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第98話

その日は悪いと思いながらも空を置いてさっさと帰宅した。

顔を合わせたくなかった。


鞄を部屋に投げ捨て、どすどすといつもより乱暴にベッドまで行く。

重い身を投げ、シーツを手繰り寄せた。


「あーー!もう!!」


なんなの、なんなの、なんなの。


意識せずとも拳に力が入り、握ったシーツにしわがいくつも入る。

制服を脱ぐ気力もなく、スカートがめくれているのを直す気にもならなかった。


好きな人が幸せならそれでいいって、何。なめてんの。

だったら私と空の関係はどうなのよ。お互いに恋人をつくらず、だからといって自分たちが恋人というわけでもない。他の人間と幸せならそれが幸せ、なんて空も私も考えたことがない。互いが絶対。私が他の男と幸せになろうものなら、空は殺しにかかってくるしその逆もまたしかり。殺しにかかる、は言い過ぎかもしれないが、そのくらい、私たちの間には友情とも恋愛とも言えない何かが存在する。


幸せなんて人それぞれだが、でも、好きな人が幸せならそれでいいって。それ本当に好きって言えるのか。それほど好きじゃないから他の女と幸せになっても「よかったねー」と言えるのだ。

綺麗事並べて何が楽しいの。しかもそれを、心の底から言っているのが胸糞悪い。


「クッソ」


すごく、負けた気分だ。


私が滝さんに当たり散らしたのも、今思えば何故そんなことをしたのか分からない。恐らく私の中で爆発してしまった。理由としてはそれが一番近いかもしれない。でも、まさか自分が、空に群がっている女と同じことをするはめになるとは。最悪だ。


空が知ったら鼻で笑うかもしれない。


私にあんな綺麗事は真似できない。そんな神のような考え方はできないし、自己犠牲なんて論外だ。多分滝さんは、友達と好きな男が被り友達に「協力して」と言われたら喜んでするタイプだろう。気持ち悪い。


私は自分が一番大事だ。自分を犠牲にする行為は論外だ。


気持ち悪い。


どうしたらあんな考え方ができるんだ。よくそれで今まで生きてきたな。


「あー」


唸り声を出しながらベッドの上で落ち着きなく動く。

不意に窓の外を見ると、黒に染まろうとしていた。もうそんな時間か。

そういえば帰る途中も少し暗かったような。


そろそろ夕飯かなと思い、仕方なく体を起こす。

制服がぐちゃぐちゃになっているが知ったことではない。


扉を開けようとすると、ノック音がした。


「今出る」


丁度出ようとしていたのでほんの二秒程で部屋の扉を開けた。


「やっほ」


会いたくない男が立っていたため、無意識に扉を閉めようとした。しかし、それを押し返す力を入れられてしまえば、扉が閉まることはなかった。


「....何」

「それは俺が言いたい。何で先に帰ったのさ」

「別に、何でもいいでしょ」

「ふうん、滝と何かあったわけ?」

「なっ!」

「あ、ビンゴ?なんか滝が言いたそうにしてたし、優は先に帰ってるし。何かあったかなーと思って」


鋭い男だ。


「ていうか、何で家にいるの」

「おばさんに夕飯誘われてさ」

「あっそ」

「なんか今日は不機嫌だねー」

「煩い」

「文化祭の準備やっと終わってさー」


聞いてないのにべらべら喋る。

話変わりすぎ。


「文化祭一緒にまわろ」

「分かったから」


文化祭か。本音を言うと行きたくないな。というか、滝さんに会いたくない。

滝さんに何か言われたりしてないだろうか。良い子チャンだからそういうことは言わないと思うけど。


「おーおー、よしよし」

「もう、何。急に頭触らないで」

「あはは」

「....何でそんなに機嫌良いのよ」

「さぁ、何ででしょう」

「うざ」


空を放置して階段を降り、リビングへ行く。夕飯が丁度できたようで、タイミングとしては良かったみたいだ。

でも何で今日に限って空も一緒に夕飯を食べるんだ。


いつもの席につき、空が現れてから三人で食卓を囲った。


「空くんが一緒に夕飯だなんて久しぶりよねぇ」

「そうですね」

「本当に男前だわぁ。いつ優をもらってくれるの?」

「はは、まだ高校生ですよ」

「優をもらってくれるのは地球上で空くん一人だわ。わたしも早く孫に会いたいもの」

「優の子なら絶対可愛いですよ」

「んもう、空くんの子供だから可愛いんじゃない。お顔も空くんに似ると良いわぁ。ねぇ、優」


何故私に話を振る。


「はいはい」

「今日は不機嫌ねぇ」

「いつもこんな感じでしょ」

「こんな性格だから駄目なのよ。空くんがもらってくれなかったら、あなた一生孤独よ?」


どうしても空と結婚してほしいみたいだ。


「まあまあ、お母さん」

「それにしても、本当にあなたたち真逆ねぇ。空くんは男前で愛嬌もあるのに、優には全然ないんだもの」

「そんなことないですよ、優も可愛らしいじゃないですか」

「そんなこと言うのは空くんだけよ」

「あはは」

「不愛想な優に愛想の良い空くん。似てないわねぇ」


他人なのだから似てないのは当たり前だろう。


しかし、不機嫌の私となぜか機嫌のよい空の組み合わせは私の母も首を傾げる程だ。

他の人間から見てもそのように感じるのだろう。


楽しそうに笑う空の隣でため息を吐いた。


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