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第45話

テストが終わり、一息ついた生徒だが返却されたそれを笑顔で受け入れる者と絶望して受け取る者にすぐさま分けられた。

八割くらいは取れているだろうと思っていたテストだが、どれも九割以上取れていた。満点まであり、ニヤけたい顔を抑えてファイルの中に入れた。

これは順位も楽しみだ、と急ぎ足で廊下に貼られている大きな貼り紙を見に行った。

以前は百位くらいまで貼りだされていたようだが、最近では三十位までに絞られた。

皆、順位を見たいがために群がっている。なんとかその群れを押しのけて一番前まで行き自分の名前があるか確認する。

まず、一位。見なくともわかるが、一応念のためだ。顔を上げて「一位」の隣に書かれている名前を目に映すとそこには幼馴染の名前があった。蒼井空、満点で堂々の一位だ。揺るぎない不動の一位。すごいな一位、私もなってみたい一位。

彼を脅かす存在はこの学校にはいない。

さて、次は自分の名前を見つけなければ。二位からずっと自分の名前を確認していく。すると、空の五つ下に自分の名前を発見した。六位、藤田優。初めての一桁に顔が緩む。人間とは欲の塊のようで、一桁を取りしかも六位という順位を獲得したにも関わらず、あの点数で六位だなんて、と不満も出てきた。他の二位から五位までの人間はどれほどの点数だったのか。満点もあって九割以上で、それで六位だなんて。でも初めての一桁だ。二つの感情で嬉しいやら残念やら。


そういえば、福永さんはどうだったんだろうか。

折角一番前に来たのだから、彼女のも確認してから帰ろう。

張り紙に目を通していくと見つけた。

しかしそれは私から少し離れているところに名前があった。十三位、福永雅。私より七つ下にあった。そんなに悪い点数だったのか、空の説明を真横で聞きながらこの順位なのか。

それでも十三という数字は悪くないものだが、自分の順位が良いものだったのでそんなことを思ってしまう。


じっくりと名前を確認した後、後ろに立っていた人に最前列を譲り教室へ戻る。

空は順位を見たのだろうか。いやでも返却されたテストが満点だったなら自分が一位だということくらいわかるはずだから、確認なんてしに行かないだろう。誰かに誘われて行ったかもしれないが。

取り合えず空に六位の報告をしよう、と思いながら二年の階まで上がると国語の先生と彼女を囲む生徒数人が目に入った。特に気にはならなかったが通りすがりに話声が自然と耳に入る。女子生徒たちの声が大きいので、意識せずとも聞こえてしまう。


「先生、贔屓しすぎじゃない?」

「福永さんにテスト出るとこたくさん教えたでしょ!」

「授業中、先生そんなこと全然言ってなかったのに福永さんにだけ教えるってどうなの?」


何やら不穏な空気が流れている。どうやら、国語の先生が福永さんにテスト範囲を深く教えていたようで、それについて生徒たちが抗議している様子だった。不公平だと主張する彼女たちには悪いが、私も空からテスト範囲を知らされていたので福永さんと同罪だ。


先生と彼女たちの様子をじっと伺っていると先生と目が合った。

立ち去った方が良いと思いその場から離れようとしたが、先生に呼び止められた。


「藤田さん、ちょっといいですか?」


先生を囲んでいた人たちも振り返り、私が向かうのを待っている。

巻き込まれるのだろうか。

仕方なく話に入る。


「藤田さんも思うよね?福永さん贔屓されすぎじゃない?」


一人がそう言うとそれに続いて次々と似たような言葉が飛び交う。

福永さんより贔屓されている空についてはどうなんだろう。


「皆福永さんから聞いたんですか?」

「だって本人が言いふらしてたし、自分は贔屓されてるって言ってたし」


先生は困ったような顔をして「分かりました」と頷いた。


「だから先生、そういうのもうやめてよね」


満足したのか、女子生徒たちは背を向けた。


「先生、福永さんのこと気に入ってますもんね」

「そうね...もしかして皆…」

「今のは皆知ってると思いますよ」


大人ぶっている福永さんと四十代の先生とでは話が合うのだろう、と思う。多分。

福永さんは国語がよくできるようだし、好きな詩人の話とか小説の話とかをするのだといつか福永さんが語っていた。好みも合うのだと思う。だから先生も福永さんを気に入っている。私はそう解釈している。

それでも空には勝てないようだが。空は結構物知りで先生とも話が合うのだろう。しかも顔は良いし物腰は柔らかいし、こんな息子がいればなと考えたことだってあるに違いない。


「それで、先生。私を呼んだのって何ですか?」

「あぁ、いえね、今回のテスト満点だったから」

「空に教えてもらいました」

「彼、今回も全教科満点だったみたいね」

「はい、普段から勉強しているようなので…」


そこから空の話題になっていったが、ベタ褒めだった。やっぱり空はすごいな。その一言につきる。流石に終盤になると鬱陶しくなり、それが顔に出ていたのかすぐ解放してくれた。

「次のテストも頑張ってくださいね」「はい」というやり取りを最後に先生は階段を下りて行った。


あれ、私は何しに来たんだっけ。

あぁ、そうそう、空に順位を教えに行くんだった。


六位六位と心の中で呟きながら空の教室を目指した。


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