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第19話

住宅地に囲まれた第二公園は、小学生以下の子供たちが楽しそうに走り回っている。

第一公園と違って遊具もあり、砂場もあり、しかも広い。近くに小学校もあることから第二公園は人気だ。名前も第一公園にしてしまえばいいのにと俺も小学校の頃友達とよく話した。


蒼井空、高校二年生。


現在元カノらしき女と待ち合わせ中だ。本当なら優の後を付けて、何かあれば守ってやろうと思っていたのだが、そこは宮田が役を買って出てくれた。良い友達を持っている。


幼馴染の話をしよう。俺の幼馴染は藤田優。至って平凡な女子高生だ。

俺は結構人から好かれる。「空くんってモテるよね」と何度も言われその度に「あはは、そうかな」とごまかしてきた。当然だろう、俺が「うん、そうだね。クソみたいな女が群れてきて迷惑しているんだ」と正直に答えるなんて誰が想像するか。皆の蒼井空はそんなこと言わない。だから俺もそれに応えている。

俺も最初からこんな人間だったわけではない。


物心ついたとき、隣には優がいた。初めはそんなに優のことが好きではなかった。我儘だし自分がお姫様だと思っている節があった。「空くんのものは私のもの、私のものも私のもの」精神で彼女はたくさん要求をしてきた。俺は優以外に友達がおらず、一人ぼっちは嫌だったので優の写真を部屋に貼った。特に好きだとかそういう意味はなかった。

当時引っ込み思案だった俺は彼女の命令通りに、好きな玩具も、好きなおやつも、全部我慢した。譲りたくないものがあっても「優ちゃんは女の子だから譲ってあげなさい」と怒られた。だから俺は優のことがあまり好きではなかった。


小学一年生のとき、知らない人だらけのクラスに優がいた。好きではないと思いながらも優がいたことにホッとした。そして優の後ろをついて歩いていたので「男のくせに優ちゃんの子分」とからかわれた。それが恥ずかしくて嫌だったけど、言い返す勇気もなく俯いていたら女子のターゲットになった。そのときから顔は良い方で、しかも言い返さないシャイボーイ故、好きな子ほどいじめたくなる攻撃を女子から受けた。何度も家で泣いた。どうして俺がこんな目に遭わなければならないんだ。ぐすぐす陰で泣いていたら、それに気づいた優が「私の空を泣かせて、覚悟はできてるんでしょうね!?」と敵を皆蹴散らしてくれた。それから、俺は優を見る目が変わった。あまり好きじゃなかったけど、ちょっと好きに変わった。


小学三年生の頃、俺はモテた。あの子もこの子も俺の傍を離れなかった。優は自覚がなかったが、俺が人気者になり始めると、少しずつ距離を取るようになった。俺の周りにいつも何人かいたし、近寄りがたかったのだ。優のことをちょっと好きだったが、昔にされたことを思い出し、良い機会だからこのまま離れてしまおうと考えていた。

結局優は俺にとって、独りを避けるための人間だった。友達のいなかった俺は唯一の友達である優を捨てられなかった。ひとりぼっちにはなりたくなかったから。

しかし、少しずつ離れていきながら優を観察しているとあることに気づいた。いつも俺に駆け寄っていたのに、いつのまにか知らない男と仲良くなり楽しそうに談笑していた。極め付けは、俺の後ろにそいつがいるのを見つけ、嬉しそうに俺の横を通り過ぎて行った。その瞬間、息ができなかった。絶望した。何故俺には目もくれず、そんな男の元へ笑顔で駆け寄るんだ。

絶望と苛立ちがごちゃごちゃになり、ひとつの答えにたどり着いた。


俺は、優が他の男の元へ行くなんて許せない。あれだけ俺を好き勝手にしておいて、あれだけ俺の心に入り込んでおいて自分は他の男と楽しそうにするなんて、許せない。俺は今までずっと優のことを考えてきたのに、優は俺よりもそんな男のとこに行くのか。俺は優にとってその程度の人間だったのか。

そこからは簡単だった。気づけば俺は人気者という地位に立ち、誰もが認めるイケメンと化していた。これを利用しない手はない。この俺が優の隣にいれば、他の男は寄ってこない。変な女に目をつけられても、俺が蹴散らしてやる。


今更、俺から離れるなんて許さない。


自分はこんなにも優に執着している。あのときの自分はまさかこんなことになるなんて想像もしていなかっただろう。幼い頃からじわじわと俺の心を侵食していた優。

高校二年生になっても手放せない女の子。これからも手放すことはない。


優が危機に陥ったと知ったなら、俺はその代わりになってくれる女を選んだ。それが今回の花井という女。優は大事だ。だから優に向けられる矛を、代わりに受けてくれる女なら誰でもよかった。テキトウに見繕ったのが花井。


その女が今回、優に矛を向けた。どう料理してやろうか。

これを全部言ってしまおうか。それとも、惨めになるように「そもそも付き合ってるつもりはなかった」とでも言ってやろうか。そうだ、全部言ってしまって逆上させて暴力のひとつやふたつ受け止めてやろうか。その後優のところへ帰って「どうしたのその傷!?」と心配してもらおう。次の日も学校で色んな人に事情を聞かれ、良い感じの嘘を吐いて「何その女!?」と敵意を向けてもらおう。どうせ花井が喚くことなんて誰も信じないから。裏で散々悪口を囁かれている女の狂言だ、信じる者なんていない。

なかなか良いじゃないか、よし、これでいこう。いやでも、二度と立ち上がれないように精神的に痛めつけてやろうか。


「空、久しぶり」


悶々と考えていたら、漸く主人公が登場した。

あぁ、なんて不細工。俺はこんなブスと付き合っていたんだと思うと、泣きたくなる。これと付き合ってるとき、美意識を疑われなかったかな。もう少しマシなのを選べばよかったかな。


「久しぶりだね」


まあ、いいか。

慣れた笑顔を貼り付けると、嬉しそうに近寄ってきた。


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