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第89話

翌日も空は忙しそうだった。委員だっけ、と思う程に忙しそうだった。

空のクラスで空の言うことを聞かない人はいないだろうが、それにしても委員でもない空が中心にいるのはなんとも不思議だ。それだけ人気者、頼れる人ということか。分からないこともないが、真っ先に頼りに行くのが委員ではなく空とは、下心があるのかないのか。


「空くん、ここどうすればいいの?」

「こっちは後でやるから、先にこっちをお願いできるかな」

「こうやればいい?」

「そうじゃなくて、ここはこうやって」


分かっているはずなのに何度も空に触れたいのか、距離を近くして手取り足取り教えてと乞う女。


「空くん聞いてよ、男子が言うこと聞いてくれなくて」

「買い出しだっけ?」

「そうなんだよ、何度も言ったんだけど」

「分かった、俺が後で言っておくよ」

「ありがとう、でもわたしももう一回言ってくるね」


できる女をアピールしたいのかなんなのか、上目遣いで弱さアピールもしているのか。

よく分からない女。


「空くん見て見て、可愛くない?」

「あぁ、本当だ、いいね」

「やったー!」


自分が描いたイラストをいちいち見せて可愛いかどうか確認しに行く女が数名。


確かにこれは大変そうだ。

普段からあまり話せていない子もイベントのノリに乗って積極的になっているらしい。口実もたくさんあるし、空に近づけるチャンスだ。逃がさないとばかりに迫っている。


何故、私がこんな現場を目にしているかというと、空の教室で椅子に座り終わるのを待っているからだ。


一人、隅っこに座ってぼんやりと空たちのやり取りを眺める。居たくてここに居るわけではない。たまたまこの教室の前を通りがかったら空の男友達から声をかけられ「蒼井が終わるまで待ってなよ」と笑顔で言われた。もちろん最初は断ったのだがどうやら彼等も思うことがあるらしく私を引っ張って教室に入れた。


思うこと、というのは極めて単純なこと。


「空くん、こっちも!」

「空くーん!」

「あっ、空くんどうしよう!」


こうやって空に群がる女子の相手を空が全部やっている。そうなると、クラスの男子は面白くない。折角の行事なのだから自分たちも青春がしたい、女子と今まで以上に仲良くなりたい。そんな気持ちがあって私を引き入れたのだろう。


何せ、空の鞄には今までなかったヘンテコな人形がぶら下がっている。キーホルダーなんて付けない空があんな手作り感満載のへたくそな物を付けている、そんな理由なんてただひとつだろう。もしかしたら誰かが既に聞いて、私からの贈り物であることは周知されているのかもしれない。その私が監視するように教室にいる。他の女子は躊躇い、少しは空から離れるかもしれない。そう考えた彼等の作戦は成功したとは言えなかった。昨日に比べれば多少そういう女子は減ったかもしれないが、逆に見せつけるかのように空に迫る女子もいる。


私もすることがないし、場違いであることは明らかだ。


「藤田さん」


そろそろ教室に戻ろうかな、誰かに言ってから戻った方がいいかな、そんなことを考えていると呼び止めるように私の名前を口にした子がいた。


「えっと、滝さん?」

「うん、そうだよ。ごめんね、なんだか無理矢理うちの男子が引っ張ったみたいで」

「ううん、大丈夫」


座っている私の隣で愛想よく立っている滝さんは手伝いに行かなくても大丈夫なのか。文化委員と聞いた記憶がある。


「空くんって人気者だよね。誰にでも優しいし」

「そうだね」

「わたしなんて文化委員なのに全く役に立ててないから、申し訳なくて」


だったら手伝いに行けばいいのに。


「藤田さんは時間大丈夫なの?」

「うん、空と帰るから」

「そっか。ここにいて退屈だったら遠慮しなくていいからね」

「ありがとう」


それを最後に滝さんは手伝いをしに、空の元へ行った。

もしかして気を遣ってくれたのだろうか。私があまりにも退屈そうにしていたから、態々作業を中断してくれたのだろうか。それとも逆に、迷惑だから帰れと遠回しに言っているのだろうか。


見る限り彼女は周囲から高評価を得ているみたいだった。このクラスを外から見て、滝さんは女子皆と仲良さそうだし、男子とも距離が近いようだ。

美人だが鼻にかけることなく誰にでも平等に接している。人当たりがよくて気軽に話しかけることができる。外見だけでは高嶺の花だが、内面は明るい女子高生。先程から眺めていたが他クラスからも友達らしき人が滝さん目当てに来ていた。相当人気者らしい。


そんな滝さんが空と一緒にいるのは不自然ではなく、皆当然のことだと言わんばかりだ。二人を支持する者もいるようで、空と滝さんの視界に入らない位置で「お似合いだ」ときゃっきゃしている女子を先程目にした。


滝さんを観察していると、どうにも周囲の反応に気付いているようなそんな感じがする。「お似合いだ」と聞こえるか聞こえない程度で騒いでいる人たちに「何の話?」と態々訊いていたり、ずっと空の隣をキープしている。


文化委員ってこんな感じなのかな。



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