第15話
「で、そうそう。花井の話だったな。教えてくれと頼まれたんだが、良いのか?」
そう聞くのだから、まだ教えてはいないのか。宮田くんの性格から考えて、そうだろう。
私は壁に寄りかかり、空と宮田くんの会話を見守る。私が口を出すことでもないしね。
「気になったんだけど、仮にも俺の元カノでしょ?なんで俺のアドレスとか知らないの?彼女になったんなら教えたと思うんだけど」
「さ、さすがにそこまでは....」
うーん、と悩む空。本当に呆れる。どうしてこうも、覚えてないのか。私の方が覚えているではないか。
空が花井さんに興味がなく、私のために仕方なく付き合ったとしてもだ。こうもさっぱり忘れるとは。何か変な薬でも飲んだのでは、と疑ってしまう。
「花井さん、携帯持ってなかったよ。高校生になったら買ってもらえるって言ってた」
「へえ、優よく知ってるね」
「あんたが私に話してくれたことだけどね」
「え、そうだっけ?」
えへ、ととぼける空は狙ってやっているのだろうか。そのあざとい笑顔は可愛い。
これだから美形は得をするんだ。
むすっとする私を無視して宮田くんは話を進める。
「さすがに理由までは教えてくれなかったが、蒼井のアドレスやらが欲しいんだと」
「ふうん、でも俺メールとかしないし、電話なんて論外だし。まあアドレスくらいならいいよ。学校まで来られるのも迷惑だしね。そういう人だよね、SNS見る限りそういう人種だと思ったんだけど」
「付き合ってるときも、結構ヒステリックな子だったよ。自己中心だったし」
あまり思い出したくもない。みっともない女だった。これが空の彼女なのか、と数日は唖然と眺めていた。
「よしよしよし、優は記憶力がいいねえ」
ポンポンと頭を撫でられる。どうでもいいことをいちいち覚えててすごいね、と嫌味を言われたみたいで腹が立ったのでその手を思い切り叩き落す。
「ありゃ」と間抜けな声が聞こえたが無視だ。
「宮田くんは花井さんと仲良いの?」
「まさか、俺、ヒステリックに喚く奴は嫌いなんだ」
「そうなんだ、花井さんと連絡取るくらいだから仲良いのかと思った」
「あぁ、先輩の前の彼女でな、とりあえず形だけ交換したんだ」
へえ、先輩のね。世の中は狭いもんだ。
「さっきも蒼井のアドレスの催促をされて困ってたんだ。じゃあ教えても大丈夫なんだな」
「あぁ、うん、おっけー」
「了解、後で文句言っても聞かねえからな」
じゃ、俺部活あるから、と駆け足で去っていった。
「宮田って、良い奴なんだけど腹黒いっていうか、天然でやってるんだろうけど....」
「分かる、素直な子だよね。自分に忠実というか」
「そういうとこが気に入ってる」
ふっ、と悪い顔をして笑う空を横目に欠伸をする。
少し、面白いことになるかもしれない。