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私と、幼馴染と、  作者: 円寺える


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第80話

「それにわたし、空先輩とは…」


そこで言葉を切り、目を泳がせる。

一体なんなのだ。

その先の言葉が想像できない私は首を傾げた。それを見て、言いにくそうに住之江さんは私から視線を逸らした。


「こ、婚約したいんです」


「はぁ!?」と素っ頓狂な声が出そうになったのを無理やり抑え込み、「へえ」と普段通りを装い声を出した。


ちょっと待って、婚約って、あの婚約のことなの。


住之江さんは私の家と比べたらお金持ちだと思う。しかし、婚約者がどうのこうのという話が出るほどの家柄だと言われても、それは違うのではないかとストップをかけたい。

私が住之江さんのことをよく知らないだけで、実は婚約者の話は彼女の家で飛び交う単語なのかもしれないが、しかし私はそう思えない。


姫子ちゃんの口から婚約者という単語が飛び出ても不思議ではなかった。それなりの家柄なのは周知の事実であり、私とは住む世界が違うのだから。でも、住之江さんは…こう言ってはなんだが、婚約者なんて単語が出るほどのものではないと思う。

庶民の私が言うのも失礼だが。


「空先輩は人柄も良いし、お家だってそれなりと聞きました。わたしのお父様も納得してくれると思うんです」

「婚約者がほしいの?」

「いいえ、空先輩が良いんです。空先輩を好きになった後に先輩のお家のことも知りました」

「…この前私に、片想いを許してくれって言ってなかったっけ。片想い通り越してない?」

「これから空先輩に振り向いてもらえるように、頑張るつもりです」


振り向いてもらおうと思ってとった行動が今やっていることなら、早急にやめた方がいい。

逆に嫌われるやつだから。

そう言ってあげる義理もないので心の中で呟くだけに留める。


「あっ、じゃあ私は用があるから」


またね、と軽く手を振ってコンビニに向かおうとしたら、片手を掴まれた。


「何?」


そこまで仲良くない人に手を掴まれるのは抵抗があったため、無意識に眉を顰める。

住之江さんはそんなことは気にせず、再び話し始めた。


「わたし、お金目当てとかそういうのじゃなくて、純粋に空先輩が好きなんです」

「そ、そう」

「大大大好きなんです」


必死に空のことが好きだと訴える。

私は早く、コンビニへ行きたいんだ。


「分かったから、手、痛い」

「あっ、すみません!」


特に痛くなかったが、友達でもない人と肌を触れ合うのは嫌だった。


「わたし、本当に…」


まだ続ける気らしく、げんなりした。

しかし彼女の言葉は続かず、着信音が鳴り響いた。

私のものではない。


「あっ、ちょっと、失礼します」


今のうちにコンビニへ行こうと思ったが、住之江さんの視線は未だ私に向けられているので、逃げるなと言っているのだろう。

追いかけられるのも面倒だ。

大人しく彼女の電話が終わるのを待つ。


「はい、はい…えっ、本当に!?どういうこと!?」


何やら住之江さんは急なアクシデントに遭遇したらしい。

驚きを隠せず、おろおろと動いている。


「だって、そんな…」


遂には涙を浮かべ、ぐすぐすと泣き始めた。

その涙は悲しみからくるものではなく、喜びに満ちたものだった。


早く終わらないかな。


「分かった、うん、ありがとう、うん、そうする」


どうやら話は終わったようで、用済みになった携帯を仕舞った。

それはそれは嬉しそうな顔で微笑む。


「先輩、ごめんなさい」


申し訳なさそうな顔ではない。嬉しくてたまらない顔だ。そんな顔で何故謝る。


「空先輩のこと、わたし、諦めます」

「は?」


え、今なんて言ったの。

さっきまで大好きだの婚約したいだのと言っていた気がするが、私の気のせいなのか。

一体どういうことだ。

今の電話に何かあったのか。


理解ができずポカンと棒立ちになる。


「さようなら!」


その言葉を最後に住之江さんは向きを変え、走り去ってしまった。


たった電話一本で、「片想いを許して」「大大大好き」「本気だ」などと熱烈に宣言していたそれを、スパッと気持ち良いくらいの笑顔で諦めるなんて。


残された私は訳が分からず、疑問符しか残らなかった。



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