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第47話

「福永さん、あのね、わたしは福永さんを信用して教えたのよね。贔屓は良くないと思うのだけどわたしは貴女のことを生徒としても好きだし人間としても好きなのよ」

「はい」

「でもね、こうも他の人に知られるというのは…」


棘がないように言葉を選んでいるが、要は、お前のせいで自分の信用が落ちたとでも言いたいのだろう。お前さえ黙っていればこんなことにはならなかったのに、と。

福永さんは口が軽いみたいだし、その上自慢が好きだからこうなることは分かっていたはずだ。懇意にしているのなら福永さんの性格を把握しているはずだが、相手は先生なので福永さんが猫を被っていた可能性だってある。実際、良い所ばかり見せていたのだろう。大人ぶって背伸びした発言ばかりをしていたから先生も、同級生からの福永さんへの評価に気づかなかったのか。


「だからね、わたしは今後こういうのは控えるわ」

「えっ?」


予想外の事を言われたらしく、素っ頓狂な声を上げる福永さん。扉が閉まっているので顔は見えないが声だけでも焦っていることがよく分かる。

重たくなってきたノートを持ち直しながら肩を回す。


「でも先生」


福永さんも思うことがあったのか、いつもより声のトーンが強い。


「蒼井くんはどうなんですか。蒼井くんだって色んな先生から贔屓されてるじゃないですか」


ここで空を出してくるとは。

福永さんも、自分より空の方が先生から好かれていると感じていた証拠だ。


「彼は実力でしょう。模試だって常に一位ですよ」


その言葉にぐうの音も出ない福永さんは黙り込む。

贔屓されている、と言われて否定しない先生に、福永さんは気づかなかったようだ。

空の方を見ると失笑していた。


「空?」

「馬鹿だよね、あいつと俺じゃ土俵がそもそも違うのに。もっと立ち回りを上手くして頭の回転も良かったらこんなことにはならなかったのに」


顔にかかる髪が鬱陶しくなったのか、片手で耳にかける。


「福永さんこれからどうするんだろ」


先生からテスト範囲について教えてもらえなくなるということは、他人に偉そうに言えなくなるということ。私は先生のお気に入りだと言えなくなってしまう。

彼女自身、順位は校内で十三位だし学力の面では馬鹿ではなくむしろ頭は良い方だ。

他人に教えることができる立場ではあるが、相手が嫌がるだろう。常に上から目線で物を言うものの、詳しいテスト範囲を教えてくれていたから福永さんの話を聞いていた人も中にはいる。しかしそれができなくなったと知ると一人また一人と確実に彼女の前から消えていく。

それでも、十三位はなかなかの順位だ。空に話しかることができない、または、身近に頭の良い人がいないとなると、嫌々でも福永さんの元へ行く人も数人くらいはいるはずだ。彼女は話しかけやすい容姿をしているので、ハードルの高い空よりもそちらに流れたりするかもしれない。


だが、今の段階で彼女のことを良く思っている人間はいないに等しい。

陰でコソコソ笑われているし、勉強会では福永さん本人がいるにも拘わらず皆に聞こえるように悪口を言う人間もいる。そうなると彼女のことが嫌いではなかった人たちも、彼女のことが好きと言えない環境なので離れるしかない。「周りにどう思われようが福永さんと一緒にいたい!」なんて強く思っている人はいないはずだ。彼女には遊ぼうと誘ってくれる友達や、親友と呼べる友達がいないように見えた。


「今回のことで大勢の人間に嫌われたみたいだしね。俺の話を遮ってたくらいだし、当然か。俺とあいつの需要の差が分かってなかったみたい」

「自分本意なとこもあるしね」

「自分本意は皆そうだけど、それをあからさまに出す時点で嫌われるのは確実でしょ」

「明日、噂になってそうじゃない?この学校、そういうの好きみたいだから」

「ははっ、ここまで自爆する奴もそういないよね。明日は今まで以上に話しかける人間がいなくなるよ」


空の予言はよく当たる。

国語準備室の中で福永さんと先生の会話が聞こえるが、空はもう飽きたようで欠伸をしながら面倒くさそうにしている。

私もなんだかもうお腹いっぱいになってきた。


そしてふと横の方を向くと、小さな段ボール箱が目に入った。何だろうと思ってそこまで歩き、よくよく見ると段ボールには「二年、国語ノート提出用」と書かれていた。どうやら最後は私たちのクラスだったようで、先に提出されたノートはもう先生がここから取ったらしい。


「ねえ、ここに提出だったみたい」


空にそう言うと、「あっ」と声を上げて顔を見合わせた。

どうやら私たちは無駄な時間を過ごしてしまったようだ。

無言でその中にノートを入れて、何事もなかたかのように帰宅した。

その道中も帰宅してからも福永さんの話題はなかった。




翌日、学校に行くと空の予言通りのことになっていたのは言うまでもない。

必死にクラスメイトに話しかけている福永さんを見かけて、周りを見渡すとクスクスと馬鹿にした笑みを浮かべている人で溢れていた。


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