第12話
空には短期間であったが彼女がいた。彼女たちにあった共通点といえば派手であったことだろうか。イマドキの女子、そんな言葉が似合う子たちだったと思う。眼鏡をかけた地味な子や可もなく不可もない子とも違う。派手な女は好きじゃない、と言いつつ歴代の彼女は派手だった。
「おや、この子たちは確か....空ー」
見覚えのある女子が空のコメント欄を独占している。「空だけに空って」「めっちゃ綺麗」「写真上手いね」「空くんフォローしたよ」というコメントがある中で、彼女たちは一際目立っていた。
一階にいる空を呼び、早く来るよう促す。
ベッドに腰かけ、スポーツ飲料を飲みながら読み進める。
「ごめんごめん、どうしたの」
扉が開かれ、グレーのパーカーに黒のスウェットといういかにも部屋着っぽい服を着て部屋に入ってきた。髪はまだ濡れているので、風呂を上がってすぐだったのか。それは少し悪いことをした。
ちょいちょい、と手招きをして私の横に座らせる。ギシッと音をたててベッドが少し沈む。
「見た?これ」
携帯を差し出すと、どれ?と私の手を取って覗き込む。顔の距離が近いため、シャンプーの香りが鼻を掠めた。うちのシャンプーと同じだ。ちょっとお高い良いシャンプー。そういえば、空の香水も良い香りがする。私の好きな匂いだ。自分は結構匂いフェチなのかもしれない。
「何、これ」
「何って、空のいつぞやの彼女たち」
「何してんのこれ」
「さあ?」
どうやら見ていなかったようだ。彼女たちの投稿は三時間前にされていた。私たちが家に帰った頃だ。
歴代彼女二人が言い争いを繰り広げている。
「つまり?」
「私が空の彼女だったのよ!嘘でしょ、あんたも元カノなわけ?ブッサ、冗談やめてよ元カノさーん。っていう感じ」
「元カノって言ってもあれじゃん、そんなに長く付き合ってないし。なんなら正直なこと言っていい?」
「何?」
「この二人、それぞれ友達とのプリクラをアイコンにしてるけど、俺さ...どっちが元カノなのか分かんないんだけど」
てへっ、と舌を出す空に呆れた。仮にも彼女だったのに、顔も分からないなんて。
「最低」
「だってさー、覚えてないんだもーん」
「いつ付き合ったかも?」
「うん」
「名前も?」
「あー、名前くらいならまだいけるかもしれない」
「へえ、歴代彼女の名前言ってみてよ」
「アヤちゃん、ミカちゃん、ナナコちゃん....あ、四人いたっけ?もう一人は確か、サヤちゃん?」
最低。本当に最低。仮にも彼女だった人の名前も覚えていないなんて。私も正直言っていい?全員名前、かすってもないから。私の方がよく覚えているってどうなの。頭良いくせに、こういうとこは忘れるよね。覚えようが覚えまいが、どうでもいいと思ってるんでしょう。
「朝子ちゃん、里美ちゃん、美鈴ちゃん、佳子ちゃん」
「へえ、よく覚えてるね、何で?」
「はぁ?あんた覚えてないの?空がいちいち私に、俺の彼女の名前何だったっけ?って聞くから私が代わりに覚えたんでしょうが!」
「そうだったっけ?」
「最低」
「ごめんって。それにしても、よくこんなところでバトルするよね。恥ずかしくないのかな。皆見てるわけでしょ」
俺のために争わないでー、状態を「恥ずかしくないのかな?」と笑い飛ばす空。確かに気持ちは分からなくもない。
私が元カノよ、何であんたがしゃしゃり出るの。ブスはひっこめ。私の方が長く付き合ったんだから。
そんなニュアンスを込めた言葉をぶつけあっているのを眺め、目くそ鼻くその争いってこういうことを言うんだろうなと失笑するしかない。お互い、その元カレには名前すら忘れられ、いつの彼女かも忘れられ、今の今まで記憶になかったのに。そう思うと哀れで哀れで仕方ない。
「あーあ、明日友達に何か言われそうだなー」
ブーブー愚痴りながら私のスポーツ飲料を飲む。
「でもさ、明日学校に来そうじゃない?」
「えー、やだよ。俺だってそんな暇じゃないし」
「こういう女ってよく分からない行動するじゃん」
「本当にー?じゃあ、門の前で待ち構えてたら裏から帰ろう」
前付き合っていた恋人がいきなり門の前で待ち構えていたらさすがにドン引きなんだけど。もう高校生なんだし、そういう行動は冷静に考えて控えるべき
でも空の女絡みだ。待ち伏せなんて高い可能性でされるにきまってる。