第33話
優と一緒に登校するのに喧嘩中は別々で登校だ。
早くその笹本とかいうやつを蹴散らして優の元へ行きたい俺は、早速お昼休みに図書室へ行った。
案の定、そこには笹本と思われる一年がいた。俺たち以外は誰もいなかったので、その笹本の元へ歩み寄った。
「すみません」
声をかけると驚いたような表情をしていたが次の瞬間少し嬉しそうに笑った。ほんの一瞬だったが。
優の言った通り、さほど可愛くない顔面と標準よりは膨らんでいる体。
私はオタクですと言わんばかりの見た目だった。
「な、なんですか」
「アガサクリスティの本ってどこにあるか分かるかな?」
「あ、そ、それなら...」
そう言ってその本棚まで案内してもらった。
どこか嬉しそうなその後ろ姿を見て、確信した。
「こ、これです」
「ありがとう、えっと」
「あ、一年の...笹本です」
「笹本さん、ありがとう」
「い、いえ....せ、先輩は...」
「蒼井空、二年」
「し、知ってます...有名ですから」
「そっか」
「....あ、えっと...アガサクリスティ好きなんですね」
思った通りだ。
もじもじとしながらぼそぼそと話す。あまり好きじゃないタイプの人間だ。顔も好きじゃない。
はっきりと物を言ってほしい。
さっさとどこかへ行けばいいものを、会話を続けようとする女を嘲笑する。
話が済んだのだから席に戻って本でも読めばいいものを、無理に喋ろうとする女は多分夢見る少女というものだ。
俺に向けられる視線も、熱っぽいものを含んでいる。
「せ、先輩は図書室に来るんですか?」
「あまり来ないね」
「あ、頭良さそうなので、意外です」
「そう?」
「わ、私なんて...毎日勉強で」
聞いてもないことをベラベラ喋る女は何としてでも俺と仲良くなりたいようだ。
こんなことだろうと思った。
一年で俺は頭が良くてイケメンで、とにかく完璧な男だとでも流れているのだろう。間違いではないし、その通りだ。
ただ、頭が良いからといって図書室に通ったりはしない。通う理由もない。本なんて自主的に読んだりしないし、優がすすめたものは読んでいるけどそれだけだ。勉強だって家で優とやった方が良いに決まってる。こんなとこで誰かに見られて勉強するより優を眺めながら勉強した方が捗るってもんだ。
この女は俺が図書室に通う頭の良い奴だと思っていたのだろう。二年の階にまで行く勇気もないし、友達とキャーキャー騒ぐこともできない。唯一できるのが図書室で俺の姿を見ることだけ。そう思っていたのだろう。生憎、俺が図書室を利用しないもんだから出会うことなんてなかったけど。
今までずっとここで待っていたのだろう。俺が現れるのを。そうしていつか本の話で盛り上がって仲良くなって。王子様と地味女の愉快なラブストーリーが始まるっていう妄想か。
身の程を知れよ。
俺みたいな容姿も完璧外面も完璧な男がお前みたいなブスで陰鬱な女を相手にすると本気で思っているのか。こういう奴は大体、俺の幼馴染が世間的に見てあまり可愛くないもんだから私もイケるはず、とか変な勘違いをする。図々しい。
「そ、そういえば先輩の幼馴染の方...この前いらっしゃいましたよ」
「あぁ、そうみたいだね」
優に気づいていたのか。気づいていたのに話しかけなかったのは優が怖かったからか。
あまり好意的に接してくれそうにない顔つきなもんだから、話しかけなかったのか。
優は地味というかクールな見た目だから、よくそう思われる。
この女も優に話しかける勇気がなかったのだろう、俺目当てだと思われて睨まれるのがオチだと悟ったのだろう。
俺は笑顔を崩すことなく女に接する。女はシンデレラにでもなった気分だろう。
どうせクラスに溶け込めず、俺に見つけてもらおうと都合の良い妄想をしていたはずだ。
そんな恋愛小説みたいなことが起こるわけないのに、健気に王子様を待つブスは哀れだ。
みっともない姿をここまで晒して恥ずかしいという感情が沸いてこないのか。
「あ、じゃあこの本借りるね」
「は、はい....」
「喉乾いたからお茶買いに行くんだけど、一緒に来る?」
普通だったら知らない男のこんな誘い、気持ち悪くて断るだろう。
この女が優だったら嫌そうに顔をしかめて一蹴する。
「は、はい...行きます」
ついて来たよこの女は。
どういう神経してるんだ。しかも嬉しそうに、いや、優越感か。
今まで散々陰で悪く言っていた女共に対して「私は空先輩に誘われたんだぞ、お前らなんて誘われたことないだろう」という優越感も入っている。顔に出やすいな。
こんな女が優と友達なんて無理。会ってそう判断した俺は生徒から見られやすい校舎裏の自動販売機に連れて行った。




