表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/122

第13話

翌日、学校へ行き静かに朝読書をしていると聞こえてくる噂話。もちろんその主役は昨日空のコメント欄に爪痕を残した元カノ二人。随分と有名人になっているようだった。


「藤田さんも見た?すごくない?」


隣の席のミキちゃんが目を輝かせながら話しかけてきた。

私は読書を中断させてミキちゃんとの会話を選択した。


「空くんの元カノの二人!やばくない?空くんの元カノって、もっと、何ていうのかな...清楚で優等生っていうイメージがあったんだよね」

「そうなんだ」

「だからあんなギャルだとは思わなくてさ。もしかして空くんギャルが好きなの?」


もう蒼井くんと呼ぶのはやめたらしい。そういえば皆空くんと呼んでいる。定着したのか。

ミキちゃんはギャルという見た目ではないが、恐らく中身はそれに近いだろう。ギャルの中身、だなんて偏見だろうか。いや、しかし私の知っているギャルの臭いがする。


「藤田さんは黒髪でショートで、無表情が多くて真面目っていう感じがするからさ。空くんはそういう子が好きなんだと思った」

「さあ、どうなんだろう、私も空の好みは分からないな」


派手な子は好きじゃないと言いつつも、元カノは派手だったからよく分からない。

ミキちゃんは私から空のタイプが聞けると思っていたのか、落胆の色をあらわにした。


そんなに好みのタイプが知りたいのか。知ってどうするんだ。空が派手好きと知ったらその通りにするのだろうか。空の言うことを真に受けて、自分の嫌いなものでも受け入れるつもりなんだろうか。好きでもない服を着て、好きでもない言葉を使って、好きでもないものを飾って、好きな人に受け入れたいがために自分の好きなものを蔑ろにするのだろうか。とんだ阿呆だ。もし空が派手好きだったとして、それに合わせたとしても、派手なのは何もお前だけではない。そこらへんに派手な女は転がっている。お前でなければならない要素なんてない。「派手が良い」っていうことであって「お前が良い」ということではない。交換可能な存在に成り下がるだけなのに、交換不可能になるわけではないのに。


そこまで考えて、ふと気づいた。これは私たちにも言えることではないか。

空が「ショートヘア似合う」と言ったので私は髪を切った。そこに迷いはなかった。しかしこれは私だけに向けられた言葉であり、「俺はショートヘアが好き」と言ったわけではない。「優はショートヘアが似合う」と、私一人に向けられた言葉だ。そこに交換可能な要素はない。


空は、私と同じものを共有したがる。趣味だったり嫌いなものだったり。私が「あれ好きこれ好き」と言えば空もそうする。しかしそこに、自分を蔑ろにするという考えはない。彼は基本、無関心なのだ。好きな音楽、食べ物、趣味、特にこれといってない。それならば、優と同じものにしよう。そういう考えなのである。彼の根底には無があり、その次に私があるのだ。


そうなると、別に私たちに言えることでもないなと考えた。


「あ、じゃあ友達来たからまた後でね」


仲の良い友達が教室に入ってきたので、ミキちゃんはそっちへ行ってしまった。

私は再び本を手に取って、読書をしようとするが、それは「ねえねえ優」という言葉により阻止された。

私のことを「優」と呼び捨てにするのは空くらいなのだが、声の主は女子だ。聞き覚えのないその声の方を見ると、クラスでも勘違い系女子に分類されていた子たちだった。


「...何?」


誰だったか、少し話をしたことがあると思うが名前を知らない。多分自己紹介はしたことがある。それも入学式の次の日とか、その辺だ。馴れ馴れしく話しかけてきた子だったと思う。


四人組の女子で、リーダーだと思われるポニーテールの子が声をかけてきた。

恐らく、髪をワックスか何かで固めているのだろう。少しテカっている。それに、ピアスをして、スカート丈は規定より短い。パッと見、高校デビューに失敗した子のようにも見える。


「優さ、空くんのコメント欄見た?やばくね?あれ元カノとかマジ?」


やはり馴れ馴れしい。表情は変えずに、答える。


「みたいだね」

「空くんさー、マジであんな子が好きだったわけ?意外なんだけど」


ブスが何を言っているんだろうか。自分が可愛いと思っているのだろうか。あの元カノたちもこの子に「あんな子」とは言われたくないだろう。

私も大概ブスだと思っているが、しかしもう少し自覚してもいいんじゃないか。


「っていうかー、わたしは加奈子が藤田さんと友達なのが驚きなんだけど」

「それ思ったー、空くんとも仲良いんでしょ?何者なの、加奈子ってー」


カナコちゃんというのか。


「え?普通じゃね?空くんは前話したし、めっちゃ良い人だったよ。話も合うしさー」

「えぇー、すごいんだけど」

「さすが加奈子」

「すごくないってぇー、別に普通じゃね?」

「わたしなんて空くんと話したこともないのに、加奈子すごいって」

「空くん?意外と普通に喋ってくれるよー、ねえ、優」


そこで私に話を振るのか。茶番に巻き込むのか。


「あ、う、うん」

「ほらぁ」

「でも加奈子本当すごい、空くんって学校のアイドルじゃんかー。尊敬する」

「いやいや、普通だってぇ。空くんマジで良い人だしさー。話もめっちゃ合うし。結構気が合うんだよねー、ウチら」

「すごいすごいすごい!」


何しに来たの。

これが勘違い系女子と呼ばれる理由。この前山本さんが「鏡見たことあんのかな、誰か見せてやれよー」ってクラスの女子何人かと話しているのを聞いたことがある。

新学期早々もうこの評価を頂いているというのに本人たちは気づいていない。


「じゃあね、優。ちょっと空くんに元カノの話聞いてくるわー」

「えっ、いいなー」

「来る?いいよ。ウチなら空くんと面識あるし、一緒に話してくれるかも」

「行きたい!」

「じゃあ行くよ」


マジですか。ドン引きだ。

それが顔に出ていたのか、この後ミキちゃんや山本さんに散々カナコちゃんの愚痴を聞かされた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ