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第29話

今日中に提出しなければならなかったプリントと睨めっこし、シャーペンをくるくる回す。

空と笹本さんのことで頭がいっぱいになっていた私は何も書けず、先生に「放課後残れ」と言われ、誰もいない教室で一人寂しく将来の夢について原稿用紙一枚を埋める作業中だ。

高校二年生の春、何故今将来の夢について語らないといけないのか。まだ将来の夢なんて持っていないのに。だが将来の夢、あることにはある。それは家庭を持って子供を産みたい、家族楽しく暮らす、そういう夢ならある。だがその内容を書いたとこで書き直しをさせるのだろう。「そうじゃなくて、将来なりたい職業について書きなさい」と言うのだから、じゃあ最初から将来の職業について、という題で出せばいいものを、夢なんて抽象的すぎだ。今なりたい職業なんてないし、先のことなんてわからないし、もし書いたとこで明日には違うことを思ってるかもしれないのに。


何て書こう...パン屋さん?保育士?社長?何でもいいけど、取り合えず原稿用紙が埋まる程ネタのある職業がいいなぁ。教師とかが良いかな、中学の頃お世話になった先生が素敵で、私もそんな教師になりたいです。こんな感じかな。特にお世話になった先生なんていないけど、その先生のことと先生になってしたいことを書けば埋まりそうな気がする。どうせ懇談会でも使う材料になるのだから、保育士なんて似合わない職業を母親に知られるよりも教師の方がまだ良い。「じゃあみんなぁ、先生と一緒にお歌を歌いましょう!」って笑顔で言う自分の姿が想像できないし母親もそう思うだろう。


書くことが決まり、回していたペンを止め、原稿用紙に対面させた。

私の将来の夢は、国語教師です。理由は...なんていうのをカリカリと書いていき、途中躓いたら携帯を取り出して「国語教師 なりたい理由」と検索をかけた。反則なんて知らん、紙が埋まればいいんだ埋まれば。


原稿用紙の半分を書いたとき、教室の扉が開かれて急いで携帯を机の中に隠した。

先生かな、なんて思いながら開かれた扉を見ると男子生徒が立っていた。なんだ、生徒か。

キチリと締められたネクタイを見れば一年生だと分かる。一年生が何の用か。私に用なのか、それともこの教室に用なのか。

しかしそれは彼の言葉で前者だと知る。


「藤田先輩、やっと見つけましたよ」


二年生の階探し回ったんですから、と付け足す彼は律儀に「失礼します」と一言置いて教室へ入ってきた。

一瞬誰だか見当もつかなかったが、よくよく顔を見ると空の後輩だ。

ツンツンと髪がたっていていかにもサッカー部ですという感じだ。そして彼はサッカー部だ。

西島悟、中学の頃私ともちょくちょく話していた空の後輩だ。

ワックスを使用した髪と伸びた背が私の記憶にある西島くんと違う。


「藤田先輩、お久しぶりです」

「そうだね、一年ぶりかな」

「はい、先輩は変わってないですね」

「西島くんは変わったね」

「よく言われます、空先輩にも言われました」


照れくさそうに笑う西島くんは多分背が伸びたとかプラスな面で「変わった」と空にも言われたんだろう。

私はペンを置き、隣の席に座る西島くんと向かい合った。


「居残り勉強ですか?」

「いや、これはただ提出してなかっただけ。西島くんもこの高校に入ってたんだね」

「そうっす!空先輩追いかけてきたんですよね。こう考えてたのは俺だけじゃなかったようで、校内での倍率は少し高かったですけど」

「へえ、空効果すごいんだね」

「女子たちの執着がすごかったです。それでもまあ、先輩たちの代程じゃなかったですけど」


苦笑いする西島くんは当時のことを思い出している。確かにあの執着ぶりはすごかった。


「西島くん、なんか顔も格好良くなったね」

「えっ、そ、そうですか?先輩に言われると嬉しいですね。空先輩を見すぎて目が肥えてる先輩に言われると...」


でへへ、と照れる顔は可愛い。多分クラスでもモテてる方だと思う。可愛い系?弟系?


「そういえば、何か用だったんじゃないの?」

「へっ?いや、ただ先輩と喋りたかっただけですけど。中学の頃はよく話してたのに先輩が高校行ってからは全然話せなかったし、連絡先も知らなかったですし...」

「私と話すためだけに探し回ってたの?」

「はい、だめでした?」


空もこういうとこが気に入ってるんだろう。


「空先輩とは話したりするんですけど、藤田先輩とは話してなかったですから。なんか、高校生になってから先輩の階に行って、しかも女子の先輩と喋るのって恥ずかしくて。空先輩と話しに行く同級生の女子はいたんですけど、女子の先輩に話しかけにいく同級生男子はいなくて...」


素直で可愛い。同級生からも先輩からも好かれていそう。私も西島くんは好き。

宮田くんとはまた違った素直さ。誰にでも懐くし、懐いたら懐いたで尻尾振りながら寄ってくる。

見方によっては「西島くん、もしかして私に気があるんじゃ...?」なんて勘違いをする女子も出てくると思う。実際、それで落ちた女子生徒もいたことだろう。


「あっ、空先輩といえば、今日見たんですよね」

「何を?」

「同じクラスに笹本っていう女子がいるんですけど、その笹本と仲良さそうに話してる空先輩を」

「笹本?もしかして、笹本歩さん?眼鏡かけてる...」

「そうです、先輩よく知ってますね」

「図書館でよく見かけたからね」


そうか、笹本さんと同じクラスなのか、西島くんは。

笹本さんという名前を聞いて、私はプリントなんぞのことは忘れて西島くんとの話に釘付けだった。


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