第44話
勉強会も漸く終わりテストの最終日になった。
空に教えてもらった成果が発揮され、難なく問題を解き進めることができた。今回のテストではどの教科も八割取れた自信がある。成績が楽しみだ。
最終日は午前中だけで終わった。午後に授業があるのだと思っていたがそうではないらしい。午前中で終了という事実を聞いた生徒は我先にと帰っていった。
カラオケに行こうやらショッピングに行こうやら、誘いの声がたくさん飛び交っていたので午前中で終わることが嬉しくて仕方ないようだった。もちろん私も素直に嬉しい。
私しかいない教室でじっと空を待っていたが、ふと手を見ると鉛筆の黒い跡がついていたので洗い落とすついでにトイレに行った。
ざっと洗い落とし、ハンカチで手を拭きながら教室へ戻ると空が待っていた。
声をかけようとしたが、空の周囲には人がいた。多分、答え合わせをするために集まったのだろう。福永さんの姿もあった。
きゃっきゃと楽しそうに答え合わせをする彼等を何気なく眺めていたら空がこちらに気づいたようで、笑顔で手を振ってきた。
私はハンカチを仕舞いながらその輪に入る。
「藤田さんはテストどうだった?」
「前回よりはできた」
「わたしも今回は良い出来だったわー、空くんありがとうね」
順位が待ち遠しい。空は安定の一位を獲得するのだろうが、私は一桁を取れているだろうか。テストの出来が良いという自信はあるが順位までは自信がない。
「空くん、ここ答え何だったの?」
「あー、ここはね….」
「そこね!!すごい難しかったよねぇ、わたしも苦戦したんだよー」
空と同じクラスの女の子が空に答えを求めるが、そこへ割り込んできたのが福永さんだ。割り込んできたときの女の子の顔が酷い。お前の話なんて聞いてねえよ、と顔で訴えていた。
空は「そうだね」とだけ言い、後はその女の子に答えを教えていた。いくら福永さんが嫌いだからといっても、最初に話しかけてきた子を優先して話をするのは空でなくても当然のことだが、福永さんはそれが気に食わなかったらしく、「は?なんでその子?」とでも言いたげに首を傾げていた。
「空くん、こっちもお願い」
「あぁ、そこはね」
「空、これで合ってるか?」
「えーと、ここ、途中式が違うね」
「蒼井、この文章でも間違ってねえよな?」
「うん、大丈夫だよ」
「もしかしてこれ答え間違えちゃってる?」
「間違えちゃってるね…」
「空くん、ここって問題文の方が間違えてる可能性ない?」
「残念ながらそんな可能性はないよ」
空を呼ぶ声が多くあり空は一人一人に答えを教えていた。
私は特にすることがないのでぼーっとその様子を眺めていた。
チラっと福永さんを見れば、私と同じようにぼーっと見ている。かと思えば、空に質問するため順番待ちしている子に話しかけ、自分が教えてあげるよと声をかけていた。しかし、「あーなるほどね」や「そうなんだ」という実に棒読みで素っ気ない返事ばかりされていた。それもそのはず、福永さんは今までの勉強会で何度か間違えて空に訂正されていたり、そもそも福永さんが気に食わない子が多いのだから、そんな対応をされても仕方がない。イライラしながら福永さんの説明を聞くよりも、丁寧で分かりやすい説明の方が何倍も良い。
「藤田さん、ここの答え分かる?」
一言も話さずぼーっとしている私に話しかけてきたのは確か隣のクラスの子。そこまで派手ではないが地味でもない。どちらかというと派手よりの外見だが、どこか清楚っぽさもある。目は大きくてクリクリで、髪は綺麗なストレートだった。名前は知らない。
「わたし、ここ自信なくて…」
「あ、うん。ここは一つ前のこの文章に書いてあるこれを...」
空の順番待ちをしていたが、あまりにも前の人が長かったようで私に話しかけたのか。
ここは空にみっちり教えてもらったところなのでスラスラと解いたところだ。
「あ、そっか!ありがとう!」
大きな瞳を三日月にして笑う隣のクラスの子は可愛かった。
恐らく男子はこういう女子が好きなのだろう。私から見ても男子ウケする子だと分かる。
千年に一人という謳い文句でよくテレビに出演しているアイドルに似ている。
「どういたしまして」
可愛い子と話すのは気分が良いな。
そう思っていると横から再び福永さんが入ってきた。
「何々?分からないとこがあったのー?」
誰にも相手にされていなかったらしい彼女は私の元へやってきた。
隣のクラスの子は私にお礼を言った後、友達の方へ戻っていった。
「いや、私は大丈夫」
「ふうん、何か分からないとこがあったら聞いてねー」
「...うん」
私の肩をポンと軽く叩いて他の人の元へ行った福永さん。
福永さんは逆に分からなかった所はないんだろうか。空に聞けば良いのに。
分からなかった、と言いたくないのだろうか。私は全部分かったの、と見栄を張りたいのだろうか。
そんな性格の悪いことを思ってしまう。
必死に空たちの会話に入ろうとしている福永さんが学年から本当に嫌われることになるのは、テストがすべて返却された直ぐ後だった。




