第17話
そんな花井朝子からの連絡はその日にあったようだ。
「空ー、花井さんからメールきてるよ」
「何てー?」
「明日の放課後、第二公園に来てくださいってさ」
空は只今ゲームのレベル上げ中だ。ボスを倒すための経験値を上げてもらっているので私が空に代わって彼の携帯をチェックしていた。
仕事が早いなぁ、花井さん。そんなに空に会いたいのだろうか。もう三年程前のことなのに。
「第二公園?面倒くさっ。何で俺がそんなとこに、たかが女のために行かないといけないわけー」
「一人で来てくださいって書いてあるよ。大切な話があるんだって」
「何のためにアドレス教えたか考えてほしいねぇ」
「あ、来なかったらそれ相応の覚悟をしてもらいます、だってさ」
「ゲッ。頭イカれた女って何するか分からないよね」
スルメを食べながら「よっ、ほっ」とゲームをやっている空に代わって私が返信した。
「了解って返信したから、明日行ってみてよ」
「えー、行ってほしいの?」
「うん、だめ?」
「優がそう言うなら、いいよ」
ゲームの障害物を避ける際、噴水のように結んでいる前髪がぴょこぴょこと揺れるのが可愛い。
障害物を避けるときってどうしても体も動いてしまうんだよね、分かる。
「あと私、明日は用があるから」
「了解」
空のベッドを占領し、大量の漫画を読み込む。
「....何も聞かないの?」
「何が?」
「いつもだったら、何の用があるの?ってすぐ聞いてるのに」
「聞いてほしいの?」
「や、別に....」
「心配しなくても、分かってるよ」
空は、何でもお見通しだ。私のことなら何でも分かる。それがとてつもなく嬉しい。
欲しい言葉は何でもくれる、王子様みたいな存在だ。残念ながら王子様という性格はしていないが。本心ではどう思っているのかなんて、分かりたくもない。
「空は何でここまで私に尽くしてくれるの?」
「何でだと思う?」
「....分からない」
「本当に?本当に分からないの?」
「意地悪」
「そう、俺、意地悪だからさ。だからレベル上げももうここまでにしとこうかなー」
「!?やだ!」
「嘘だから、そんな悲しそうな顔しないで」
レベル上げなんてどれだけ大変か分かってるのか。ちまちまちまちま雑魚相手に戦うのだ。ボスを倒すためには仕方ないとはいえ、雑魚を蹴散らさなければボスは倒せないのだ。
「雑魚を倒さないとボスは倒せない...?」
「なに、どうかした?」
「この場合、雑魚は花井さんでボスが私?そうだとすると主人公がいるの?」
「なに、なんの話?」
「いや、何でもない」
もしも主人公なんてものが存在するのなら、私はどれだけ経験値を積んでも倒せない無敵のラスボスになるしかないや。
そう考えるとおかしくて、ついつい笑いが込み上げてきた。