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第34話

自動販売機の元へ行った俺は一人分のお茶を買った。ここでこの女にも買ってあげるのが良い男のすることなんだろうが、そんなつもりはさらさらない。

女、笹本も自分の財布から金を出し俺と同じものを買った。偶然なのか狙ってなのか、俺と同じものを飲むことすら気持ち悪い。

まだあからさまな好意を持たれた方がやりやすいというものだ。


「もうすぐ、授業始まります、ね」

「そうだね」


お茶の蓋を開けて一口飲む。

あーあ、横にいるのが優だったらなぁ。今日一回も話してないし、早く会いたい。

だから俺はこの女をすぐにでも蹴散らしたい。


「もうこのままサボろうかな」


万年モテ期の俺は、いろんな女に好意を持たれた。

それこそ、ギャルからいじめられっ子まで様々な種類の女と関わってきたので、対処法というのは理解しているし、この後どういう行動をとるかなんていうものも承知している。

きっとこの後、笹本は俺と一緒にサボるだろう。何かと遠慮しながらも、結局は俺と一緒にいることを選ぶのだ。


「もう時間もないし、どうせこの後の二時間って長めのホームルームだしね」

「で、でも、そういうのは良くないと思いますよ...」

「そう?笹本さんは授業に出るの?真面目だね」

「そ、空先輩も戻りましょうよ」

「んー、でも面倒だしねぇ。笹本さんも一緒にサボろうよ。あ、これは先輩らしからぬ発言だよねー、今の忘れて」

「い、いえ....じゃ、じゃあわたしもサボります」

「あはは、笹本さんも悪い子だねぇ」

「そ、空先輩ほどじゃ、ないです...」

「はぁ、なんか、青春って感じだね」

「そ、そうですね...」


ほらみろ。ちょろいな。

青春という言葉を持ち出せば満更でもなさそうにする。

夢見る女には、恋愛漫画に出てくるような発言をしておけば大体問題はない。逆にそれを求めている節がある。

しかしこの後の時間をこの女と過ごさなければならないので、会話を続ける必要がある。


「じゃ、一緒にサボろうか。笹本さんってどんな本が好きなの?」

「わ、わたしは、えっと、渡辺誠一の...」

「あぁ、有名だよね。彼の作品では俺、夏の人形が一番好きだな」


嘘だ。夏の人形なんてクソ程も面白くなかった。


「そ、そうなんですか。わたしも、好きです」


じゃあ俺ら話が合いそうにないな。

本なら大体優にすすめられて読んでいるし、本の話題についていけないこともないが好みが違うので面白くもない本を絶賛しなければならないこの苦痛。

他の話題がないのか。アイドルとか芸能の話題は見るからにできそうにないし、最近のニュースとかも見てなさそうだし、アニメや漫画乙女ゲームの話題なら喜んで話すのだろうが...。


「笹本さんは少女漫画とか読むの?」

「はい、大好きなんです...」


だろうね。


「好きな少女漫画ってあるの?」

「えっと...青春物語っていう...」


あー、少し前に流行ったやつね。

あれも確か地味女が学園の王子様と恋愛するやつじゃなかった?

まじかよ...。それを俺に言うか。


「笹本さんはそういうのに憧れてるの?」

「あ、いえ...わたしみたいなのがそんな...」


とか言いつつ俺に着いて来たり必死に会話をしようとする辺り、憧れてるんだな。

憧れは憧れのままでいればいいものを、実現しようとする様が無様だ。

これで俺が本当の王子様で誰にでも優しくて裏表のない人間ならまだ可能性としてはあったのかもしれないが、生憎俺はこんなブスと本気で仲良くなんてできない。

しかもこの距離感。もう少し向こうに行けばいいものを、肩と肩が触れ合いそうな程の距離。笹本が少し身じろいで俺に当たったなら、顔を赤くして急いでそっぽを向く。気持ち悪い。


ふと来た道を見てみると、人影が見えた。

顔は隠れて見えなかったが、あのシルエットは多分優だ。あの足と華奢具合は恐らく。

可愛いなぁ、お茶でも買いたかったけど俺たちがいたもんで出てこれなかったのか、可愛いなぁ。

今頃俺と笹本がいることで嫉妬でもしているのだろうか、そうだと嬉しいなぁ。


「せ、先輩...」

「なに?」


可愛い可愛い優のことを考えていたのに雑音によって引き戻された。


「あの...幼馴染の方と喧嘩したというのは本当、ですか」

「あぁ、まあね」

「朝、い、一緒に登校とか、しないんですか」

「うん」


あー、これは一緒に登校しましょうとかそういう感じ?

だっるい。面倒くさい。何で俺がお前みたいなクソと...。俺の品格が疑われるし何よりこんな女を隣に置きたくない。


「あの、ほ、放課後とか一緒に、か、帰りませんか」


しかし、この女は度胸がある。普通の地味女ならここまで俺を誘ったりしない。

こんな図々しいこと言わず大人しくしているのに、必死なのか。


「こ、ここまで話が合う人は、は、初めてなので」

「ごめんね、放課後はいろいろ予定があって。あぁ、朝一緒に登校する?」

「い、いいんですか?」

「うん」


歓喜する女を見下ろしながら、醜いなと思う。

好きでもない女に誘われても嬉しくないし、ましてや友達でもない、今日初めて会った人間だ。そんなに嬉しそうにされても「可愛いな」と思えるはずがない。むしろ「何だこの女は」となる。

いつぞやかに読んだ漫画にこんなセリフがあった「好きだと言われて嬉しくない男はいないよ」。

はい違います。物心ついたときから「好き好き」と言われてきた俺にとって、知らない女からの告白やら好意やらは最早なんとも思わない。「あ、そう」としか言いようがない。


「じゃ、じゃあ明日、えと...わたしが家まで行きましょうか」


は。待て。こいつ俺の家知ってるわけ?


「俺の家知ってんの?」

「い、いえ...だから教えていただけると...」

「あぁ、だったらどこかで待ち合わせしようか。公園の前なんてどう?あ、家逆方向かな」

「だ、大丈夫です」

「しゃあ、明日の...八時にね」

「は、はい」


嬉しそうにしちゃって、この後どうなるかとか考えてないんだろうな。

地味女と王子様の物語が好きならさ、よくあるしゃん。

王子様なんだよ、皆の王子様なんだよ。そんな男を地味女が横取りするんだよ。

他の女が黙ってるわけないじゃん。


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