第21話
いつもと変わらず、空と仲良く登校した。
昨日のことがまるでなかったかのように清々しく世間話に花を咲かせるあたり、さすが空だ。
顔に貼ってあるガーゼが痛々しそうで、制服は洗ったけど元通り真っ白になることはなかった。制服を一枚しか買っていないわけではないのに、わざわざ昨日の服を着ていくあたり、さすが空だ。
下駄箱で靴を履き替え、空の元へ行ったときだ。数名の女子と男子が空を取り囲んでいる。
時間はまだまだ余裕がある。先に教室へ行こうと思ったが、空と目が合ったので待つことにした。
「空くん、その顔どうしたの!?」
「転げたのか?」
「制服も汚れてない?っていうか、足跡...?」
質問攻めにされ、困ったようにこっちを見る。何故。
「え...もしかして、これ、藤田さんが...?」
女子生徒がポツリとこぼした一言に、一斉に皆の視線が空から私に移される。
え、なに。もしかして犯人私にされてる?
じーっと睨むような視線が刺さり、慌てて否定した。
「わ、私じゃないよ!」
一生懸命頭をブンブン振って、違うことをアピールする。
髪がバシバシ顔に当たって少し痛かったが、ここで空が「そうなんだ」とか言ってみろ。私は今、この時間から全校生徒に嫌われることとなる。空がそう言う可能性はないが、もしもの話だ。
圧倒的存在感の人気者に「嫌い」と公言されたら、その集団で生きてはいけない。
「ははっ、違うよ。優は手当してくれたんだから」
「え、そうなの?ごめん藤田さん、ちょっと疑った」
「い、いや、いいよ」
そりゃあそうですよね。私じゃなかったら誰が空を痛めつけるというんですかね。幼馴染で気心知れている私以外にこんな、自分の立場が悪くなるようなことをする人間なんていないですよね。
ショックが隠せずにいると、空が「実は、昨日色々あってね」とそれはそれは悲しそうな顔をするのだった。俳優にだってなれるかもしれない。
「昨日?何かあったの?」
「ん、ちょっとね」
問い詰められるがなかなか語らない空。曖昧にごまかしている。
花井さんのことを言っちゃばいいのに。昨夜、皆に言いふらすって悪そうな顔で呟いてたのに。どうしてごまかすんだろうか。
うーん、と今までの空の行動から当てはまりそうなものを探す。何だろう、どうせまた悪魔のような悪さをするんだろうけど。
「優、ごめん、教室行こうか」
しつこく聞かれて面倒になったのか、私の元へ走ってきた。
後ろに見える生徒数名は不満そうな顔で空を眺めていた。あからさまに、何かありましたオーラを漂わせた挙句何も語らないのだから不満に思うのも無理はない。
「いいの?」
「何が?」
「...言わなくて、いいの?」
「うん、問題ないよ」
炭酸飲料のコマーシャルにでも出てきそうな爽やかな笑顔。
口の中がしゅわしゅわしてきたような気がする。
「優はまだ俺のことよく分かってないよねぇ」
「えっ、まあ、そうだね」
何やら探るような、含みのある言い方。
「俺は優のこと何でもわかるからなぁ」
「ふうん」
「小さい頃から色んな意味で、見てきたからなぁ」
「色んな意味で?」
内緒、と語尾に星マークがついたのではないかと思うくらいテンションの高い空。
どうしたというんだ。花井さんに手を出されて頭がおかしくなったのか。
「んじゃっ、後でね」
教室に入ると、クラスメイトは秒速で私を視界に入れた。
もちろん、予想はしていた。
「ねぇねぇ、空くんどうしたの?何かあったの?」
「誰にやられたの?」
「顔に怪我してたよね?」
予想していた私はあらかじめ用意していた解答をペラペラと言葉に出した。