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私と、幼馴染と、  作者: 円寺える


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第97話

ずっと渦巻いていたそれは、とうとう声に出た。

気にいらない。ムカつく。


「えっ、ご、ごめん」


ほら、そういうところ。

自分のどこが悪かったのか分かりません、でも取り敢えず謝っておきますって顔。


「私にあんなことを言って、本当は空が好きで好きでたまらないんでしょう。幼馴染の私より優勢でいたいんでしょう。それが嬉しいんでしょう」


椅子から立ち上がり、教卓の傍に立っている滝さんの前まで移動する。

疑問符しか浮かんでない顔をしている。当然だ。最近知り合った女にこんなことを言われたら、誰だってそんな顔になるだろう。


「よかったね、空と同じクラスで。でもそれだけ。それ以上でもそれ以下でもない」


所詮はクラスメイトで終わる人間。そんな奴相手にするまでもない。頭では分かっているが苛々がおさまらない。


「ど、どうしたの?体調でも悪い?」


悪口に似たことを言われているにも関わらず私の心配をする。


なに、話を逸らそうとしているの。


「空と付き合う気はないだとか言って、本当は狙ってるでしょう」

「そんなことないよ」

「じゃあ何で私にあんなこと言ったの。あんたが空のことを好きだとか、私は興味ないのに」

「それは、藤田さんに誤解されないように….」

「はぁ?意味が分からない。誤解もなにも、言う必要ないって言ってんの。狡い手を使ってあわよくば、って思ってるんでしょう」


あれ、私ってこんなに言う人間だったっけ。違う。


「空空空空、空のことばかり。あんたのクラスで何をやってるかなんてどうでもいいの!」


待って、ちょっと言い過ぎ。

こんなに言うつもりはなかった。


「大体、なんであんたみたいなのが空の横にいるのよ!」


さっきまで冷静だったのに。どうして急にこんな感情的になっているんだろう。


頭では分かっている。口が、感情が、とまらない。

蛇口が壊れたように、どばどばとあふれ出てくる。


「あんた目障りなの!」


全力疾走をしたときみたいに、息が上がる。

変な汗が背中に、手に、顔に、浮き出てくる。


私、なんて言ったっけ。

あぁ、そうだ。目障りだとかなんとか。


なにこれ。


これじゃあまるで、空に群がる蠅と同じじゃないか。

違う、私はそんなのと一緒じゃない。同じじゃない。

けれど滝さんからすれば、今の私は空のことで嫉妬した醜い女のように映っていることだろう。以前の私が他の女をそう見ていたように。


そこからはもう何も言えなくなり、上下する肩を落ち着かせることに必死だ。


滝さんは少し目を見開いて驚いていたようだが、私が喋り終わると穏やかに微笑んだ。


「藤田さん、空くんのことが本当に好きなんだね」


今更何を。

好きじゃなかったら一緒にいないし、幼馴染という理由だけで何年も登下校していない。

恋愛だの友情だの、そんなものでは言い表せないくらいだ。


「安心して。本当に、何かをしようとか思ってないよ」

「今までそう言う女は何人も見てきた」


なんだかんだ言いながら、自分にチャンスが来るのをそっと待っているのだ。

獲物が近づいてくるのを、息を殺して待っているのだ。


「本当だよ。なんていうのかな、わたし、欲がないんだよね」


困ったように眉を下げる。


「好きな人ができても付き合いたいとか、考えたことない。片想いが楽しいというか、両想いになるのが怖いというか」


よく言う。

その顔で、その性格で、そんなこと言うなんて。


空が褒める程の女なのだから、その辺にいる女より断然イイ女だろう。

客観的にみて滝さんは男女ともに好かれるタイプで、友達も多い。

それなのに、付き合いたいと思ったことがないなんて、冗談でしょう。


「別に、わたしじゃなくてもいいんだよ。恋人になるのは、わたしじゃなくても、好きな人が選んだなら誰でもいい」


私から目を逸らさず、続ける。


「わたしが幸せにするだとか、わたしじゃないと嫌だとか、そんなこと思わない。だって好きな人が選んだんだよ、きっと素敵な女の子に決まってる。自分が好きになったくらいだから、その人の魅力に気づいた女の子は他にもいるはず」


黙って滝さんの話を聞く。

どこか楽しそうに、嬉しそうに話す姿は、嫉妬の欠片も感じない。


「好きな人が幸せなら、それがわたしの幸せかな」


照れたように笑った。

その笑顔が、まるで天から降りてきた人のようで吐き気がした。


言い様のない何かが胸の中でぐずぐずする。

これだから嫌いだ。


綺麗事しか言わないくせにその綺麗事を本心から言っている。

私とは真逆の人種。


醜く当たり散らした私とは違う。


そういう所が嫌いだ。


邪心なく心から笑える目の前の女に、敗北を感じた。

今までの私を否定されたようで、自分の顔が歪んでいくのが分かった。


空の隣にずっといたのは私だ。その私が何故ぽっと出の女に敗北を感じなければならない。

まるで今までの私が間違っているかのように。

その笑顔が心の汚い私を嘲笑っているように思えた。


敗北と共にもうひとつ、知っているような感情が沸き出た。

なんだっけ、なんていうんだっけ。

これは、昔味わったような。中学のとき、空に彼女ができたと知ったとき。裏切られたと思うと同時に感じたモノとよく似ている。


そうだ、あれは。


屈辱だ。


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