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私と、幼馴染と、  作者: 円寺える


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93/122

第93話

「空くんと一緒にいるのは、何もあんただけじゃない」というようなセリフを過去に何度かもらったことがある。どれもが、自ら空に引っ付いているだけの金魚のフンだった。しかし今回は金魚のフンではない。マグネットとでも言うべきか。ボードに近づけるとピトっと止まるマグネットだ。磁石ではないのかという問いに対しては、否の答えを送る。空というボードがマグネットの方へ寄ることはない。マグネットの方がボードにくっつくのだ。磁石だなんて、そんな、そんな例えはしてやるもんか。


そんなマグネットこと滝さんは段ボール箱を漁りながらへらへら笑っている。

楽しそうな彼女だが、何せ、言っていることがあまりにも喧嘩を売っているようにしか聞こえないのだから、私は笑えない。


「空くんってかっこいいから、あまり隣に立ちたくないんだよね」


幼い頃から隣に立っている私に対しての嫌味か。


「でも話してみたらすごく良い人で、なんか、彼女になる子は女子のまとめ役とか、そんな感じの子が似合ってるよね」


つまりあなたのような子か。


「委員になって大変かなと思ったんだけど、空くんが助けてくれて。準備で忙しいからかな、ずっと空くんといるような錯覚になっちゃって」


クラスが違う私に自慢しているのか。


恐らく他意はないはずだ。会話も空だけではなく私に対しての質問なんかもあって、空を話題に出すのはお互いの共通話題だからだ。

無意識なのか。こういう子を天然というのか。それともただ私の心が狭く醜いだけか。

マイナスの方へ変換してしまう。

自分の性格はよくないという自覚くらいある。客観的に、滝さんと比べたらミジンコのように映るだろう。


「あっ、ごめんね。埃かからなかった?これ使って」とハンカチを差し出されたり、「藤田さんのクラスの分はこっちに入れておくね」と新品の段ボール箱に私の分を入れ、ボロボロの段ボールに滝さんのクラスの物を入れる。その他色々、何かと気を遣ってくれる。優しすぎではないだろうか。こんなに人のために動いて損をしていると思わないのか。私だったら初対面に等しい人間にここまでしない。むしろ会話もせず黙って自分の分だけ持って帰る。


好かれる人間とはこういう子のことを言うのだろう。明るくて優しい、そして他者に利をもたらす人。気を遣える人がイイとはそういう意味だろう。だったら私は嫌われる人間でいいや。


滝さんは凄く良い人なんだと思う。空も褒めていたから間違いはない。

けれど、生まれ変わっても彼女のようにはなりたくない。空も褒めてはいたが、彼女にしたいとは言っていなかった。一緒にいたいとも言っていなかった。ただ計算高い女は好きだと言っただけ。


そうやって他人に愛想良く接し、気が利く行為をしてみせる。そうすることで他人から評価をもらい、誰にでも好かれる人間が完成する。敵を作らない世界のすばらしさを彼女は知っている。無意識だろうが意識的だろうが、計算高いと思われても仕方ない。


「はぁ、重い。腰が痛いねー」

「少し休んだら?ずっとその体勢は辛いでしょ」

「うん、そうするね」


腰をとんとんと叩いてぺたりと床に座り込んだ。


「藤田さんは急いで飾りを持っていかなくてもいいの?」

「うん、担任に頼まれただけだし。うちのクラスは暇だしね」

「そうなんだー。うちのクラスもまだ絵とか描いてるから急ぐ必要ないんだけどねー」

「でも委員なんでしょ?いいの?」

「いい、ってことはないけど、空くんの邪魔をするのもどうかなって。わたしがクラスを引っ張るより、空くんが指示を出した方が早く終わるんだよ。それに、もう一人の委員の男子を空くんが上手く扱ってくれてるから」

「でも滝さんの仕事もあるんじゃない?」

「ううん、わたしの仕事はこの飾りを教室まで届けることだよ。あのね、わたしが急に指示なんか出したりすると、女子の反感を買っちゃうの。皆とは仲良いけど、それとこれとは別なんだ。空くんもそれを分かってか、空くくんが中心になってわたしが裏でやってるの」


なるほど、確かに計算されている。

頭が良いというか、心理を分かっているというか。


いくら友達だからって、ずっと好きでいるわけではない。それこそ女は男絡みになると簡単に友情をゴミ箱に捨ててしまう。


今まで何人もの女を見てきたが、誰一人として友情をとった者はいない。好きな男をとられたくない、誰にも譲りたくない。例えそれが親友であったとしても。

火花を散らした戦いを何度か目撃したことがある。容姿も性格も良い滝さんも、何度かそういう場面に遭遇したことがあるのだろう。もしくは自分が当事者になったとか。


そう考えたら、なんだか滝さんと私には近いものがないわけではないのか。

私は彼女のように性格が良いわけではないが、近しい何かがあったりするのだろうか。似たところがあったりするのだろうか。


友情の欠片を見つけたような気がしなくもなかった。


「藤田さんはさ」


欠片はただの欠片。ほんの塵のようなもの。


「空くんのこと好きなの?」


真っ直ぐに見つめる眼差しは、とても澄んでいた。


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