表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/122

第22話

お昼休みのこと。いつなら中庭で一人寂しく昼食をとるのだが、午前中の通り雨によってベンチは濡れている。屋根のあるテーブルは他の人にとられており、仕方なく教室で食べることにした。

雨の日はよくあることだ。

空はお昼を誘ってくれるが、さすがに朝から夜まで彼を縛り付けるのもどうかと思い、お昼は別々だ。

それでもたまに、たまーに一緒に食べる。

空は友達が多いから、教室でたくさんの子たちと仲良く食べていることだろう。

一人で黙々と食べるのが嫌ではない。しかし周りは友達ときゃぴきゃぴしながら食べている。それを見るといたたまれない気持ちになるのだった。


そんな私に気づいていないのか、山本さんのグループが空についての話をしていたので盗み聞きをする。

たまたま、話が聞こえてきたから仕方ない。


「空くんの顔さ、元カノがやったらしいよ」

「あ、もしかして空くんのSNSで騒いでた子たち?」

「そう、ハナイさんとかって子みたい」

「あ、その子知ってる!結構有名だよね、中学違ったけど他校まで知れ渡ってたよ」


なんと、花井さんの話題だ。

私は驚いた。だって空、花井さんの名前を朝言わなかったから。


もぐもぐとお弁当を食べながら驚いていると、山本さんが私に気づいたのか「藤田さん!」と声をかけてきた。


「何?」

「お昼一緒に食べない?」

「え、と...いいよ」


私はお弁当を持ってその輪に入った。山本さんのグループは六人で、その中にはミキちゃんもいた。

念願のグループに入れて嬉しそうだ。


「藤田さんさ、花井さんって知ってる?」

「うん、中学一緒だった」

「空くんの元カノでしょ?」

「う、うん」

「関わったこととかないの?」

「うーん、特には」


空がどこまで話しているのか知らないから私もどこまで話していいのかわからない。

この手の話をよく好むな。学校のアイドルが女子に怪我をさせられたんだから当然か。

しかも相手は元カノ。夢にまでみた、アイドルの彼女という肩書を一度は手にした子。そんな子の悪口を堂々と言えるチャンスなんだもん、食いつきたくもなる。


「あまり良い噂はなかったよね。確か、仲良い子の彼氏を奪ったとか。性格が悪いってウチの中学でも有名だったよ。その辺の子は知らないと思うけど、目立つ感じの子たちの間では有名だったし」


卵焼きを頬張りながら言ったのは、その目立つ感じの子だ。ナチュラルメイクをバッチリ決めている。

ブスではないな、なんて、点数を付けれるような立場ではないのに採点をする。


「あんな子が空くんの元カノだなんて...空くんの好みがわからん」


同感だ。本当に花井さんのことが好きだと思い込んでいたときはこんなクソブスが好きなのかと、見る目がおかしいのではないかと。多分、花井さんを改めて見て空も後悔したに違いない。俺はこんなブスと付き合っていたのか、と。


「ハナイさんの写真見たけどマジブスだったし。やっぱり藤田さんといる方がしっくりくるよね」


分かる、と頷く山本さんたち。待て、待て。


「空のこと好きじゃないの?」


そういう目で見てるんじゃないの?


「あー、まあ、確かに一年の頃はそうだったけど、何というか、鑑賞?見て楽しむというか」

「あわよくば彼女になれたら、とかは思ってるけど、一年のときなんて空くんに盲目だったしね。でもさすがに脈なしなのは見てたら分かるし」

「去年なんて高嶺の花で、近付こうものなら先輩たちに殺されそうだったし」

「やっと空くんって呼べるようになったけど、当時の三年が怖すぎてなかなか名前で呼べなかったし」

「呼べるようになった頃には、空くんは誰にでも平等っていうのが分かったし」

「通りすがりの知らない地味系女子とちょっと仲良くなったウチらの対応がまったく同じすぎて、現実見た。あわよくば、とは思ってるけど」


そうだったのか。そういう考えの子もいるんだ。

遠い存在のときはたくさん夢を見て絶対彼女になるぞ!って意気込んでたけど、いざ仲良くなってみると脈なしがありありと伝わってきたと。

確かに去年の群がりようはすごかったけど、何より先輩がすごかったからな。空に近づく一年生女子はあまりいなかった。

その中に割り込む勇気がなかったのも理解できる。


確かに、どれだけ仲良くなっても空は女子を名前呼びにはしない。絶対苗字にさん付けをする。聞けば一種の線引きらしい。


「だから余計にそのハナイがムカツク。空くんの彼女だったくせに、今更空くんに傷つけるとか、ふざけんじゃねえよ」

「マジなめてんの?」


怖い。女子怖い。顔がマジだ。


「ハナイの噂多分もう学校中に広まってるよ。それどころか今SNSで拡散されてるし、ハナイのSNS炎上してるし」

「何で皆もう知ってるの?空から聞いたの?」


純粋に思ったことを言ってみた。

いつの間にこんなに広まっていたんだ。

呆然とする私に山本さんが教えてくれた。


「空くんが仲良い男子に話してたのを偶然聞いた子がいるんだって」


はっはー、なるほど。

自分から言うのは「紳士な空くん」が崩れるから、信用できる人に話してたのを偶然聞かせることで守ったんだな。


「空くんも聞かれたくなかったことかもしれないけど、ウチらからしたら大問題だし。むしろ偶然聞いた子感謝」

「っていうか、もうハナイ終わったな。空くんにしたことがバレで今頃学校でも言われてんじゃね?」

「ハナイの高校、同中の人結構いるらしいし、空くんの友達も大勢いるでしょ。明日から学校来れないんじゃね?」


ケラケラと笑う彼女たちのこの姿こそ空が描いていた結果なのだろう。

ハナイさんも、よく相手を選べばよかったのに。あんな悪魔を選んでしまったが故に高校生活まで危なくなって。ハナイさんの今までの噂なんかもちらほら聞き、恐らく女子から嫌われているから今回のことで、より嫌われることになる。集団で生きていく術を知らなかったのか。人気者に手を出すとこうなることが分かって勉強になっただろう。今後、これを活かして生きてください。





その後、花井さんは転校したという噂が流れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ