第35話
朝、優が学校へ行く姿を確認して待ち合わせの公園へ行った。既に笹本は来ていて笑顔で挨拶をしてきた。
「ごめんね、遅かったかな」
「い、いえ...わたしが早く来すぎて...」
あぁ、何か昨日と違うと思ったら髪だ。
少し巻いたのか。あとピンも。
俺と釣り合うように努力したのだろうが、そんなもので釣り合うと思われてるのか俺は、安くなったな。
昨日と同じく本の話をしながら校門へ足を踏み入れた。
この女は本当に何も考えていないのか、今この瞬間を生徒に見られているのに。
今この状況を見て他の生徒は何を思う。それは、お前はただの泥棒猫だということ。
俺と優が喧嘩したことはもう知れ渡っているし、その最中にこの女は俺と一緒に登校した。
藤田優という俺に一番近いポジションの女がいない間に、王子様を奪おうとしている泥棒猫。そうとしか思われない。そこまで考えがいっていないとでもいうのか。
もしくは、危なくなっても俺が助けてくれるとでも思い込んでいるのか。どちらにせよ馬鹿な女の思考だ。そんな美味しい状況で俺が助けに入るなんてありえない。
「あ、の、一つ聞いていいですか」
「何?」
「先輩は、あの、藤田先輩と付き合ってるんですか?」
「一番大切な女の子だね」
「えと、じゃあ、その」
俺が優以外の女を一人、隣に付けているのが珍しいのか登校中の生徒が俺らの話を聞こうと歩幅や距離感を会話が聞ける最適なものにする。
それを横目で見ながら、会話を続ける。
「仲良い女の人は...どのくらいいるんですか」
「結構いるねぇ」
「あの、わ、わたしは友達...ですか?」
「う、うーん、その質問は困るなぁ」
「そ、そうですか」
友達...よくて後輩だろ、何を言っているんだ。
白い目で見下ろすが、女はそれに気づかずしょぼくれている。
まず俺と登校できただけでありがたいと思えよ。がっつきすぎ。
下駄箱まで行くと一年と二年ではクラスも違うのでここでお別れになる。
笑顔で手を振ってばいばいし、靴を履き替える。
「空先輩!!」
「ん?おはよう」
なんだか見たことあるようなないような一年女子が数人駆け寄ってきた。
「おはようございます、今の、笹本さんですよね?知り合いなんですか?」
「知り合いというか...うーん」
「笹本さんと登校してましたけど、藤田先輩と登校しないんですか?」
「今喧嘩中でさ、仲直りしたいんだけどね...いろいろあって」
苦笑いし、言葉を濁すとその「いろいろ」の部分が笹本のせいだと思い込んだのだろう。
一年生は微妙な顔をした。
「あ、空先輩!!」
今度は誰だと思ったら中学のときの後輩である西島悟だった。
「悟、おはよう」
「おはようございます、先輩、笹本さんと登校だなんて何かあったんですか?」
「いやぁ、特に何もないよ」
「でも先輩、笹本さんみたいな女子と仲良くなったことありましたっけ?」
その言葉を聞いた瞬間一年女子が騒ぎ始めた。
悟はよくも悪くも素直で、宮田のような男だ。好きな部類の人間だ。
「まあ、そうなんだけどねぇ」
「藤田先輩も心配してましたよ...」
「優が?そっかぁ」
「笹本さんと何があったか知らないですけど、でも俺、先輩と笹本さんの組み合わせは、俺はあんまり...」
悟は中学の頃から俺を慕ってくれている。憧れてくれているのだ。
いつも俺を見かけると駆けってきてくる。俺が新しい靴を買ったらどこのだと聞いてくるし、俺が模試で一位を取ったと聞いたときは必死で勉強していたし、俺が南高校へ行くと言えば迷わずそこを第一志望校にしていた。
そんな悟が俺に「笹本さんと空先輩が一緒にいるのは嫌です」と濁しながらもそう言ってくるのだ。客観的に見ても釣り合わないらしい。当たり前か。
「もしかして笹本さんに何かされたんですか?」
「されたというわけじゃないんだけど、そうだなぁ....そろそろ優と仲直りしたいんだよね」
その一言でそこにいた一年は察してくれた。
良い人すぎて、笹本さんを傷つけないように遠まわしに「離れたい」と言っている空先輩、だ。
この一言で動いてくれるだろう。
さすがに高校生だし、目立ったことはしないと思うが。
「あ、じゃあ俺今日日直だから、先に行くね、ごめんね」
「いえ、呼びとめたのは俺なんで!」
下駄箱を去る前に聞こえてきた会話。
「やっぱりね、空先輩があんな地味と仲良くなるなんて思わなかったんだよね」
「だっていっつもギャルっぽい人とかチャラい先輩といるのに、おかしいと思った」
「笹本っていっつも空先輩眺めてた子でしょ?あの顔で生意気すぎ」
「藤田先輩と喧嘩した今、空先輩に取り入ろうとしてんでしょ」
「あいつよく恋愛小説読んでるらしいよ、空先輩と付き合いたかったんじゃね?」
「ウケる、ブスのクセに調子乗んなっつうの」
皆素直で俺嬉しいよ。
たまにいるんだよね勘違いする地味な女の子。
漫画やら小説やらを読みすぎて、変になってる子。
優が俺よりもその子のことを気にかけたなんて、許さない、笹本歩。




