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第31話

笹本さんが空と楽しそうにしている現場を目撃した翌日の学校で、噂になっているかと思った。昨日西島くんも言っていたし、二年の階にまで噂の手は伸びているかと予想していたのだが、教室に入ってもそんな話声は聞こえない。一年の階で留まっているのかもしれない。

鞄を机に置いて教科書を出していたとき、山本さんが「おはよう」と近づいてきた。


「ちょっと、藤田さん、あれなに?」

「あれ...?」


私の腕を軽く掴み、窓の方を指さす山本さん。窓を見ると数名の女子が固まっており、その中に入るようにして連れていかれた。


「ほら、あれ」


あれ、とは。

今日も良い天気で青い空に白い雲。今日一日雨は降らなさそうだ。

校庭では部活の朝練で走っていたり野球をしていたり、青春の絵があった。

そして校門の方へ視線を移すと生徒がチラホラ歩いている。まだ遅刻ギリギリの時間ではないから、そんなに登校する生徒はいない。


「何か変なとこがあるの?」


いつも通りの変わらない風景。


「ほら、下!!」


山本さんは指さして下を見ろと言ってくる。

言われた通りに下を見ると、空がいた。

今日は私の方が早く家を出たみたいだ。


「えっ、空の隣にいる子...」


空は一人で登校していなかった。横に一人の女子生徒を置いて歩いている。

そしてそのシルエットは何やら見覚えのある...。


「誰!?あの女子。藤田さんの友達?」

「や、あれは...一年の子かな」

「一年!?」


そう、笹本さんだ。

嘘でしょう、どうして笹本さんと空が一緒に登校しているの。

昨日一緒にいるところを目撃してから仲は良いみただな、とは思っていたけどまさか一緒に登校してくるとは思わなかった。

もしかして彼女になったのか。そうだとしたら、納得いかない。西島くんも言ってたけど、誰がどう見てもつり合いがとれていない。見た目がすべてというわけではないけど、空の横に彼女として立つなら、それ相応の女でないと誰も納得しないし絵的にも耐えられないものがある。

しかし空があんな大人しい地味な子がタイプだとは...。無理して付き合ってるんじゃないのか。


そしてふと花井さんを思い出す。

また花井さんのときみたいに何か理由があって付き合ってるんじゃないのか。

でも理由って、特にない気もするし。

考えてもイマイチよく分からない。


「ねえ、藤田さん」


一緒になって空を見ていた子たちと山本さんがこちらに視線をやり、微妙な顔をしていた。


「あの子、誰?」


言ってもいいのだろうか。もしも空が本気で好きなら笹本さんが嫌われる姿なんて見たくないだろうし。

でも今空と喧嘩中だし、別にいいか。


「一年の、笹本さんって子だよ」

「ささもとさん?」

「私も喋ったことないけど、大人しそうな感じの子だよ」

「へえ、でもなんでそんな一年が空くんと登校してるの?」

「うーん、それは私にもちょっと...」


そんなの私が聞きたい。誰か空に聞いてきてくれ。


「笹本さんって、何組なの?」


山本さんがそんなことを尋ねてきた。

何組だろう。図書カードに書いてあった気がするけど覚えてないなぁ。


「そこまでは...あ、でも確か西島くんと同じクラスだったよ」

「西島くんって、サッカー部の?」

「そう」


さすが山本さんだ。

見た目通りというか、顔が広い。ギャルっぽい感じの子って皆顔が広そう。

西島くんのことも知ってるみたいだし、面識があるんだと思う。


「そっか、ありがとう!!」


清々しい程の笑顔で席に戻る山本さんは一体何をする気なのか。

多分何もしないと思うんだけど、さすがに二年生になったんだし。

ただ、怖いのは一年生だよね。笹本さんと同じクラスの女子とか妬み嫉みがありそう。

自分より下だと思ってた女子がいきなり学校の頂点に君臨する先輩と登校したり、サボったり。羨望の眼差しよりも嫉妬の方が大きいだろう。


いじめとか、起きないと思うけどそうった場合西島くんは助けるのかな。

一応助けはしそう。「何やってんだよ!」って言って、止めに入る。そして女子からは「こんな女にまで手を差し伸べる西島くん素敵」となって、次は陰でいじめが始まる。こんな感じか。

ここまでにはならなくても、恐らく陰口が大きくなる。そして今以上にクラスに馴染めなくなるのが目に見えている。

同じクラスに、笹本さんと似たような地味系の女子がいれば、孤立は逃れられるだろうけどそれもなさそう。派手な子たちがその子たちを飼いならして笹本さんの孤立を計画してそう。だってクラスのグループに、笹本さんの連絡先だけなかった。ということは誰かが「笹本無視しようぜ」とそのグループで送信したのなら...。西島くんとかは反対しそうだけどそれ以外の人たちは乗りそうだ。


「笹本?はぁ?しかも一年?」

「らしいよ、マジ何様なんだっつうの」

「でも一年って空くんとお近づきになりたい奴ばっかじゃん」

「だよね、一年でも空くんすごい人気あるから、笹本って子も絶対孤立させられるし」

「今年の一年、性格悪そうな子ばっかだもんねー」

「そうそう、放置してても大丈夫でしょ。一年がどうにかしてくれそう」

「あっはは、心配して損したー。ウチらの空くんに年下が手ぇ出してんじゃねえよ」


そんな会話が耳に入った。

思うことは皆一緒だ。


笹本さんも、どうして空と関わったりなんかしたのか。誰もがこうなることを想像できるのにまさか本人は気づかなかったとでもいうのか。

自分の立場と空の立場を考えたらわかるはずでしょう。バカなのか...。

女の嫉妬を甘く見ているのか、それとも空が助けてくれるとかそういう可愛いことを考えているのか。

それが本当なら呆れてしまう。


私には関係がないし、勝手にしてくれてもいいんだけど。

読書好きみたいだったし、一回くらい話してみたかったのはあるけど。私が話しかけに行ったら余計に何かされそうだよね。空くんの付属品にまで認められた笹本うぜえ、って。


今回のことは、私は触れないでおこう。

そのうち笹本さんも空から離れそうな予感はするし。

花井さんのときみたいに、もう耐えられない!って感じで自分から離れていきそう。

だから今回は大人しくしておこう。




私の予感は見事に当たり、この翌々日空の隣から笹本さんの姿は消えた。

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