第63話
翌日、私は決心していた。
私にはすべきことがあるのだと。私は私が好きなのだ、私はあの先輩が嫌いなのだ。
「優、昨日何かあった?電話、何回もかけたんだけど」
「大丈夫、なんでもない」
「そう?なら、いいけど。もし何かあったら言ってね」
「うん、大丈夫だよ」
空と登校する道を歩く。
昨日会ったはずなのになんだかすごく久しぶりに会ったような感覚だ。
空は心配そうに私を見るが、私は表情を変えず前を見据える。
校門に一歩足を踏み入れると前方に瀬戸先輩がいた。
彼女は私を睨みつけた。
私はそれをぼんやり眺めていた。
先輩と数秒見つめていると、先に先輩が視線を逸らして先に歩いて行った。
空は私と先輩の間に何かあったようだと悟ったみたいだったが、何も言ってこなかった。
空の制服をきゅっと掴む。
私から空をとったら、何も残らないのだ。何もできないのだ。空のいない生活なんて想像ができない。
だから私は、空をとられたくない、渡せない。
「優?」
「なんでもない、早く教室行こう」
「そうだね」
先輩が歩いて行った方向へ私たちも進んだ。
そこからは特に代わり映えのない一日だった。
普通に授業を受けて普通にお昼を過ごして普通に放課後になる。
何ら変わり映えのない日。
移り行く時間を傍観していた。
よく言えば、静かな一日。悪く言えばつまらない一日。
自分の気持ち次第でこんなにも世界が違って見えるのか。
確かに代わり映えのない日々を送っていたとしても「代わり映えのない日々を送っている」と自覚してはいなかった。同じルーティーンだが、それはそれでまあ楽しい一日を過ごしていたりするのだ。
やはり平凡が一番なのかもしれない。平凡で、穏やかに過ごしていればそれが幸せなのだ。
隣に空がいて、私の写真だらけの部屋で漫画を読んで、それが私にとって何より楽しい過ごし方だ。
豪華な生活じゃなくていい、派手な服もいらない、私は今の生活が気に入っているのだ。
空が外でどんな悪いことをしようが、空がどんな歪んだ思想、倫理観を持っていようが、どうでもいい。
悪いことなんてバレずに上手くやってくれたらいいし、私にだけ愛情をくれれば、それでいいのだ。
果たして空が抱いている私への気持ちを愛情と呼ぶのか、一生の課題になりそうだがそんなのは何だっていい。感情に名前なんて付けなくてもいい。私を好きでいてくれればそれでいい。私も空が嫌いじゃない。
だから絶対に私は空を手放したりしない、そんなこと何があってもありえない。
放課後、私は空を待たずして教室を出た。
鞄を持っていくと帰ったと思われるので、机の上に放置して階段を下りた。
空のクラスはまだホームルームが終わっていないようだったのでラッキーだった。
私は一階にある自習室へ向かった。
いなかったら帰ろう、また明日にでも来ればいいのだから。
そう思い自習室を覗くと、いた。
受験前である三年生たちが静かに参考書とノートを開き頑張っている。
その中で一人、受験勉強というよりは課題をやっている女子生徒、瀬戸先輩がいた。
自習室にいるということは担任から聞いていたので来てみたのだ。
自習室は思ったより人数が少なく簡単に先輩を見つけることができた。見つけることができたのはいいが、この中に二年生の私が入っていくのも気が引ける。必死で勉強している中に私が入っていって先輩を呼び出すと、注目を浴びてしまう。
どうしたものかと考えていると、不意に先輩がこっちを見た。
窓越しに見えた先輩の顔はやはり眉間にしわが寄っていた。
こっちに来いこっちに来いと念じていると、伝わったのか先輩が手を止めて席を立った。
自習室の扉を開けて先輩は出てきた。
「何か用?」
嫌そうに顔を顰める。
「お話をしたいのですが」
「昨日したでしょ」
「あれは先輩の話ですよね、私も先輩に話があります」
そう言えば先輩は了承した。
「場所、変える?」
「はい、第二自習室で」
ここは第一自習室だ。三年生の先輩しか利用しない教室。第一自習室でさえ半分も人がいないので第二自習室は使われない。
まだ生徒数が多かった十年前、国立大学へ行く生徒も多かった頃は利用されていたようだが今ではあまり使われていない。
私は先輩を連れて第二自習室へ行った。




