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第43話

「ねえ、いいの?福永さん」


空の部屋のベッドで仰向けになり漫画を読む私は、同じくベッドにもたれ掛かって漫画を読んでいる空を横目に聞いてみた。

私は空ほど福永さんと関わっていない。ちょっと話をするだけだ。空はちょっと話すどころか、福永さんに勉強会を半分持っていかれそうになり、教室にいる生徒たちの冷めた視線を目の当たりにし、仕方なく福永さんを止めなければならないのだから大変だ。


「良くないに決まってる。あの女のせいでテストの範囲なかなか進まないし、目立ちたいのは分かったからどっか行ってほしい」

「切実だ」

「ほとんどの人から顰蹙を買ってるのに、お気楽なもんだよね」


ハッ、と鼻で笑う空はとことん福永さんが気に入らないらしい。


「クラスの子からもさ、言われるんだよ。あのデブどうにかしてくれない?って。あの女に言ったとこで素直に頷くと思うか?」

「無理かな…」

「もうさ、放課後のヤツ全部デブに任せてさっさと帰りたいんだけど。そんなにやりたいなら一人でやっとけよ…」


ため息を吐く空だが私は一つ不思議に思ってることがある。一度空に言ったことがあったがそれでもまだ気になっていること。


「福永さん、本当に空のこと好きじゃないの?」

「さあ」


この前、空に同じことを聞いたら「俺が告白したらOKはするだろ。そして俺をアクセサリーにする」みたいなことを言っていた。そのときはそれで納得したが、ここ数日でその考えは変わった。勉強会をしているときの福永さんをよくよく観察してみたら、時々空の方を向いていた。その視線は今まで何人の女の子がしていた視線と同じで、熱っぽいものを含んでいた。彼女が前に前に出るのは目立ちたいだけではなく、空にこっちを向いて欲しいという理由もあると思う。自分が目立てば空くんがこっちを見る、私だけを見てくれる、そういう気持ちもあると、私の女の勘が反応している。

自分は頭が良くて、皆の前に立って教える人間だ。空くんと同じ位置に立っているんだ、と必死にアピールをしているように、私の目には映った。


「優はそんなに俺と福永さんのことが気になるの?」

「えっ、まあ」

「なんで?」

「なんでって…」

「福永さんが俺のことを好きかもってことを、わざわざ俺に言うなんて優も性格が悪いね」


全てを見透かす瞳に私を映す。

空にそう指摘されてカッと赤くなった。

言葉が出ない私は無言で、開いていた漫画に視線をやり俯いた。


今まで、私は今回のように何度か空に「あの子空のこと好きなんじゃないの?」と言ったことはある。けれどその度空は「だろうね」等と私の言葉に素直に答えてくれていた。

しかし今回は違った。私がどういう意図で空に言ったのかを指摘してきたのだ。今までこんなことはなかった。探るようなことは言わなかった。


分かっているのだ。私が福永さんを見下していることに。私が福永さんを貶めていることに。

福永さんの想いがバレたらいい、告白なんかせずにフラれてしまう様を嘲笑う私を見透かしている。そして私もまた、空が私を見透かしていたことを知っていた。花井さんのときだって、中学の頃「俺の彼女の名前なんだっけ」と言われ笑顔で教えてあげた。そのときもきっと見透かしていた。あの女より私の方が上なんだと喜ぶ私を知っていた。私も、空が知っていることを知っていた。お互いすべて知っていた。それでも口にしなかったのはプライドを保つためか、それとも…。


私は自分が可愛くないと分かっている、しかし福永さんは私よりも下だ。見た目も、あの性格も、私より劣っている。私の方がまだ可愛いし細いしそれに私はあんなにでしゃばったりしない、そうやって福永さんを下に見ていた。自覚もあった。

それらを、間接的ではあるものの、改めて空に私的され焦った。恥ずかしかった。こんな感情を持っていると知られた。私も所詮、ただの女だ。


「まあ、いいけどね。俺もあのデブ嫌いだし」


何も言わない私に気を遣ってか、そう吐き捨てた。

唇をきゅっと噛み、赤くなっているであろう顔を髪の毛で隠す。空はこちらに背を向けているから隠す必要なんてないけど、どうでもいいから、何でもいいからこの気持ちを隠したかった。


人間の性格はそう簡単に変わるものではない。環境が変わらない限り長年染み付いた性格は変わらない。

私がこんな人間になったのはいつだったか、覚えてない。ただ小学校低学年の頃までお姫様の真似事をし、よく考えれば空から嫌われるようなこともした。そのときは自分の性格が悪いなんて思ってなかったし、空からも親からも性格を指摘されたことはなかった。


しかし、小学校三年生の頃だったと思う。急に空が私と距離をとるようになった。空がじわじわと人気者になっていった頃だ、恐らく空も私なんかと一緒にいるよりも取り巻きといた方が良いと察したのだろう、話しかけられなくなった。ショックだった。いつも一緒にいたのにどうして急に態度を変えたのか、問い質したかったが、話しかけるなというオーラを放っていたし空の周りには常に人がいたので私から話しかけることはできなかった。

一体自分の何が悪かったのだろう、そんな思いがぐるぐると頭の中を巡った。そしてやっと自分の性格が悪かったと自覚したのだ。常に自分中心に世界が回っていると思い込み、行動も褒められたものではなかった。きっと空は早く私から離れたかったに違いない、そう結論を出すには十分だった。

私は必死で性格を直した。自分よがりなことはしない、人のためになることをする、自分のことは自分でやる、されて嫌なことはしない。頑張ってどうにか直していると、前よりも友達が増えた。嬉しかった。なんだ、私は空がいなくてもいいじゃないか、心のどこかでそう思うようになった頃、空は戻ってきた。

何事もなかったかのように「おはよう」と言いながら前みたいに空が横に張り付くものだから、戸惑った。もしかして空は、最初からこれを狙っていたのではないか。私の性格が直るのを待っていたのではないか。私が最終的に出した結論はそれだった。

しかしその後、違う方向へと性格が歪んでいく。言わずもがな、空の女絡みだ。そして今の私がある。

こうなったのも全部、空のせいだ。私じゃない。

空がすべて悪い、私をこんな風にしたのは空だ。私は責められる側じゃない。


自分にそう言い聞かせて、再び漫画を読み始めた。


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