第91話
空が滝さんを褒めまくっていたので、翌日からずっと滝さんを意識してしまった。体育の時間や休憩時間、さりげなくクラスメイトから評価を聞いたりと、まるで好きな女子をストーカーする男のようだった。
特別目立った所はない。他の女子と何ら変わらない。
観察して出た結論は、あの日と同じものだった。
前に前に出るような性格ではない。クラスのリーダー的存在ではなく、どちらかというとサポート役。リーダー不在の時は代わりをしていたが。
しかし責任感はあるようで、任された仕事はこなす。誰にでも平等で明るい。
他の女子と何ら変わらない。
誰だって任されれば仕事をする。お前はブスだからと酷い態度をとる人間なんてそういない。根暗な人間の方が珍しいし、私から見た滝さんの評価は平均だ。
あれのどこが、そんなにいいのか分からない。
どうせ彼女も、空のことが好きなのだろう。よく空と一緒にいるところを見かける。宮田くんの言う通り、いつも一緒にいる。彼の「藤田が滝と友達ではないことに驚いた」という言葉がよみがえる。滝さんは第二の私のような感じだ。私がいない間は空と滝さんの二人がセットになっている。私がいない間空が誰と一緒にいるかなんて、その場にいない私には見当もつかないが、もしかしたらずっと前から二人はよく一緒にいたのかもしれない。しかしそれならば、噂になっていてもおかしくはないはずだ。二人が接近したのはここ最近の話かもしれない。
私がいない間、空の横をキープする理由はただ一つ。好きだから。これ以外に何かあるだろうか。好きでもない、ただの男友達とあれほど一緒にいるなんてことがあるだろうか。
偶に、別の人といるのを見かける。しかしそれもきっと空の言う「上手い女」の作戦だ。ウザがられないように距離を保ち、線を引く。なるほど、強い。
「あれ、藤田さんじゃん」
自動販売機でお茶を買い、目についたベンチで飲んでいると男女数人のグループが笑顔で近寄ってきた。どことなく見覚えのある面子は、空と仲良くしている人たちだった。
「久しぶりじゃん、隣いい?」
「あぁ、うん」
彼等は空と幼馴染である私を気にかけている。空の付属品である私は黙って彼等が座るのを待った。
「そうだ、藤田さんさぁ、どういう男子がタイプ?」
横に座った茶髪で元気そうな女子が尋ねた。
「さっきからずっと恋バナしてるんだよー。藤田さんの恋バナとか聞きたい」
邪な心はなく、ただ純粋に尋ねたということは目を見れば分かる。わくわくといった表情も隠しきれていない。
あの空が幼馴染であるが故に、そんじょそこらの男なんて石ころにしか見えない。クラスメイトのほとんどがじゃがいもだ。なんて、そんなことを答えるわけにもいかない。
「えー、でも、蒼井が幼馴染なんだから、他の男なんて眼中にないでしょ」
「わたしだって空くんが幼馴染だったら目が肥えて他の男なんてうんこにしか見えないわー」
その通り、とは言えない。
「まあ、空はかっこいいと思うよ」
「だよね、あれはもう神だよ神。藤田さん本当に羨ましいー!」
きゃっきゃと楽しそうに話す彼女たち。話題はいつも空なのかな。
質問されたから、私も質問してもいいかな。
「あのさ、男子ってどういう女子が好きなの?」
ペットボトルを両手で持ち、膝の上に軽く置く。
男女の視線が私の方へ向き、その表情には驚愕の色が出ている。
質問がおかしかっただろうか。
しかし次の瞬間には笑顔に変わった。
「藤田さんもそういう話とかするんだー!」
「藤田さんの恋バナってレアじゃない!?」
話をふっかけてきたのはそちらだが。
恋バナに全くの興味がないわけではない。それなりにはある。
ただ、恋バナをするような友人がいないだけで。だからといって彼等が友人というわけではない。
「はいはい、じゃあ俺から!俺はねー、明るくて優しい子かな。料理上手で可愛くて、あ、あと、汚い言葉を使わない子」
「俺はギャル以外。ギャルは無理。爪とかスマホカバーとか、派手なやつ無理。髪も染めすぎて痛んでる子、無理。あとブスも無理」
「気が利く子がいいな。一緒にいて楽な子。煩すぎず大人しすぎず。普通が一番ってやつ?」
思ったよりまともな回答であった。
要約すると、明るくて派手じゃなくて普通の子。
つまりそれは、先程から考えていた滝さんと似ている。
私だって該当しないわけではないが。明るくはないから、ギリギリ該当しないか。
「男は皆良い子ちゃんが好きだよねー」
「はー?お前らだって蒼井のこと好きだろうが」
「空くんのことはもちろん好きだわ。むしろ嫌いな人間いたらそいつ女じゃないし」
「蒼井はお前らみたいな普通な奴とは釣り合わんな」
ぎゃははと盛り上がる彼等の声がどんどん遠くなっていく。
空が本気で滝さんを好きだとは思わないけど、面白くない。
男の好きな女像がまさに滝さんっていうのも面白くない。
好かれたいわけではないが、面白くない。
だって、空の隣にいるのは私だから。




