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第26話

「笹本歩っていうんだって」


ポテチを食べる手を止め、唐突にそう言った私の方をきょとんとして「何が?」と首を傾げた空。

ゲームを一旦中止させて司書の先生と話したことをそのまま同じように話す。


「ふうん、で?」

「えっ」

「で、だから?」

「だ、だからって...」

「その子に興味があるの?」

「あるかないかの二択なら、ある」


いつもより冷たい。地雷を踏むようなことを言った覚えはないが、今の話で不機嫌になる要素があったらしい。


「どうしてその笹本さん?に興味があるの」

「だって毎回図書室にいるんだから、気になる」


そう、気になる。私も本は嫌いじゃないが、毎回図書室に行こうと思う程でもない。私は本が好きというよりは漫画が好きだ。あと、純文学は好きじゃない。でも笹本さんは違うようで、純文学からラノベや漫画までよく読むようだ。好き嫌いがないのかもしれない。

縁のない眼鏡をかけて黙々と本を読み進める姿はまさに文学少女。あれで理系だったら驚きだ。


「友達になりたいの?」

「そうではないけど。だって学年一個下だし、多分話しかけても会話ができそうにないし」


口を尖らせる私に何を思ったか、舌打ちしてバリバリとポテチを頬張る。

その態度はどうなんだ、何故不機嫌なのだ。

特に怒らせるようなことは言っていないし、理由が分からないまま不機嫌な態度をとられて私もイラッときた。

ただ笹本さんのことを話しただけじゃん。何でそんなに怒ってるの。


「ねぇ、言ってくれないとわからないんだけど」

「言わないと分からないわけ?」

「何、その言い方。私は空じゃないんだから分かるわけないじゃん」

「は?俺は優のこと分かるのに、優は俺のこと分からないわけ?」

「だからその言い方、なんなの」

「どうでもいいことに興味持ちすぎなんだよ、価値のないものに興味持つとか馬鹿だと思わないわけ?」

「はぁ?」


いちいちイラッとさせる物言いに腹を立てる。気に入らないことがあるなら言ってくれないと分からないのは当然だ。私は空じゃないし、空のすべてが分かる神になった覚えもない。


むすっとする私に「じゃあ、もういい」と顔を背けた空。思わず「はっ?」と素っ頓狂な声が出た。

もういいってどういうこと。そっちが最初にキレたのに、訳が分からない。

イライラは止まらず、顔に出る。それを見た空は大きなため息を吐いて「クソかよ」と一言。しかしその一言でイライラは高まる。イライライラ。


部屋は静まり返り、気まずい空気が流れ時計の秒針だけが微かに聞こえる。

下唇を噛みしめ、眉間にしわを寄せる。元々崩れていた顔立ちがより崩れるのを感じた。般若の顔とはこういう顔のことか。

再度、空が大きなため息を吐くと私は立ち上がり、無言で空の部屋を出た。バンッ、と普段より大きな音を立てて扉を閉めた。空がどういう顔をしていたかなんて知らない、見ていない。

幼稚だと思う。確実に怒るような事を言われてはないし、ただちょっとため息が多くて不機嫌オーラが多量に放出されていただけで、八つ当たりとも思える行動をした私は幼稚だ。空もまた、勝手に不機嫌になったので幼稚だと思う。


空の家を出る前、おばさんに「お邪魔しました」と声をかけたがいつもより低い声が出た。


何なのだ、一体。私が何をしたというんだ。私はただ笹本さんの話をしただけじゃないか。

空のバァカ、アホ、喧嘩なんて一年くらいしてなかったのに。明日、どうしよう。空と喧嘩をした翌日は一緒に学校へ行ったり、一緒にゲームをしたりしない、お互い寄り付かない。

空がいなくたって生活はできるし、困ることなんてないし、本当にどうでもいいんだけど。でも仲直りが不安だ。今まではどうやって仲直りしてたっけ。空から謝罪してきて、それで私が「いいよ」と許す役だったかも。


些細な事で喧嘩したが、仲直りにまで至るのか心配なとこだ。今回は私、悪くないし空が謝ってくるのが妥当で、私はそれを待つ。もしこのままの状態が続くのなら私から謝った方がいいのか。いや、でも、何て言えばいいんだ。「私が悪かった」は違う、私は悪くないし悪かったとしても何が悪かったのか謎。「あのとき何で怒ってたの?」は逆効果にしかならないとみた。「そんなことも分からないの?」と一蹴されそう。だから私は待つだけだ。


そこまで考えて、明日何事もなかったかのようにニコニコしながら話しかけてくる可能性もあると思った。だって本当に些細なことだし、空だってそこまで子供じゃないんだし、「昨日は勝手に怒ってごめんね?怒ってる?怒ってる?」と下から言ってきそうだ。うん、これもあるかも。

自分が悪いと思ったらすぐに謝りましょう、って小学校のとき先生も話していた。クラス中が素直に「はーい」と手を挙げて答えていた。その中に空もいたはず。悪いと思ったらごめんなさいをする。これは小学生でも知っていることだ。


が、待て。そもそも空は悪かったと思っているのだろうか。申し訳ないと感じていないのであれば謝罪なんてこれっぽっちも考えていないのではないか。そうだ、あの空だ。もしかしたら本気で「何で優は分かってないわけ?」と本気で本気で思っている可能性だってある。

あぁ、そうだったらどうすればいいんだろう。

なんだかんだ、私は空と関係を持っていたいのだ。手放すなんてできないし、離れていくだなんて考えたくない。それでも私は悪くもないのに「ごめんね」という可愛気は欠片もなく、ただただ空が私の元へ来てくれるのを望むしかないのだ。

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