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第59話

私は瀬戸先輩を、良い人か悪い人の二択なら前者だと思っていた。友達思いで、素直な人。つい最近そんな評価をした。

間違っていない。友達思いな人は良い人だ。でも、私の中で「瀬戸先輩は性格が悪い人」に傾きつつある。人間として悪人ではなく、性格が悪い人。

瀬戸先輩に対する印象が徐々に変わっていた。

最初は、なんて嫌な先輩だろうと思った。初対面にも関わらず、不愉快な態度で面と向かって悪口を言うなんて、と。しかし次の印象は、素直な先輩だった。友達思いで、自分に非があると認めて謝罪をする。あれだけ暴言を吐いておいて次の日に「ごめんなさい」と言える。私にはできないことだった。

しかし、先日の自動販売機前での出来事でまた印象は変わった。

極論を言えば嫌な先輩、だ。最初に抱いたものと同じ感情だ。


あれは天然でやっているのか、それとも計算か。


「優、何やってるの?早く行くわよ」


三者面談、当日。

母は俯きながらゆっくり歩く私を振り返り、声をかける。

早く行くわよと言いながら私の数歩先で止まっているのは教室の場所が分からないからだろう。


「ごめん」


顔を上げて謝り、母の横を歩く。

今日は三者面談なので空は先に帰った。これが終わったら空の部屋に行こう。

今日は確か、集めている漫画の最新刊が発売される日なので空が買ってくれているはずだ。

瀬戸先輩のことなんてすぐに忘れてこれからのことを考えていると教室に着いた。

四つの机が先生と面談できるように並べられている。

母と先生の挨拶も程々に、本題へ入る。


「藤田さんの進路は国語の先生、でいいですかな」

「はい」

「国語教師でしたらこの大学かこの大学が良いですよ」

「そうですか」

「成績も問題ないですし、このまま順調にいけば合格できるでしょう」

「はい」


こんな面談に意味があるのか分からないが、取り合えず何も問題ないようで母も安心していた。それもそのはず、私の勉強は高校教師じゃなくて空がみてくれているのだから、大丈夫に決まっている。空は頭の良い大学へ行く。私に合わせてレベルの低い大学にするかもしれないが、高校だけでなく大学も私に合わせるだなんて私の両親が黙っていないだろう。空くんの足を引っ張ることはするな、と。私もそう思う。だから、私も空に合わせられるような学力を身に付けなければならない。それは空も思っているようで、勉強面には力を入れて教えてくれる。


「まぁ、あれですなぁ。藤田さんは優秀ですから担任のわたしから言うことなんて特にないんですがね。あぁ、そういえば、最近瀬戸と仲良くなったみたいだね」


まさか担任から瀬戸先輩の話をされるとは思ってもいなかった。

驚く私を放置して話は瀬戸先輩のことになる。


「彼女は指定校推薦がほぼ確定しているからね。成績も悪くないし、授業中も熱心な姿勢でとても良い生徒だよ。大学のこととか、勉強のこととかは彼女にも聞いてみるといい」


瀬戸先輩、頭良かったのか。

大学もほぼ決まっているだなんて。

あれ、じゃあ何であの日残って勉強なんてしていたんだろう。


「へぇ、すごい先輩なんですね。優、その先輩をお手本に頑張るのよ」


母がにっこりと私の背中をたたく。

私はあんな風になりたいとは思わないんだけど。

そうは言えないので「うん」とだけ返した。


「じゃあ先生、ありがとうございました」


十五分が経過すると面談は終わり、教室を出た。


「なんだか呆気ない面談だったわねぇ」

「そうだね、次からはもっと呆気ないと思う」

「優、国語教師になりたいの?」

「別に。なりたいものなんてないからテキトウに書いただけ」

「そうよねぇ、そんなものよねぇ」


楽観的な母で良かった。


「私も専業主婦になりたいな」

「空くんに頼んでみなさい」

「何で空と結婚する前提なの」

「むしろ空くん以外に、旦那さんになってくれる男性があなたにいるの?」

「…ふん」


恐らく母の中で私と空が結婚することは確定している。

この前私は見てしまったのだ。母の部屋に置いてあった真新しい名前辞典を。

私は空と結婚を本気で考えたことなんて、全然…一ミリくらいは考えたことあったが、まさか母がここまで本気だとは知らなかった。

名前辞典には付箋まで貼ってあり、中を開くと古風な名前から最近流行りつつあるキラキラネームまで、どんな基準で付箋を貼っているのか気になる程の名前がそこにあった。気が早い。あんたの娘はまだ高校生だ。


空が根回しでもしているのかと疑ったが、まさかそんなことはあり得ない。いやでもあの空だ。部屋中に私の写真が貼ってあり、私の私物まで収集している、私の友達も選んで持ってくる、あの空だ。私の両親を唆している可能性は高い。


「孫は三人くらい欲しいわね」

「ソウデスカ」


孫の話も、もうするのか。


「でも空くんはあれよね、モテるわよね。変な女が近づいてきたりするのよね」


母が真剣にそんなことを言う。

私に変な男が近寄るかもしれないということは想像していないらしい。


母と教室の前で話し込んでいたら、視界に人影が入ってきた。

私と母を見るなり軽く会釈をする。


「あら、優のお友達?」


いいえ、お母さん。


「こんにちは」


先程あなたが言っていた、空に近寄る変な女です。


「瀬戸先輩....」



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