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第54話

空の部屋に入り、鞄を床に置く。

本棚に近い床に座り込みゲームを手にする。立たなくても漫画が取れる位置なので、放置ゲーをしながらスムーズに漫画を読むことができる。

空は私の横に座りネクタイを緩めた。


「休み時間に言ってた話って?」

「うーん、ちょっと考えてみたんだけどやっぱり俺あの人のこと知らないんだよね。優は知らない?」


ちょっと考えたってところが空らしい。


「私も知らないよ。瀬戸先輩、私の方全然見てなかったでしょ」

「そっかぁ、前みたいに俺が覚えてないだけかなとも思ったんだけど」

「空が以前、私に話したことがあったなら私も知ってるはず」

「じゃあ話したことないのかな。ふうん、それなら大して関わりのない人だったってことだよね」


興味が失せたとでも言わんばかりの顔で「そっかそっか」と呟く。


「あ、でも今日宮田くんと喋ったんだけど、西島くんが何か知ってるかもって」

「悟?なんで?」

「だって西島くん知り合い多いし」

「まあ、年上に可愛がられる奴だしねぇ」

「....聞いてみないの?」


私は彼の連絡先なんて持ってない。

西島くんに先輩のことを聞いてみないか尋ねると「別にいい」と返ってきた。

私は「そっか」と言ってはみたものの、不満だ。


「....あの先輩のこと知りたいの?」

「うん、だって気になる。初対面であの態度だし、何かあったのかと思って」


何かあったのか、それとも空の気を引きたいのか。

どちらにせよ気になる。

あんな人間と関わりたいとは思わないがどんな理由で空を嫌いになったのか聞きたい。

あの空を、だ。学校のアイドルであり王子様であり理想の男である空を毛嫌いする理由とは。気にならない方がおかしい。


「悟に電話しようか」


携帯を取り出して操作する空を横目にゲームの電源をつける。

プルルルという可愛らしい音が微かに聞こえる。


でも西島くん、放課後は部活に励んでいるのでは。電話しても出ないのでは。しかも学校にいるなら尚更だ。


「あ、悟?」


出たのか。じゃあもう帰宅したのかな。

ゲームの音量を下げて空の電話を邪魔しないようにする。


「今大丈夫?どこ?....学校?」


帰宅してないようだった。

うちの学校は、先生が携帯電話を見つけると容赦なく没収する。見つからなければ問題ないのだが、校内で電話なんて勇気あるな。トイレや周囲に人がいないならバレないが、それ以外の場所で電話をするのは不安だ。西島くんは度胸があるみたいだ。

あ、でも西島くんは空の信者だから空から電話があればどこだろうが出るのかもしれない。

空信者は女子だけでなく男子にもいるのだ。割合としては女子の方が多いが完成された人間性や男子力に憧れる男子も多いのだとか。空が呼べばどこだろうが飛んでくる、空を見かければ話しかける、空に褒められると泣いて喜びどこまでも付いていきますと決意する。西島くんはその典型的な空信者だ。前に一度西島くんに真顔で「空先輩って神ですか?」と言われたのが忘れられない。空の何を見てそう言ったのか、さすがに記憶にないがとりあえず「人間だよ」と返した私は偉かった。空を奉って宗教を始めそうだった彼を止めようと思い言ってあげたのだから、偉かった。


「えっ、部活中?かけなおそうか?....あ、いいの?」


どこだろうが何をしていようが空の電話には出る。それが信者なのである。


「それでさ、ちょっと聞きたいことあって。三年の先輩に瀬戸....優、あの人の下の名前何だったっけ?」


苗字しか出てこなかったみたいで、下の名前を私に聞く空。


「夏美だよ」

「ありがと。....悟?瀬戸夏美っていう先輩なんだけど、知ってる?....あ、知ってるの?どんな人?......見たまんま?」


見たまんま、ということは私たちが短期間で知った瀬戸先輩がそのまま瀬戸先輩だということか。誰が相手でもあんな感じ、そういうことだろう。

西島くんは可愛がってもらっているのか、それとも邪険にされているのか。


「ん?優?ここにいるけど」


良き後輩である西島くんと瀬戸先輩がどんな風に関わるのか、と想像していたら空の口から私の名前が聞こえ、ゲームを床に置く。

もしかして選手交代かな。


「優、悟が代わってって」


やはりそうらしい。

何の話なのか、と首を傾げたが空も分からないらしく私と同じく首を傾げた。

空から携帯を受取り耳に当てる。


「もしもし?」


電話に出ると西島くんの声で「藤田先輩」と呼ばれた。

空と話しているのに私に代わるなんてよっぽどのことがあったとみた。


「スピーカーにしてませんか?」

「してないよ」

「良かったです、それで、あの、聞きたいんですけど」


空に聞かれると困る内容らしく、どんなことを言うのかと私は気を引き締める。


「瀬戸先輩と空先輩、何かあるんですか?」

「何かって?」

「恋愛的な意味で...例えば、空先輩が瀬戸先輩のことが好きだとか」


恐る恐るといった感じでそんなことを言う西島くん。

前にもこんなことがあったような気がする。


「違うよ、ちょっと色々あって」

「そうなんですか、じゃあ瀬戸先輩が空先輩の彼女になるわけじゃないんですね?」

「うん」

「よかったです」

「なんでよかったの?」

「...誰にも言わないでくださいよ。本音を言うと空先輩と瀬戸先輩、全然釣り合ってないですし彼女にしてほしくなかったからです。あ、瀬戸先輩が可愛くないって意味ではないんですが、顔も雰囲気も空先輩と違いますし....」


瀬戸先輩が可愛くないわけじゃない、と。しかし言っていることは、瀬戸先輩が空に釣り合う顔ではないから付き合ってほしくない。空の株が下がる。そんなニュアンスがある。

瀬戸先輩は可愛いと思うが、それは一般的に見たらの話だ。空に似合うかどうかはまた別の話になってくる。


「前にも言ったけど、それを言ったら私もなんだけど。可愛くないし空と釣り合ってない」


顔面のレベルでいったら私より瀬戸先輩の方が可愛い。それは誰が見ても明らかだろう。


「前にも言いましたけど、藤田先輩は別です。空先輩と...雰囲気?が似ててお似合いな感じがします」

「.....そう」


あぁ、前にも言われたな。

西島くんの直感はすごい。どこが似ているかなんて本人は分からないだろうが、似ていると断言している。

心当たりはある、ここが似ている!という心当たりはある。


「本当に瀬戸先輩とは何もないんですよね?」

「うん」

「ならよかったです」

「うん、部活中なんだよね、ごめんね」

「いえ、大丈夫です」


西島くんとの会話が終了し、通話を切って空に手渡すとブスッとした顔で受け取った。

私と西島くんが何を話していたのか気になっている。

ブスッとしたムスッとした顔でこちらをじーっと見つめている。


「何、そんな不細工な顔して」

「ぶさっ!?俺イケメンなんだけど。それより、何の話してたの?」

「瀬戸先輩の話だよ。聞いてないけどあの感じからして西島くんも空が嫌われてる理由は知らないみたい」

「ふうん、まあいいや。それよりゲームしないの?」

「あ、そうだった」


今日からゲームのイベントが始まる。

瀬戸先輩のことはまたでいいや。それより今はイベントを走らなければ。欲しいアイテムや進化素材等がたくさんある。こちらが断然優先だ。

暗くなったゲーム機の画面を明るくして床に放置する。漫画を広げ、時折ゲーム画面を確認していると、先輩のことなんて頭から飛んで行った。



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