勝手な勘違いでもやもやしていたようだ。
二人の会話はとても面白かった。
優は性格が良くない。柔らかくいうならば、人間らしい性格をしている。
心の綺麗な滝を毛嫌いするのも分かる。
綺麗事をさも当然かのように言う滝にぞわぞわするモノがあるのだろう。
俺も綺麗な人間は好きではない。が、滝はさほど嫌いではない。
嫌いではないが好きではない。言ってしまえばどうでもいい。勝手に俺のことを好きでいるただのクラスメイト。それ以上でもないしそれ以下でもない。一般的にモテる、いい女だという認識はある。しかし興味がない。興味がない、どうでもいい、そんな相手に好きだの嫌いだのという感情はない。
優は単純で馬鹿だから、きっと、俺が初めて女に「嫌いじゃない」なんて言っただのなんだのと一人で大騒ぎしているのだろう。そういう意味で言ったわけではなかった。今までの女がクソだった事、優が滝の話を持ち出してきた事、それを踏まえた上で感想を言っただけだ。優以外に興味のある女は特にいない。どうしても挙げろというのなら一条院だろうか。あいつはまた別枠の女だが。
とにかく、俺は滝に対して特別な感情は持ち合わせていない。
まあ、多少、多少だけれど、滝を褒めたのは認める。だって少しくらい嫉妬されたいし。滝を褒めたり、滝の話題になると、優の顔が少しむっとなる。本人は自覚していないのだろうが、それが可愛くて可笑しくてつい滝を褒めたような気がする。
「計算高い女は好きだ」とも言った覚えがある。滝が計算でやっていると思わないが、とにかくむっとした顔が見たかったからつい。
しかし、まさか本人に喧嘩を売るとは思っていなかった。
優は少し臆病なところがある。かと思えばズケズケと物を言うときがある。
今回はそのどちらでもない、喧嘩を売るというなんとも面白い事になっていた。
良い方向に成長していると思う。
人間皆自分が特別でありたいという欲求がある。優のそれは俺が満たしている。
俺の特別は優だけだから、優しかいらない、優以外どうでもいい。それが優を上へ上へと押し上げる。本人も満更ではない。見た目も外面も完璧、自分だけを見てくれるそんな男の特別。優越感でいっぱいだろう。
俺に対する感情がむくむくと育っている。成長途中だ。
今回のことは良い薬になった。
こんなに良い方向へ事が運ぶなんて予想外だった。
俺としてはもう少し先になるかと思っていたが、可愛い優は我慢ができなかったようだ。
滝には感謝しないといけない。
害を齎す女ではないと思っていたが、どうやら滝は利を齎す女だったようだ。




