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第2話

空と私はクラスが違う。私を教室に送り届けてから空は自分の教室へ行く。私が教室に足を踏み入れると、朝の挨拶をいくつかされたのでそれに対して私も「おはよう」と返す。

入学して間もないので、まだクラスメイト全員の顔と名前は記憶していない。挨拶をされても、誰だか分からない。クラスメイトなのか、他クラスから遊びにやってきている人なのか、そんな区別もできない。


私の次に入ってきたクラスメイトには目を向ける人がいるものの、挨拶はしない。彼女の友達であろう2人だけが挨拶を交わしていた。この差はよく知っている。私が空と幼馴染だと知っていて挨拶をしているのだ。私が空の幼馴染ではなかったら、誰も私に挨拶をしてくれないだろう。透けて見える下心に良い気はしない。


小学校、中学校では空と仲良くなるために私と先に仲良くなっておこう、という考えの人間は多かった。もちろんそれに気づかない程馬鹿ではないため、あからさまな人間とは仲良くしなかった。


さすがに高校生ともなると、そのような行動はマイナス要因でしかないと知っているのか、挨拶程度に留めている者が多数を占める。私自身、明るい性格ではないので近寄りがたいということもあるのだろう。好んで暗い人間に話しかける物好きはいない。


「藤田さん、おはよう」


席に座り読書をしていると、隣の席の子が登校してきた。あぁ、あれだ、マキちゃんだ、多分。

小学生の時のように名札がないので、誰だか分からない。


「おはよう」


しかしうろ覚えな名前を言えるはずもなく、ただの挨拶を返すだけになってしまった。

あぁ、ダメだな。このマキちゃん(仮)は特徴のない顔で、恐らく性格にも特徴がない、どこにでもいそうな一般的な子であるので、記憶に残らない。


「あ、朝読書の本忘れちゃった。教科書読んでも大丈夫かな?」

「大丈夫だと思うよ」

「ありがとう」


朝読書の変わりに出したのは国語の教科書だった。ちらりと盗み見ると、教科書には安田美樹と丸っこい字で書いてあった。ミキちゃんだったか。惜しいな。


「そういえば藤田さん、あの蒼井くんと幼馴染って聞いたんだけど、本当なの?」


唐突に質問され、あぁ、またかという気持ちが隠せない。何百回目か分からない質問に、何百回目か分からない答え。


「そうだよ、幼馴染だけどそれがどうかしたの?」


私と空が幼馴染だったとして、貴女に何かあるの?そういう意味を込めた、何百回目か分からない解答。


「そっかぁ、何だか意外だったから。でもすごいよね、蒼井くんって」


これまた何百回と言われた言葉。なるほど、この子はやはり一般的だ。平均的な子。面白くない子。

隣のマキちゃん、あ、違う、ミキちゃんを値踏みする。そして彼女の位置付けが私の中で終わると、再び本に目を通した。


「それ、何を読んでるの?」


今読んでいる小説は、高校生の男女の恋愛ものだ。母親が無理やり薦めてきたので朝読書の時間を利用し、読み進めている。今大ヒットしている小説で、泣けると有名らしい。余命を宣告された少女に惚れる男の子。死別が目に見えて、面白味がない。


「君といた夏、っていう本」

「あー、それ知ってる。面白いよね!最後なんて感動しちゃって、涙が出たよ!切なすぎるんだよ」

「そうなんだ」

「藤田さんもそういう本を読むんだね。大人びた本を読みそうだけど」

「人にすすめられたから」

「もしかして蒼井くん?蒼井くんもそういう本を読むの?」


何故そうなる。人、と聞くと空しか出てこないのか。

私には他に友達がいないとでも言いたいのか。

すべてを空につなげたい気持ちは分からなくもないが、やめてほしい。

多分私はミキちゃんと友達になることはないだろう。


ミキちゃんは、読書に戻る私にそれ以上話しかけることはなかった。


「藤田さん」

「...はい?」

「蒼井くんが呼んでるよ!」


そう言いに来たのは入学式の日から煩い人たちの中心にいた山本さん。授業中も休憩時間もとにかく煩い、喧しいだけの女子。

空に使われたのが余程嬉しかったのだろう。顔にすべて出ている。

お礼を言って廊下で待っている空の元へ行った。


「何か用?」

「これ、はい」

「え?」


渡されたのは数学の教科書。名前の欄を見ると確かに私のものだ。

じゃあもしかして私が持っている数学の教科書は空のかもしれない。が、そういえば今日数学の教科書を見かけただろうか。


「昨日俺の部屋で勉強して、これだけそのままにしてたから」

「空の教科書は?」

「あるよ。優がこれだけ忘れて帰ったみたい。風呂入った後で眠かっただろうし、寝ぼけて確認し忘れたんでしょ」


わざとか。

わざわざ言わなくてもいい事を言う。誰に見せつけているのか定かでないが、廊下に出てきて喋っている山本さんはチラチラとこちらを確認している。

友達と向かい合って話しているように見えるが、山本さんの口元は動いていない。友達の話よりも空が気になって仕方がない様子だ。


「そう、ありがとう」

「また放課後ね」

「うん」


また、私は満たされた。



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