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第37話

六時間目の数学、雨が降っている外をぼーっと眺めていると不意に先生が言った「テスト週間がそろそろ始まるな」という言葉でクラスはざわつき始めた。

テストか、そろそろ空に助けを求めないと危ないな。幼馴染の空は成績優秀で、毎回毎回トップを飾っている。学年一位の空は私にとって心強い助っ人で、テスト前になると勉強を教えてくれるのだ。

先生の授業より分かりやすいし同じとこをしつこく何回聞いてもその都度丁寧に教えてくれる。テスト前だからと自分の勉強をすることもなく私に付きっ切りなのに学年一位とはどういうことなんだ。一度脳みそを交換したい。


空が成績優秀なのは周知の事実であり、それ故皆テスト前になると空に群がる。人気者の空が邪険にできるはずもなく...いや、何度か邪険にしそうになっていたが、「放課後残って教えてあげなよ、私は夜でいいから」と言えば素直に従った。私も、放課後から夜まで煮詰めなければならない程頭が悪いわけではないし、満点を取る気もないので放課後は皆に譲ったのだ。もちろんその輪の中に私も入って教えてもらうのだけど。

今日あたりにでも群がりそうだな皆。


私の予感は的中し、授業が終わると一斉に空に群がる姿が見えた。いつもと同じく私のクラスにやってきた空は、私のクラスメイトと空のクラスメイトから勉強を教えてとせがまれていた。その様子を見た他のクラスの子たちからもお願いされ、困っていた。


「六時頃までなら大丈夫だけど、それでもいいなら教えるよ。この教室でいい?」


その一言で生徒が散った。拒否したのではなく、ロッカーに収納していた教科書やノートを取りに戻ったのだ。その間に空は私のクラスに入ってきた。


「今回も教えることになっちゃった」

「国語やりたいな」

「分かった」


そんな話をしていると一人、教室に入ってきたのが見えた。

あれは確か....。


「優ちゃん久しぶり」


去年同じクラスだった福永さんだ。私は彼女があまり好きではない。

肉団子のような体形をし、髪は短くテカテカ光っている。顔は太ったビーバーのような顔で、見た目からしてあまり好きじゃなかった。

福永さんは一言では言い切れないが、深く関わりたくないと思っている人が多い、あまり性格が良くない人だ。

確か福永さんも理系だから空と面識がありそうだ。


「空くん、大変そうだね」


ニコニコと笑いながら近寄ってきた福永さん。細い目が余計に細くなっている。


「めっちゃ勉強教えてって言われてなかった?」

「あぁ、うん」

「何の教科やるの?」

「国語だよ」

「へえ、わたし国語めっちゃ得意なんだよね。特に在原業平のさ...」


自分がどれだけ国語が得意であるかの知識をひけらかした。空は相変わらず笑顔で話を聞いている。

私は興味がないので国語の準備をする。


「あ、皆集まってきたんじゃない?」


そう言って皆に国語をやるらしいよ、ということを伝えに行った。これは多分、空の伝言役をしたかったのだろうと思われる。


「ねぇ、誰あのデブ」

「空、知り合いじゃないの?」

「全然、馴れ馴れしくてびっくりした」

「福永雅ちゃんだよ、理系の」

「雅?顔と名前が合ってなさすぎじゃん」

「まあ、今ので分かったと思うけどあまり好かれる人じゃないんだよ」

「なるほど」


空とコソコソ話していると福永さんが私たちの元へやってきた。


「空くん大丈夫?この人数教えれる?わたしも手伝おうか?」

「いや、大丈夫だよ。ありがとう」

「分かった」


福永さんは私の隣の席に座り、特にノートや教科書を出すわけでもなくただ座った。


福永さんはあまり好かれない。見た目は四十代のようで貫禄があり、相談したくなる雰囲気がある。しかしいざ福永さんに相談するとそれは色んな人に伝わっていく。スピーカー女とでも言おうか。去年同じクラスだったが、私は彼女に「わたしさ、中谷さんと藤島さんと池園さんと金田さんとかに相談されてるんだよね」と何の脈略もなく言われたときは驚いた。聞く気はなかったが「どんな相談されたの?」と言ってみたら詳細を教えてくれる、スピーカーのような人だ。


「じゃあ、国語ね。今回のテスト範囲はここからここまでで...」


中学の頃から変わらない、空が黒板の前に立って皆に教えるやり方は高校でも定着した。その教え方は先生からも絶賛され、たまに見学にくる先生もいる。

確か去年空の真似をしようとしたのか、福永さんもやっていた。

しかしそれは嫌味なもので「○○さん、これ分かる?」「分からない...」「えぇ!?基本だよ」と小馬鹿にした発言が目立っていた。教師でもないのに「基本なのに」「こんなのも分からないの」という発言はただただウザい。

常に上からの教えを受けようと思う人間もいないので、福永さんの授業に人はあまり来なかった。

福永さんも頭は悪くなかった気がする、学年十位とかそんなもんだったはず。


「空くん、この作者の生い立ちにマーカー引いてるんだけどテストに出るのかな?」


誰かがそんな質問をした。福永さんのことを考えるのはやめて、私も教科書を見るとそこには黄色いマーカーで線が引かれていた。授業中に先生が線を引けと言ったのだろうが覚えていない。

すると、空が答える前に隣の福永さんが私の教科書を覗き込んだ後、答えた。


「出るよー。特にこの人の生い立ちもそうだけど、代表作とかも出るよー」


空に質問した女子は「お前に聞いてねえよ」というような顔を福永さんに向けていた。他の子も「お前誰だよ」という視線を向けていた。

福永さんはよくしゃしゃる。

クラスの中心になる子は、その性格故に中心なわけで無理して中心になろうとか思っていない。

だが、福永さんは「私が中心なんだ!!中心になりたい!!」という感じで前に前に出るもんだから、陰で失笑されている。


「えっと、よく知ってるんだね」

「まあ、わたし国語の先生と仲良いし」


自慢癖もある。彼女の話は、自慢か嫌味か誰かの噂話や秘密話で常に上から目線。これが彼女が好かれない理由だ。

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