第18話
私の人生は女難の相でも出ているのかもしれない。トラブルメーカーの空がいるのだから、巻き込まれても仕方がないと思っているが。それにしても、十数年しか生きていない割に濃い人生を送っている。男なんて寄ってこない、寄ってくるのは空目当ての女だけ。もしも生まれ変わったら、魚になりたい。海で静かに、優雅に泳いで、嫌なものから逃げて誰も知らない海の底でゆっくり生を終わらせる。うん、それがいい。
「ねぇ、聞いてんの藤田さん」
そうしたら、こんなゴミとかかわることなく良い一生を送ることができる。
私の目の前にいるのは言わずもがな、花井さん。バッチリ決めた化粧と青いチェックの制服。その制服はこの辺りでもレベルが低いと知れている高校のだ。やはり彼女の学力では南高校すら受験することはできなかったようだ。公立高校は一校しか受験できないから。
「どうしてあたしがここに呼んだか分かってるの?」
怒りのオーラが隠しきれていない。隠そうとしていない。
ここは第一公園。何故私が学校帰りにここへ立ち寄ったかというと、昨夜空に「第二公園で待ってます」というメールが届く直前に、「第一公園に一人で来い」と花井さんからSNSの方にメッセージが届いていた。私との話し合いが終われば空の元へ行くのだろう。
こういうことは過去にも何件かあった。昨日、私との会話から空気を読んで察してくれていた空は長年一緒にいるだけある。
こういうことが過去に何件かあった、なんて私は一体どこへ向かっているのだろう。何になるのだろう。嫉妬に狂った女を集める掃除機になっているのか。やめてくれ。
「あたしが藤田をここに呼んだ理由分かってんの?」
「....空のこと?」
「そうよ、それ以外ないじゃない!!」
それ以外ないのなら聞かないでほしい。
そばにベンチがあるのに座って話せないのが苦痛だ。立ち話は疲れる。
「あんたのせいであたしたち別れたんだからね!?」
「は...?」
「あんたがあのままいじめられておけば、あたしたちが別れる必要なんてなかったのに!!ふざけんじゃないわよ!!」
ひゅー、っと小さく風が吹いた。顔にかかった髪を払いながら、どうしようかと考える。
花井さんのような人と会話ができると思っていない。自分に非があることを認めない、何を言われてもヒステリックになり、言われなくてもヒステリックになる。
ここで私が「別れたのは私のせいじゃないでしょう」と言い切ったなら「違う!あんたのせいよ!」と平行線の会話が続く。ここで私が「そうだね、私のせいだね」と肯定したなら「調子乗ってんじゃないわよ!!」となる。
どう答えても反応は同じだ。沈黙を貫けば「何か言いなさいよ!!」とこれまた激怒。
一番面倒なタイプかもしれない。私は感情のぶつけ合いより話し合いが好きなんだけど。
「別れたのは私のせいなの?」
「当たり前でしょ!?そんな分かり切ったこと聞かないでよ!」
「でも別れを切り出したのは花井さんでしょ。花井さんが別れようって言ったから別れたんでしょ」
「違う!!あんたがいじめられなかったからよ!あのままいじめられていればあたしたちは別れなかったわ!!」
いるよね、こういう女。全部人のせいにする奴。
もしも、本当に私のせいで別れたんだとしても、それは第三者のせいで別れるような関係しか築いてこれなかったあなたたちの責任なのに。責任転嫁もいいとこだ。
ため息を吐きたくなるが我慢する。
「ブスのくせに空のまわりをうろちょろして!!迷惑なのよ!」
どうしてこの女は今更私にケチをつけてくるのか、謎だ。
よく分からないがとりあえず「うん、うん」と彼女の話に相槌を打ち、良い時間になったかなというとこで「そろそろ帰らないといけないんだけど」と言って帰ろうとした。
「ふざけないで!!まだ話は終わってないのよ!?あんたのせいで別れたんだから、何とかしなさいよ!!」
げんなりした。
多分私の顔は疲れが滲み出て、徹夜した受験生の顔になっていることだろう。
もう十五分経過した。ここから第二公園まで歩いても四十五分くらいかかる。その間ずっと空を待たせる気なのか。印象最悪になることを彼女は理解してないのか。元カノを一時間近く待つ良い男がこの世にいるだろうか、しかもよりを戻そうと言われるのが分かっていて。
「あのさ、別れたのは花井さんが別れようって言ったからで、そこに私は関係ないの。今になってそんなこと言うならどうして別れたの?いじめられるのが辛かったから?空と一緒にいることより、解放される方を選んでおいて、よくそんな図々しいことが言えるよね」
「んなっ、このっ!」
何かを言われる前に、私はスタートを切った。帰宅部で普段運動もしないが、全力で走りその場から逃げた。言い逃げ。当然だ、彼女の返しを聞きたくもないし聞く義理もない。
途中まで走り、追いかけてこないのを確認してから、息を整え帰宅した。
今頃空はどうしてるのかな。