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第30話

「今日、図書委員の友達が休んでたので俺が代わりに、図書室へ行ったんですよ昼休みに。そしたら笹本と空先輩が仲良さそうに本棚のとこにいたんで、驚きました」


へえ、お昼休みに図書室か。

空は図書室に自主的に行くような人間じゃないから、笹本さんが誘ったのかそれとも空が笹本さん目当てで行ったのか。

それにしても昨日の今日でどうして笹本さんと仲良くしてるのか不思議で仕方ない。

笹本さんのこと昨日まで知らなかったクセにいきなり今日仲良くなるなんて...何かあるのかな。


「意外でしたよ、笹本と空先輩のツーショット」

「だろうね、私も驚いてるもん」

「どこに接点あったのか気になりますね。藤田先輩は知ってたんですか?」

「笹本さんと空が知り合いだったってこと?ううん、知らなかった」


本当に意外な組み合わせ。あの二人のツーショットなんて不釣り合いすぎる。

それは西島くんも思ったのか、言いにくそうに話を続ける。


「笹本ってクラスでも浮いてるというか、誰とも喋らないし話しかけてもなかなか喋らないしで、敬遠されてるんですよ。英語でペアを作って読み合いをするときも笹本は席から動かないし、やる気ないみたいで...こう言ってはなんですが、嫌われつつあるというか」


恐らくクラスでもまとめ役に当たる西島くんが、笹本さんは嫌われていると遠まわしに言うのだから嫌われているのは確かなのだろう。


「あと、笹本、クラス全員が参加してるメールのグループに入ってないんですよ。だから誰も彼女の連絡先を知らないし。学校で伝えるしかないんですけど、それも皆で押し付け合いになって結局俺が伝えに行くんですけどね」


クラスの中心である西島くんに頼むのも分からんでもない。

そして西島くんもあまり笹本さんと関わりたいと思っていないらしい。顔にもろ出ている。


「入学して少ししか経ってないのにその扱いって、もしかして何かあったの?」


興味本位で聞いてみた。

たまに笹本さんみたいな、目立たないコミュニケーションを苦手とする子はいる。クラスに一人はいるその立ち位置の子が、たまたま笹本さんだった。


「俺ら男子はそんなに笹本に興味がないというか、ただのクラスメイトなので特に気にしてはいないんですけど、女子の方が敏感で。何でも、空先輩を見かけたらずっと目で追ってるとか、空先輩にフられたり空先輩のことで騒ぐ女子のことをずっと見てるとか。そういう話をよく聞くんですよ」

「へえ、そうなの?」

「や、俺は知りませんけどね。そんなに笹本のことを見てないんで...。でもクラスの仲良い女子がよく話してるんですよ」


その話を聞くと笹本さんも空に興味津々ってことになるんだけど。

興味はあるけど話しかける勇気がなくて、遠目で眺めてるって感じかな。

もしかして空がサッカー部に力を貸してたとき、笹本さんは私と同じで図書室から空を見てたのか。


「空先輩が笹本と一緒にいるとこを目撃したのは俺だけみたいだったので、噂にはならないと思うんですけど」

「噂にでもなったら笹本さん、もっと陰口言われそうだね」

「そうですよね...」

「あぁ、でも昼休み終わる頃に二人が校舎裏の自販機の所にいたのは見たよ」

「えっ、それ本当だったんですか!?」


うわぁ、と恰好良いお顔を歪ませる西島くん。

本当だったんですか、って...。


「何が?」

「実は今日の長いホームルームで、笹本と空先輩が一緒にサボってるっていう話を聞きまして...。あそこの自販機って教室の窓から見える位置にあるじゃないですか。ウチのクラスは見えないんですけど、一年の後半クラスとかは丸見えで...」

「あっ、そうだよね。じゃあもう噂になってるんじゃない?」

「で、ですよね」


そこにタイミングよく西島くんの携帯が振動し、ヴーヴーと音を鳴らせた。


「校内は携帯禁止だよ」

「ついうっかり...電源切るの忘れてました」


メールでもきたんだろう、携帯をいじりだした西島くんだったが、見終わった後私にずいっと携帯を差し出してきた。


「えっ、と?」

「読んでみてください」

「....今日のホームルームのとき笹本やっぱ空先輩とサボってたっぽい。...あら、そんなことクラスのグループで発信しちゃってるんだ」


情報が早いし仕事も早い。一年もちゃっかりしてるね。


「笹本も終わりですかね...中学の頃空先輩に不用意に近づいた後輩、晒し者にされてましたし...」

「いやぁ、あのときは、近付いただけじゃなくて色仕掛けとか密着とかすごかったし....。今回はそこまでではないと思うな...」


表面上はそう言っても、笹本さんは女子からの嫉妬やらなんやらを回避することはむずかしそうだ。

西島くんも分かっているのか苦笑いだけで済ませている。


「実は今日、藤田先輩と話しに来たのはこのこともちょっと話しておこうと思ったからです」

「うん?笹本さんを守ってくれとかそういう意味で話してたの?」


え、それはさすがに無理なんだけど。そこまで笹本さんに興味ないし。

じとっとした視線を送ったら、手をぶんぶんと横に振って「違いますよ!!」と全否定された。


「俺、空先輩に憧れてるんですよ。俺も空先輩みたいになりたいんです。だから、憧れてる先輩が...あまり、つり合いのとれてない人を彼女にするのはちょっと嫌で...」


西島くんは宮田くんと違った素直さだと思ってたけど、ちょっと似てる。


「藤田先輩とか、他の美人な方とは絵的にも良いんですけど」

「私美人じゃないんだけど」

「藤田先輩と空先輩は、しっくりきますよ。並んでても雰囲気が似ているというか、なんというか」


美人じゃない、という部分に対して否定はしないのか。素直だがそこはもっと配慮してくれても良いんじゃないかな。

少し不満を持ちながらも、笹本さんと空が付き合うのは嫌だという話を聞いていた。


「あっ、もうこんな時間ですね。俺この後用事があるんで」

「あぁ、うん。久しぶりに話せて楽しかったよ」

「俺も楽しかったです。また来ますね!」


そう言って西島くんは腕時計を気にしながら慌てて教室を出て行った。

残された私はまだプリントを書き終えていないことに気づき、必死でもう半分を終わらせ、職員室に向かったのだった。

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