第75話
姫子ちゃんとのデートを翌日に控えた土曜日。
特にすることもない私はSNSを徘徊していた。もちろん空の部屋で。
床に座って携帯の充電器を付け、自分の部屋であるかのようにくつろぐ。
壁一面に貼られた私の写真の中に、昨日隠し撮りをしたと思われる一枚を発見したがいつものように無視をした。
趣味で使用するアカウントを見つくし、返信も終えたら今度は学校の友達と繋がっているアカウントを開く。
このアカウントには鍵をかけたので、勝手に私をフォローすることは不可能だ。
しかし、新しくフォロー申請がきていた。
一体誰だとその人物を見に行くと、そこには住之江美琴の文字が。
「ん?」
「優、どうかしたの?」
「住之江さんからフォローがきてた。住之江さんもこういうのやるんだ…」
しかし、最近始めたばかりのようで、使い慣れていないのは一目瞭然だ。
少し笑った証明写真のようなアイコン。花畑の写真をプロフィールの背景に設定している。
フォロー欄を見てみるが、どうやら知っている人を片っ端からフォローしている様子だった。
なんでSNSなんか始めたんだろう。
「あ、ねえ見て。住之江慎太郎の、ある呟きが二万人に拡散されてる」
「どれ?....これ住之江さんのお父さん?」
「へえ、お父さん政治家だったんだね」
空が見せてくれた住之江さんのお父さんをじっと見ていたら、いつの間にか空が画面を戻していた。チラっと見えたのだが、通知が軽く二百を超えていた。
「あー、でも、住之江さんあんまり好かれてないみたい」
皆の呟きを見ていると、住之江さんがSNSを始めたことに対して失笑する人が多数存在していた。
私は住之江さんとそんなに話してないし、彼女の噂もそれ程聞かないからよく知らないが、どうやら好かれていないようだ。
「住之江さんって、良い噂聞かないしね」
「そうなの?」
そりゃあ空の人脈と私の人脈では天と地の差があり、持っている情報や聞いた情報の差も大きい。
「やっぱり金持ちだし、親が政治家だからかな」
「それもあるんだろうけど、どうかな」
「でも金持ちなら、姫子ちゃんみたいに華ノ女子に行けばよかったのに。あそこって幼稚園からあるんだっけ」
「あるね、有名なお嬢様学校だし。一条院は高校から入ったから、住之江さんも大学から入るとかそういう感じじゃないかな」
「大学から入って意味ある?」
「....さぁ。でもあの大学、頭良いしお嬢様じゃなくても行く人多いよ」
「ふうん」
「自分から聞いておいて興味ないの?」
「そういうわけじゃないけど。そっちこそ気にならないの?金持ちの娘が告白してきたんだから」
しかも親は政治家。逆玉の輿に乗りたい男は多そうだ。
「興味なんかあるわけないじゃん。金ならうちもあるし、美人でもない女を手玉にとってどうすんのさ」
「ほら、政治家の親だし」
「ハッ」
白い目で失笑する空は政治家に興味がないらしい。
確かに、私も、親が政治家で金持ちでイケメンとは言えない男に告白されても、何とも嬉しくない。
「そもそも、全部が付属品でしかないじゃん。金持ちだって親のお陰だし、親が政治家なのだって親が頑張ったんでしょ。自分が持ってるもの何一つないじゃん」
おお、まさか空からそんな言葉が聞けるなんて。
私の顔にその言葉が書いてあったのか、空は笑顔で言った。
「まあ、でも親だろうが何だろうが付属品はあって困ることはないね。むしろそんな家に生まれたもん勝ちじゃん。俺は性格こんなだから、付属品を増やしておこうと思って色々頑張ってるけどね」
「わー、すごーい」
「何その棒読み」
「性格捻じ曲がってる自覚あるんだー」
「世間から見れば、性格の悪い人間なんだろうなと思ってるよ」
「でも自分では思っていないと」
「だって俺完璧じゃん」
「そうだね」
「もし俺が自分で性格悪いと思っていても、俺は何でもできるんだから性格くらい悪くても許されるでしょ」
「多分、そういうのを世間では性格が悪いっていうんだよ」
「でも俺性格悪いとか言われたことないや」
キラキラスマイルで言う空は確かに性格が悪そうには見えない。
性格が悪いというよりは、人間的なんだよ。人間の奥底にある本音を言っているだけで、私も空が本気で性格が悪いとは思ってない。
まあ、やりすぎだなと思うことはあるけれど。
再び携帯をいじる。
「あっ」
しまった。
「どうかした?」
間違えて住之江さんのフォローを許可してしまった。




